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Posted by 新矢晋 - 2011.09.26,Mon
グレオニー護衛就任中。
知力寄りで社交界の苦手な未分化レハトが、グレオニーの為におめかしを頑張る話。
ユリリエと仲良しのようです。

宴に至る、前の

 鏡石の向こうで私を見詰めているのは、冴えない顔色の子供。額に輝く徴も白々しく、溜め息が止む事は無い。
「あらレハト様、どうかなさって?
 そのようなお顔をなさっていては幸せが逃げていきますわよ」
 よく聞き覚えのある声。きらきらとした衣装部屋の空気の中にあってなお華やかな彼女は、私の姿を見付けると不思議そうに小首を傾げた。
 ――それはそうだろう。図書室や礼法室ならまだしも、衣装部屋に私が居る事は珍しい。しかも鏡台の前に座って物憂げに溜め息など吐いていては、彼女でなくとも不思議に思うだろう。
 私と彼女……ユリリエは違う人種ではあったが、親しく付き合っていた。私には馴染みの無い貴族の立ち居振る舞いを教わったり、愛についての談義をする仲だ。
 だから私は、この憂鬱の種をユリリエに相談する事にした。つまり――舞踏会での装いについて悩んでいるのだと。
 私は舞踏会に参加した事が一度しか無い。その時は顔見せだけしてほんの少しで帰り、装いも普段の衣装に上着を足したくらいだった。もう二度と参加するつもりはなかったし、参加するとしても以前と変わらない装いで構うまいと思っていたのだが事情が変わった。
 ……今回は、彼が共するのだ。貴人付きの衛士としての、ああいった場での態度を学ぶのだとか。そうなれば、私がみすぼらしい格好をするわけにはいかない。
「レハト様、私建て前は嫌いでしてよ。こと、『そういった』事に関しては」
 何もかもを見通すようなユリリエの瞳に、私は言い返そうとしたが喉から漏れたのは呻き声だけ。くすくすと笑われて頬に血が集まるのがわかる。
「気に入って頂きたいのでしょう、美しいと思われたいのでしょう?
 それは当然の感情ですわ、私に隠す必要などなくてよ」
 ――彼女には一生勝てる気がしない。降参した私は、……つまり彼に好印象を与えるような、私に似合うような装いに悩んでいるのだと白状した。
 ユリリエの瞳がきらりと光った、ような気がした。
「宜しければ私がお見立て致しましょうか?
 レハト様によく似合うものを選んでみせますわ」
 脳裏を過ぎったのは、もう一人の寵愛者と並ばせられて、彼女に飾り立てられいじり回された記憶。
 しかしユリリエの審美眼は確かなものだし、信用出来る。おずおずと頷いた私に、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「最近、よく衣装部屋へ通っておいでですね」
 廊下を歩みながらそう口を開いた護衛の青年の足取りには大分慣れが見えてきていた。……私の部屋と図書室ばかりを往復させられていた彼が、衣装部屋への道もよく歩かされるようになったのは最近になってからだ。
 理由は言うまでもなく、ユリリエのお見立てに付き合うついでに立ち居振る舞いの指導をされているのだが……いつも部屋の外で待機している彼には知る由も無い。
 しかし、今日は彼にも付き合って貰わねばならない。衣装の仕立てが終わり、これで漸く解放されたと安堵しかけた私に向かってユリリエがにこやかに言い放ったのだ。
 ――では、あの方の意見を窺わなくてはね。
 不承不承頷いた私だったが、お披露目当日である今日になってもまだ彼に言い出せていない。さり気なく、勘ぐられないように誘う切り出し方がわからない。弁論術はけして苦手ではないのだが、その、彼相手だと調子が狂うのだ。
 ちら、と隣を見上げると、丁度こちらを見下ろしていた彼とばっちり目があった。
「あ、……えっと、何か?」
 はにかむように微笑んで尋ねてくる彼に、言うなら今しかないと決心する。つられてこちらの顔まで熱くなりそうなのをなんとか抑えながら、私は彼に切り出した。
 今度の舞踏会へ着ていく衣装が仕上がった事、色々な意見が聞きたいので彼……グレオニーにも見てほしい事。天気の話でもするように言えた、と思う。
 グレオニーは少し戸惑うように眉を下げたが、自分で良いならと承諾してくれた。内心安堵しながら衣装部屋へと彼を連れて行くと、当然のように待ち構えていたユリリエの姿を認め彼の表情が引きつった。
 ユリリエは動じる事もなく優雅な挨拶をこなし、私を隣室へと追いやる。……私は、心細そうなグレオニーの視線を背中に感じながら隣室へと移動した。
 そこでは私の部屋付きであるサニャが、衣装の準備をしてくれている。用意されているのは二種類、男物と女物だ。「両方楽しめるのは今だけですもの」と瞳を輝かせたユリリエに見立てられたそれらは確かに上質で趣味が良い。
 まずは男物から着る事に決め、サニャに手伝ってもらいながら着替える。湖のような深い蒼の布地で仕立てられた礼服は、鳥の尾のように裾が長いのが特徴で、袖口にはフリルがあしらわれている。
 ――まるでどこぞの貴族子弟のように装いを変えた私が部屋へ戻ると、ユリリエはうっとりと瞳を細め、グレオニーは感嘆混じりの溜め息を零した。
「流石レハト様は元が良いですから、そういった格好もお似合いですね」
 にこやかに言うグレオニーの表情からは偽りの気配は感じられない、何とか見られる程度にはなっているようだ。内心胸を撫で下ろす私とグレオニーとを見比べてから、ユリリエが口を開く。
「本当によくお似合いですわ、レハト様。私の恋人としてお連れしたいくらい」
 ――ユリリエの言葉に、グレオニーの顔色がさっと変わった。青ざめた顔で私とユリリエを見比べ、何か言おうとしているのか口を開いては閉じを繰り返す。
 結局諦めたらしく、心なしかしょんぼりと肩を落としたグレオニーの様子を気にも留めず、ユリリエはころころと笑いながら私に目配せをした。
「その様子ですと、衛士様はもう一つの衣装がお気に召すのではないかしら?」
「え」
 虚を突かれたようなグレオニーの声を背に、私は隣室へと引っ込み服を着替える。控えていたサニャに手伝ってもらいながら袖を通すのは、女物のドレスだ。
 薄手で艶のあるクリーム色の布地を使い、胸から腰にかけてのドレープで未分化の身でも女性らしい身体の線を出せる、らしい。ユリリエの受け売りだが。髪はうなじが見えるように結い上げるだけにしておく、本番があればもう少し飾るとか……面倒だ。
 着替え終わった私が衣装部屋へ戻り二人の前に姿を現すと、ユリリエは満足げに頷き、グレオニーはぽかんと口を開けた。
 ――急に恥ずかしくなってきた。こんなドレスなんて着るのは初めてだし、ユリリエはまだしもグレオニーにまでまじまじと見詰められて身が縮みそうだ。
「レハト様、よくお似合いですわよ。本当、どちらに致すか迷いますわね」
 ユリリエはにこにこと私へ声をかけてくるが、一方のグレオニーは黙り込んだまま。矢張り、田舎から出て来た未分化の子供ふぜいが、こんな風に着飾ったところで無意味だ。ましてや、城で働き目の肥えているだろう彼に気に入られたいなど、
「あの!」
 ……俯きかけた私が顔を上げると、グレオニーが頬を上気させ何やら必死な様子で訴えてきた。
「俺、やっぱりレハト様は女性を選択なさるべきだと思います!
 いえ、あの、そりゃあレハト様が後悔なさらないような選択が一番ですけどっ」
 熱っぽい目で私を見詰めながら語るグレオニーに気圧されて黙っていると、更に続く言葉。
「だってレハト様はこんなにお綺麗ですし、成人なされたらきっともっとお美しくなられますし!
 俺、小さい頃はお姫様を守る騎士に憧れてて、いやだからレハト様に女性を薦めてるわけじゃないですけど!断じてないですけど!
 ……ああもう俺何言ってんだろう」
 熱弁をふるっていたグレオニーは、髪をぐしゃぐしゃと掻いてから勢い良く頭を下げた。
「変な事言ってすみません!あの、俺部屋の外に出てますから、なにかあったら呼んで下さいっ」
 そして殆ど走るように部屋を後にするグレオニーを為すすべもなく見送って、私は溜め息を吐いた。成り行きを黙って見守っていたユリリエは澄まし顔。
「レハト様、お顔が真っ赤ですわよ」
 指摘されて頬に手を当てれば、熱い。……仕方ないだろう、外見について誉められる事など滅多に無いし興味も無いが、彼からあんな風に言われては人並みに照れもする。
 ……横目に確認したユリリエは心底楽しそうににこにこと笑っていて、私は文句を言う事も出来ない。
「どちらをお召しになるか、迷う必要がなくなりましたわね。舞踏会でお会い出来るのを楽しみにしておきますわ」
 優雅に一礼して立ち去るユリリエを見送ってから、私はもう一度溜め息を吐き、普段着に着替えるべくサニャを呼んだ。


