Posted by 新矢晋 - 2011.10.17,Mon
「父と名乗る男」後トッズを監禁した女分化レハト。
トッズ愛情ルート中に印象反転してしまった感じ?
トッズ愛情ルート中に印象反転してしまった感じ?
つかまえた
なんて茶番だろう。
王城での仕事を終えて屋敷に戻った私が向かったのは、寝室の隣にある彼の部屋だった。……部屋、と表現はしたものの用途は牢獄。出入り口は召し上げた衛士に見張らせ、扉の鍵は私だけが持っている。
部屋の中に入り扉を閉めると、背後からのし掛かるように凭れてくる重み。耳元で囁く声は薄気味が悪いくらい甘ったるく、胸焼けがしそうだ。
「お帰りレハト、会いたかったよー」
彼は、……トッズは、変わらず私に愛を囁く。飼い殺しですらない、部屋に閉じ込められ厳重に監視され、物々しい手枷で両手を封じられても、なお。
――私にはトッズの思惑など理解出来ないしする気もないが、罵られるよりは甘く囁かれる方がよいので放っておく。私は未だに、ふっ切れずにいるのだ。
首飾りにつけた小さな鍵を胸元より引き出すと、理解した様子で彼は両手を持ち上げた。金属に擦れた手首が傷つき爛れ始めている。……今日の訪問はこの傷の治療が目的でもあるのだ。そっと手枷を外して傷を桶のぬるま湯で洗い、清潔な布で拭う。
トッズは大人しく手当てを受け入れて、逃げ出す素振りすら見せない。軟膏を塗り包帯を巻き付ける段になってようやく口を開いたかと思えば、
「レハトって、ものすごーく俺の事好きだよね」
この与太である。
胡散臭いものを見る目で見上げてやると、大袈裟に溜め息を吐いてから苦笑する。
「だって、こんなのレハトが手ずからする事じゃないでしょ。無防備に拘束まで解いちゃって、俺が暴れたらどうすんの?」
言うや否や、ぐいと顎を掴まれ口付けられた。巻きかけの包帯が床に落ちる。
呼吸さえ覚束無いくらい、執拗に口内を蹂躙され唾液さえ啜られて。足元がふらつけば間髪入れず腰を抱かれた。
「……なんて顔してるの、」
囁き声の意味を理解する前にまた唇を塞がれて、くらくらと目眩がするのは酸欠のせいだ。他に理由なんて無い。気がつけば背中がベッドに押し付けられていて、彼の頭が私の首筋に埋められていた。
――軽く胸を押し返すくらいではびくともしない。咎めるように何度か名を呼ぶと、漸くトッズは上体を起こして私を見下ろした。……蛇のように瞳を細めて、唇を舐める。
「レハトは、俺に憎まれたいんだよね。でもさあ、こんな優しい監禁程度じゃ俺の愛は削りきれないよ、もっとひどい事しないと」
ああ、そうして何もかも見透かしている癖にこの男は私を愛していると嘯くのか。腹立たしくて、泣きたいくらいに、いとしい。
――二枚舌、リップサービスがお上手な事と罵っても、彼のにやにや笑いは崩れない。それどころか、子供を宥めるように額へ口付けられる。
「今更何言っても信じてくれないよね、うん、トッズさん一生の不覚だわ。
……だから、これからは俺の一生、ぜんぶレハトにあげる。いらないって言ってもあげるから、ね」
この、男は……!
気が付いたら、枕で相手に殴りかかっていた。辛うじて泣き喚くのだけは堪えたものの、口汚い呪いの言葉を吐きながら枕を叩き付ける私はさぞ醜く、滑稽な事だろう。
――今更、今更その言葉を言うのか。いつもいつも薄っぺらい言葉で子供の私を都合良く一喜一憂させて、さぞ気分が良かっただろうが、大人の私はそんな言葉なんて信じない。……信じられない。
うわー、だのとわざとらしい悲鳴をあげながら大人しく殴られていたトッズだったが、不意に真顔になると私から枕を奪い取った。醒めた目が私を見詰める。
「あのさ、レハト。殴るならもっと酷くしてもいいんだよ?
