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Posted by - 2020.07.06,Mon
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Posted by 新矢晋 - 2015.03.02,Mon
青江と審神者♀。not恋愛。
にっかり青江は脇差である、という話。







刃向う僕ら


「僕を連れていくのかい?」
 不思議そうに瞬きをしたその目は金色にきらめいて、己の主たる審神者を見た。顔にかかる長い髪の先を軽く弄ってから、どうして、と問う男は刀の化身、「にっかり青江」だった。
「審神者が刀を連れるのに理由がいる? 強いて言うなら……荷物持ちかしら」
「ふうん?」
 まあいいけど、と青江は歩き出した審神者のあとへ続いた。


『……で、どこに行くんだい?』
 万屋を通りすぎて歩き続ける審神者に抱えられたまま、青江は天気の話でもするように淡々と訊ねる。
『ずいぶん剣呑な気配がついてきてるけど、それと関係あるのかな』
 黙ったまま歩き続ける審神者の腕の中で、もしひとの姿をとっていたら肩でも竦めそうな溜め息を吐いて、青江は黙り込んだ。審神者はひとつ息を吐いてから、その外套の中に隠すようにして青江を抱えなおした。
 ……町の外周へ向かうにつれ人気は減っていく。建物や地面は実体化させられているものの、人間については中心部にしか配置されていないのだ。完全に周囲から人影がなくなると審神者は足を止め、それを確認したかのように旋風が巻き起こりその中から黒ずくめの男が現れた。
「処罰を受け入れるか、殊勝なことだな」
 帯刀している男はその柄に手を伸ばし、感情のうかがい知れない闇を湛えた目で審神者を見やる。
「審神者でありながら裏切りに身を染めた大罪、上意によってその首を回収する」
 抜き放たれた漆黒の刃を持つ刀を見て審神者が外套の下で青江の柄を握った瞬間、男の姿が目の前からかき消えた。棒立ちの審神者の背後から降り下ろされた一撃は必殺の、筈だった。
 その初撃が弾かれる。
「それで僕なんだね」
 必殺の一撃に割り込んだのは、はらはらと桜吹雪を撒き散らしながら現界した青江だった。
「……上意討ちをされるとき、『脇差でなら刃向かってもよい』」
 風もないのに碧い髪がふわりと揺れる。美しく整った顔が、隠れていた血のように紅い目が、にぃ、と笑みを浮かべた。


「……人にしてはなかなか出来る相手だったけど、あっけないな」
「刀剣男士にひとの身で渡り合えただけで十分すごいでしょう」
 うつ伏せに転がっている男を足でひっくり返して完全に死んでいることを確認し、青江は審神者の方を振り返った。血臭を気にする様子もなく、いつものように穏やかな表情で口を開く。
「作法に則る必要はあったのかい、別に他の刀剣で反撃したって構わないじゃないか」
「最後の礼儀みたいなものよ、……もう彼らの元からは離れるのだから」
 義理堅いことだね、とあきれ半分に言った青江は髪の毛の先を軽く指に巻き付けてから審神者を見詰めた。審神者は一瞬怯むように口ごもり、それから、
「……訊かないということは、気付いていたのね」
 と囁くように言った。
「ああ、だって」
 ぐいと審神者に顔を寄せ、その首筋で、すん、と鼻を鳴らしてから青江は口角を吊り上げた。
「……だって君は、あいつらと同じ匂いがする」
 ――熟れ落ちそうな果実の匂いだ。
 耳に吹き込まれた甘い声に審神者は身震いし、青江の胸を押し返す。
「それなら、どうして」
 ぱちくりと瞬きをした青江は首を傾げ、どうしてそんなことを訊かれるのだろう、と言いたげな不思議そうな顔をした。
「僕は脇差だからね、君を守らないと」
 少しの間の後、審神者は長く息を吐いた。その様子を見て、くっ、と喉を鳴らして笑う青江から目を逸らし、外套を体に引き寄せる。
「それで、これからどうするんだい?」
 首を傾げる青江の髪が揺れる。その美しさから目を逸らしたまま、審神者は少し考え込んだ。
「そうね……皆をきちんと天の座へ還すくらいの猶予はあるわ」
 その後は?と問い詰めてゆく青江の表情は穏やかだが、どこか不穏だ。楽しそうというか、嬉しそうというか、兎に角この場には不釣り合いだ。
「きっと追っ手が来るね。君、あれを一人で倒せるの?」
 口ごもる審神者を見下ろして、青江は、勿体ぶったような、悩むようなふりをしてから提案する。
「……じゃあ、僕がついていこうか」
「え?」
 思いもよらない言葉にぽかんとした顔で青江を見上げた審神者に、青江がにっこりと笑いかける。
「僕じゃ不満かい?」
「いえ、……でも、もう私は歴史を守る審神者じゃないのよ」
「僕にとっては些細な変化だよ。僕には変えたい過去も、変えたくない未来もない。僕は単に敵を切るための道具で、主を守るための道具で、そして……今の主は、君」
 それに、と付け加える青江が楽しそうなのは、ああ、戦の前に似ている。
「君についていった方が楽しそうだ」
 ――血のにおいを、戦場の気配を感じ取ることについて彼はとても優れている。
 下手な情よりもよほどわかりやすい、だがけして理解はされないだろう理由を言い放つ青江は薄く笑みを浮かべたまま。
 戸惑いながらも審神者が手を差し伸べると、青江は迷う様子もなくその手に手を重ねた。するりと体がほどけて刀の形になり、審神者の手に握られる。
『うまく使ってくれよ』
 審神者は、……元審神者はその脇差を見下ろして、少し困ったように眉を下げた。


《終》

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