 ――沈黙が、痛い。
 衣装部屋を後にして自室に向かう私たちは、あれから一言も言葉を交わしていなかった。何度か傍らのグレオニーを見上げてみても、彼は緊張した顔で前を向いているだけ。
 あの角を曲がれば、あとは階段を上るだけ。その前に何か言わなければ、と思うけれど言葉が出ない。焦った私の口から滑り落ちたのは、「女主人の方が好ましいのか」というストレートな問いだった。
「は、……え?」
 妙な声を出して振り向いたグレオニーは、困惑しきった顔をしていた。が、私の目を見て息を呑む。
「あー、や、いや、あのですね……」
 迷うように天井を見上げた後、再び私に向き直ったグレオニーは真剣な顔をして姿勢を正す。
「俺、いや私は、レハト様に忠誠を捧げる為に居ます。
 忠誠心に性別は関係ありません、ですから、……俺は、レハト様がレハト様のままなら、どうだって……」
 ――それならば何故、瞳の奥に苦悩の色がちらつく。いつも落ち着きが無いくせに、何故こういう時だけ完璧な臣下の礼をとる。
 けれど私にはそれを問い質す資格も勇気も無く、視線も合わせずにありがとうと囁くだけなのだ。

 嗚呼、だから、そんな顔で笑わないでほしい!


《幕》

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