俺はそれだけの事をしたし、レハトになら殴られたって平気だよ」
一瞬動きを止めた私を、トッズは力一杯抱き締めた。表情は見えないが、声は明るい。
「なんてね、レハトは優しいからそんな事出来ないよねー!
でもトッズさんたまにはいじめられるのもいいかな、みたいな」
――私は、本当に、この男が何を考えているのかわからない。ただ少なくとも、私を愛してなどいない事だけは知っている。
* * *
暴れ疲れて眠ってしまった麗しの寵愛者様を見下ろして、俺は深々と溜め息を吐いた。
こんな状況になっても逃げようとしないんだから、俺がレハトに参っちゃってるのは間違いない。外れたままの手枷を横目にレハトの髪を撫でて、唇を緩める。
――大体、逃げようと思えば初日から逃げている。その頃はまだ爺さんが居たが、爺さん的にはむしろ俺に逃げて欲しそうだったから楽に逃げられただろう。……ごめんね爺さん、俺、レハトを手放すつもりはないの。
そう、だって、俺がこうして捕まえられている限り、レハトは俺の事しか考えないでしょう?
レハトが王城へ出掛ける時、時々こっそり抜け出して勝手に護衛してるけど、群がる貴族のご子息方をあしらう手管も大分上達してるみたいで一安心。仕事を終えればすぐに鹿車に飛び乗って帰宅、真っ直ぐ俺の部屋へ来るんだから浮いた話などある筈もない。
俺が大人しく部屋の中で拘束されているのを見て、安心したような、泣きたいような顔をするレハトはとても可愛い。……薄々感づいてるのかな? 大丈夫、俺は逃げたりしないよ、だからレハトも俺から逃げないでね。
――眠るレハトの首にそっと手をかける。
殺すのさえこんなに簡単なくらい油断しきっている、愛しい愛しい寵愛者様。
ねえ、捕まったのはどっちだろうね?
《幕》
なんて茶番だろう。
王城での仕事を終えて屋敷に戻った私が向かったのは、寝室の隣にある彼の部屋だった。……部屋、と表現はしたものの用途は牢獄。出入り口は召し上げた衛士に見張らせ、扉の鍵は私だけが持っている。
部屋の中に入り扉を閉めると、背後からのし掛かるように凭れてくる重み。耳元で囁く声は薄気味が悪いくらい甘ったるく、胸焼けがしそうだ。
「お帰りレハト、会いたかったよー」
彼は、……トッズは、変わらず私に愛を囁く。飼い殺しですらない、部屋に閉じ込められ厳重に監視され、物々しい手枷で両手を封じられても、なお。
――私にはトッズの思惑など理解出来ないしする気もないが、罵られるよりは甘く囁かれる方がよいので放っておく。私は未だに、ふっ切れずにいるのだ。
首飾りにつけた小さな鍵を胸元より引き出すと、理解した様子で彼は両手を持ち上げた。金属に擦れた手首が傷つき爛れ始めている。……今日の訪問はこの傷の治療が目的でもあるのだ。そっと手枷を外して傷を桶のぬるま湯で洗い、清潔な布で拭う。
トッズは大人しく手当てを受け入れて、逃げ出す素振りすら見せない。軟膏を塗り包帯を巻き付ける段になってようやく口を開いたかと思えば、
「レハトって、ものすごーく俺の事好きだよね」
この与太である。
胡散臭いものを見る目で見上げてやると、大袈裟に溜め息を吐いてから苦笑する。
「だって、こんなのレハトが手ずからする事じゃないでしょ。無防備に拘束まで解いちゃって、俺が暴れたらどうすんの?」
言うや否や、ぐいと顎を掴まれ口付けられた。巻きかけの包帯が床に落ちる。
呼吸さえ覚束無いくらい、執拗に口内を蹂躙され唾液さえ啜られて。足元がふらつけば間髪入れず腰を抱かれた。
「……なんて顔してるの、」
