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Posted by 新矢晋 - 2015.03.09,Mon
長谷部×審神者♀。恋愛どころか忠誠もまだ成立していない。
へし切長谷部が鍛刀された日。







そのかたな、凶暴につき


 それは私が審神者に任じられてからひと月経たないくらいのある日のことだった。
「鍛刀の強度をもう少し上げた方がいいな」
 近侍である歌仙兼定も私と同じ見解らしく、緩く頷く。
「そうだね……押し負けることも増えてきた」
 これまで、炉へ捧げる資材の量は控えめにしていた。枯渇を避けるためだ。だがそろそろ資材にも余裕は出てきたことであるし、短剣よりも重たい刀剣男士が欲しいところである。
 歌仙を伴い鍛刀場へ向かった私は、手元の資料を眺めながら思案する。いきなり大太刀やらを出しても扱いきれないだろう、と程々の量の資材を炉へくべた。
 じわりじわりと焼けていくのを横目に目盛りを確認すると、短剣よりも随分長い待ち時間。少し悩んだ後に支給されている符を炉へ放り込む。ぶわ、と炎が舞い上がってから暫し、ゆっくりと扉が開いてひと振りの刀が現れた。
「……打刀か」
 黒鞘に赤い緒、柄巻と鍔のかたち。拵えを観察して記憶と擦り合わせる。……ああ。
「長谷部国重がひと振り、へし切長谷部だな」
 切れ味凄まじく、黒田に代々受け継がれ現存している筈だから状態も良いだろう。ああ、と歌仙が言うのを背に私はその刀へ手を伸ばした。
 鞘に五指を触れさせる。感覚を広げて、自らの神経を刀と繋げることを想像し、はがねの奥を探る。どこだ。どこにいる。
 刀に宿る、たましい、と呼ばれるもの。それは手を差し伸べた瞬間に飛び付いてくることもあれば、深い深い奥底で眠っていたり、悪ければ審神者を拒むこともある。今回はどうやらどの例でもない。……拒まれてはいないが、受け入れられてもいない。こちらをじっと見ている。
「……応えろ。私がお前の主だ」
 そう呼び掛けた瞬間、ぐ、と手を掴まれたような気がした。
 引きずり出したたましいが桜に似た燐光を撒き、ひとりの青年が現界する。ふわりと広がった紫の司祭平服と黄土色の肩掛けは上品かつ禁欲的な装いに見えるが、ゆっくりと開いた瞼の下からあらわれた淡くけぶる水晶のような目は、一瞬不釣り合いな熱を宿したように見えた。
「……俺を呼びましたね、……主」
 だがその熱はすぐさま消え、青年は薄く笑みをうかべると丁寧な礼をする。
「へし切長谷部、と申します。……主命とあらば、なんでもこなしますよ」
 畏まった態度は好感のもてるものではあったが、同時に、硝子を引っ掻いたような不快感を覚える。何だろう、この青年の目に、その笑みに違和感がある。
「理解が早くて助かる。これから頼むぞへし切、」
「長谷部と」
 刃を差し込むように私の言葉を遮った声は、柔らかではあったが有無を言わせぬものだった。
「長谷部、とお呼び下さい」
「それは刀工の名だろう」
「狼藉に由来する名など、主の唇に乗せるのは恐れ多く」
 よくもまあ「主命とあらば、なんでもこなしますよ」などと言えたものだ。その舌の根も乾かぬ内にこれか、……これがこの青年の、へし切長谷部の傷か。
「では長谷部と呼ぼう。……歌仙」
 黙って検分するように長谷部を眺めていた歌仙を呼べば、衣擦れの音が近付く。
「長谷部にここの案内をしてやってくれ。私は仕事に戻る」
 わかった、と頷いた歌仙は長谷部に歩み寄り口頭で説明を始める。それを背にして鍛刀場を出る寸前、まとわりつくような視線を感じたが、気付かないふりをしてやった。


 数日の間歌仙に長谷部を任せてから、夜に私の部屋へ歌仙を呼び出す。どうだった、と訊けば歌仙は頷いた。
「うん、真面目で勤勉だ。自尊心は強いみたいだね、僕や皆に対しては君への態度より少し尊大になる。まあ、おおむね問題なくやっていけると思う……けれど」
 言葉を濁した歌仙を促すと、そのしなやかな指が唇へ触れる。考えごとをしている時の所作だ。
「……上総守殿に何やら執心しているようだね」
「黒田ではなく?」
 長谷部の本体、つまり刀は黒田拵えだった。あの衣服も黒田官兵衛の信仰に由来するものだろう。それなのに、織田信長に?
「共通の話題といえば上総守殿くらいしかないからね、振ってみたんだけれど……反応が芳しくないというか、態度が急に硬化してね」
 そういえば歌仙の前の主は越中守、細川忠興だったか。彼は織田の家臣である。
「君に相対しているときの礼儀正しさはどこへやら、かなり辛辣なことを言っていたよ」
 ふむ、と相槌を打って考える。そういえば、鍛刀直後の呼び方についての苦言もそれに絡むことだろうか。ならばあの身形は、黒田を象徴するようなあれは、どういうことだろう。刀(かみ)である以上、そのたましいが見目にも影響する筈だ。あるいはあれこそが、彼の弱みを隠す鎧なのだろうか。
「上総守殿については、単純に嫌いなだけかもしれないけれど……」
 武具や道具ばかりでなく、人材の目利きも得意な歌仙にしては珍しい。少し口をつぐんでから、歌仙は私に頭を振ってみせた。
「兎に角、一朝一夕で見極められるような刀でないことは確かだよ。道具として素直なつくりではなさそうだ」
 僕や藤四郎たちは素直だけどねえ、と歌仙は溜め息を吐く。……どうやら一筋縄ではいかない相手のようだ。何より、呼び出した直後のあの目。あれがどうにも気にかかって仕方がない。
「歌仙、お前には悪いが長谷部と近侍を交代しようと思う」
「その心は?」
「……あれは多分、傍に置いておかないと容易く傾く」
「了解」
 不安要素のあるものを目の届かない場所へ置くのは避けたい。何かあればすぐに対処しなければならないし、傍に置くことによって何かわかるかもしれない。
「まあ、本質はともあれ、近侍向きではあると思うよ。よく気がつくし、主に対しての服従度は高い」
 服従、と繰り返せば歌仙は苦笑した。
「うん、忠誠というよりあれは服従だね。君の指示だと言えば絶対に逆らわないし、少々の無理なら通してしまう」
 見習いたいような見習いたくないような、と冗談めかした歌仙は、難しい顔をした私を見て微笑んだ。整った顔に浮かぶ笑みはとても美しいが、それが花のようにあまやかなものではないことを私は知っている。
「彼が太刀や大太刀でなくてよかったよ。何かあれば僕が叩き折ってあげるから、安心してくれ」
 ほんとうに、私の刀は頼もしい刀(おとこ)だ。


「……俺を近侍に?」
「そうだ、不満か?」
 次の日、呼び出した長谷部に近侍への指名を告げると戸惑うように瞳が揺れたが、次の瞬間には誇らしげに目が細められた。
「いいえ。拝命させて頂きます」
 その嬉しそうな表情に嘘はないように見えたが、その喜びが何に由来するものか、私にはまだ判断出来なかった。


《終》

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