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Posted by 新矢晋 - 2015.03.06,Fri
歌仙と審神者♀。not恋愛。
忠興公の話をする二人。








あなたの主の話


「三斎さまのお話を聞きたいの」
 縁側に腰掛け短冊を前に思案していた僕に声をかけてきた主は、おずおずとそう言った。
「……忠興公の?」
 筆を止めて見上げると、主は小さく頷いてから膝を折る。主が僕の前の主について尋ねてくるのはこれが初めてで、そういったことには興味が無いものだと思っていたのだが。
 何より、「家臣を三十六人斬った」ということばかりが先行して苛烈な気狂いと思われている忠興公を、主はあまりよく思っていないのだと思っていた。これは単なる好奇心だろうか、前の主について好意的もしくは第三者的に語ることの出来る刀剣は少なく、僕くらいにしか話を聞けないからだろうか。
「どうしてそんなことを訊くんだい」
 膝を揃えて僕と対面している主は、僕の声が妙に平坦であることに気付いたのだろうか。少し口ごもった後、それでも一度口にした言葉に引っ込みがつかないらしく、困ったように眉を下げて僕の顔を見た。
「その、未熟ではあるのだけれど……一応私もお茶を学んでいて、三斎流の祖である三斎さまのことが知りたいの」
「……へえ」
 これは驚いた。主の口からその名を聞くとは。遥か未来においても、忠興公の名は、その茶の道は残っているのか。彼の愛したものは残っているのか。僅かに目を瞠った僕に気付いているのかいないのか、主は言葉を続ける。
「利休七哲に数えられる、かの三斎さまのこと……あなたなら当時のことも知っているのではないかと思って」
「利休七哲?」
「あ……そうね、当時は呼ばれていなかったものね。ええと……後世になってから、利休どの高弟七人をそう呼ぶようになったの。蒲生氏郷、古田織部、芝山宗綱、瀬田正忠、高山長房、牧村利貞……そして、細川忠興」
 利休どのの高弟七人。たった七人のうちに数えられ語り継がれている忠興公の名。あの頃はむしろ他の……織部などに比べれば評価が低かったというのに。
「忠興公の話といっても……僕は当時ただの刀だったからね、そんなに詳しくはないよ」
「それでも私に比べれば近くにいたでしょう?」
 小首を傾げて僕の顔を覗き込む主は、何だか寝物語を要求する子供のようだ、と思い小さく笑ってしまった。その期待にこたえるべく記憶を総ざらいし、僕の覚えている限りのことを話すと主はにこにこと耳を傾ける。
 ああ、楽しい。あのひとのことを話すのは久し振りだ。そういえばあんなこともあった、こんなこともあった、と話しているうちに楽しいことばかりではなくなって、あまり触れたくはないことに辿り着く。
「……家臣を三十六人、斬ったといっただろう」
「ええ」
「その経緯を知っているかい」
「……? いいえ」
 不思議そうに僕を見る主の顔に怯えの色は見えず、下世話な好奇心を抱いているような表情でもない。だから僕は抵抗なく、あの記憶を思い出していた。

  *  *  *

「私に呼び出された理由がわかるか」
 当時既に隠居していた細川忠興はその隠居場にひとりの男を呼び出し、面会していた。その男は忠興の子であり現在の細川家当主忠利の家臣であった。
「……いいえ、皆目見当がつきませぬ」
「そうか、ならば問答は不要だな」
 鷹揚に座っていた忠興は立ち上がってその手に掴んだ刀を抜き放ち、男の顔色が変わった。
「貴様は手討ちとする。細川に利を与えぬ者は、我が息子の傍には要らん」
 何かを言う暇もなく、男はひと太刀に斬り殺された。それが一人目。
 ……最終的に三十六人に及んだ手討ちを、忠興は喜びも悲しみもしなかった。息子の、当主の傍に、害悪(この場合不義を働く家臣である)を置くわけにはいかなかった。細川の繁栄が、存続が、彼の生きる意味だった。
 最後に手元に残った刀を眺めた忠興は、笑みを浮かべて囁いた。
「三十六……ああ。歌仙。そうだ、お前を歌仙と名付けよう」
 うつくしい名前だろう、と呟く忠興は、恍惚でも高揚でもなく、どこまでも冷徹な眼差しでもって刀身を、その向こうの何かを見ていた。
 そしてこの時、「歌仙兼定」という刀が生まれた。

  *  *  *

「忠興公はね、とても冷徹なひとだったよ。苛烈で、激情家で、殺すことを躊躇わないひとだったけれど……」
 残酷なくらい冷徹で、でも、真っ直ぐなひとだった。と、静かに言う僕を見る主は真剣な表情で、余計な口を挟まなかった。
「歌仙は三斎さまのことが好きなのね」
 暫くの間を空けてから言われた言葉に、僕は黙って頷いた。主は嬉しそうに目を細めて、僕の頭に手を伸ばして髪を撫でた。
「私も三斎さまがもっと好きになったわ、だってあなたの好きなひとだもの」
 主の手は温かで優しい。その心地よさに少し心をほどけさせた僕は、軽口を叩く余裕も出てきた。
「でも、忠興公は茶人としてはそれほど評価は高くなかったよ」
 利休どのは、千利休という茶人は、弟子たちにいつもこう教えていた。「自分を極め、それを表現しろ」。独自性を出せ、自分でなければ出来ないことをしろ。だからこそ古田織部は評価されたのだ。
 だが忠興公は、その点、利休どのに背いていた。彼は独自性など求めはしなかった。利休どのの作法に従い続けた。それは単なる模倣であり、師の教えに相反することだとされても、彼はただ忠実であり続けた。忠実で、……愚直と言っても構わないくらいに。
 武人の茶の湯というものに拘り、武を投げ出してまで茶に傾倒する者を唾棄し、自分の本分は戦働きだと誇りを持ち続け、利休どのに逆らってまで茶室に刀を持ち込み、そのくせ利休どのを最後まで敬愛していた忠興公。そのときはまだ刀の身であった僕には彼を理解することは出来なかったが、今ならわかる気がする。彼はとても純粋で、自分の愛するものに正直だったのだ。
 だから忠興公が後世で評価されているということを知って、嬉しくもあったが不可解にも感じた。彼の信じるものが理解されたのは喜ばしいことだが、何故。
「勿論、文化人としては一流と認められてはいたけれど……茶人としては利休どのの模倣にすぎないと、口さがない者に言われていたね」
 自嘲めいた口ぶりになってしまっただろうか。しまった、と口を噤んだ僕を、主はきょとんとした顔で見た。
「どうして? 三斎さまが忠実に利休どのの教えを継いで下さったから、私たちは彼に思いを馳せることが出来るんでしょう?」
 今度は僕がきょとんとする番だ。……ああ、そうか、そういう考え方をしてくれたのか。じわじわと胸に膨らんでいくのは喜びだ、かつての主、忠興公が正当な評価を受けられたことに対する喜びだ。……そしてもうひとつ、今の主と昔の主、両方を敬愛し続けられる喜びだ。彼を僕と同じように好いてくれるひとがいる喜び。そのひとに仕えられる喜び。
「また、三斎さまのお話しましょうね」
 ああ、と頷いてみせると主は花のように笑った。


《終》

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