囁き声の意味を理解する前にまた唇を塞がれて、くらくらと目眩がするのは酸欠のせいだ。他に理由なんて無い。気がつけば背中がベッドに押し付けられていて、彼の頭が私の首筋に埋められていた。
――軽く胸を押し返すくらいではびくともしない。咎めるように何度か名を呼ぶと、漸くトッズは上体を起こして私を見下ろした。……蛇のように瞳を細めて、唇を舐める。
「レハトは、俺に憎まれたいんだよね。でもさあ、こんな優しい監禁程度じゃ俺の愛は削りきれないよ、もっとひどい事しないと」
ああ、そうして何もかも見透かしている癖にこの男は私を愛していると嘯くのか。腹立たしくて、泣きたいくらいに、いとしい。
――二枚舌、リップサービスがお上手な事と罵っても、彼のにやにや笑いは崩れない。それどころか、子供を宥めるように額へ口付けられる。
「今更何言っても信じてくれないよね、うん、トッズさん一生の不覚だわ。
……だから、これからは俺の一生、ぜんぶレハトにあげる。いらないって言ってもあげるから、ね」
この、男は……!
気が付いたら、枕で相手に殴りかかっていた。辛うじて泣き喚くのだけは堪えたものの、口汚い呪いの言葉を吐きながら枕を叩き付ける私はさぞ醜く、滑稽な事だろう。
――今更、今更その言葉を言うのか。いつもいつも薄っぺらい言葉で子供の私を都合良く一喜一憂させて、さぞ気分が良かっただろうが、大人の私はそんな言葉なんて信じない。……信じられない。
うわー、だのとわざとらしい悲鳴をあげながら大人しく殴られていたトッズだったが、不意に真顔になると私から枕を奪い取った。醒めた目が私を見詰める。
「あのさ、レハト。殴るならもっと酷くしてもいいんだよ?
俺はそれだけの事をしたし、レハトになら殴られたって平気だよ」
一瞬動きを止めた私を、トッズは力一杯抱き締めた。表情は見えないが、声は明るい。
「なんてね、レハトは優しいからそんな事出来ないよねー!
でもトッズさんたまにはいじめられるのもいいかな、みたいな」
――私は、本当に、この男が何を考えているのかわからない。ただ少なくとも、私を愛してなどいない事だけは知っている。
* * *
暴れ疲れて眠ってしまった麗しの寵愛者様を見下ろして、俺は深々と溜め息を吐いた。
こんな状況になっても逃げようとしないんだから、俺がレハトに参っちゃってるのは間違いない。外れたままの手枷を横目にレハトの髪を撫でて、唇を緩める。
――大体、逃げようと思えば初日から逃げている。その頃はまだ爺さんが居たが、爺さん的にはむしろ俺に逃げて欲しそうだったから楽に逃げられただろう。……ごめんね爺さん、俺、レハトを手放すつもりはないの。
そう、だって、俺がこうして捕まえられている限り、レハトは俺の事しか考えないでしょう?
レハトが王城へ出掛ける時、時々こっそり抜け出して勝手に護衛してるけど、群がる貴族のご子息方をあしらう手管も大分上達してるみたいで一安心。仕事を終えればすぐに鹿車に飛び乗って帰宅、真っ直ぐ俺の部屋へ来るんだから浮いた話などある筈もない。
俺が大人しく部屋の中で拘束されているのを見て、安心したような、泣きたいような顔をするレハトはとても可愛い。……薄々感づいてるのかな? 大丈夫、俺は逃げたりしないよ、だからレハトも俺から逃げないでね。
――眠るレハトの首にそっと手をかける。
殺すのさえこんなに簡単なくらい油断しきっている、愛しい愛しい寵愛者様。
ねえ、捕まったのはどっちだろうね?
《幕》
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