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Posted by - 2020.07.06,Mon
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Posted by 新矢晋 - 2015.01.30,Fri
長谷部×審神者♀。
忠義をそろそろと拗らせつつある長谷部。
モブ審神者出ます。







焼けつく


 ――鋳溶かされる方が余程しあわせだと、思っていた。
「主が、そう仰ったのですか」
「そうだ。ここに委任状もある」
 本部から内部監査に来たというその男のことを、俺は信用していなかった。だが、その手にはたしかに主の印が押された書類がある。左上に小さく書かれた「錬結」の文字。
「あの天下五剣の研きとなれるのだ、誉れ高いことだろう。さあ」
 引き開けられた重たい扉の向こうの闇に、ごうごうと燃え上がる炎だけが浮かび上がっている。男に先導されるまま部屋のなかに足を踏み入れてしばらくすると、目が暗闇に慣れ、炎が眩しいくらいだ。
 部屋の中央にあるのは、永遠に燃え尽きることのない霊炎を抱く炉。俺たちのうつわを焼き、「斬る」という概念のみを取り出す装置。取り出された概念は他の刀剣へ移植され、それによって刀剣は磨き上げられてゆく。
 俺も幾度か移植を受けたことはある。あの光を受け入れるたび己が鋭くなっていくのは、けして悪い感覚ではなかった。
 案外と静かな気持ちだ。無駄に折られるわけでも、捨てられるわけでもない。ただ、自ら現界を放棄し刀のすがたとなった俺を握った男の手に、耐え難い嫌悪感をおぼえた。
 感慨にふける暇もなく、無造作に炉の中へ放り込まれる。とろとろとうつわを蝕むそれは、直ぐ様俺を砕くものではない。まずは周囲を取り巻く霊力を剥ぎ落とすところからだ。
 進みを早くするべく緊張を解き、炎に身を委ねようとした……その瞬間、俺のからだを誰かの手が掴んだ。そのまま一気に引きずり出される。
 その手が何故だか心地好かった、とぼんやり考えている俺の真横が何やら騒がしい。男の声と女の声が言い争っているようだ。
「書類を偽造してまでどういうつもりだ!」
「いつまでも打刀なぞ大事にして、さっさと三日月宗近なり石切丸なり磨き上げて早々に敵を殲滅しろと再三通達があった筈だ」
「これは私の刀だ! 次にこんな真似をしてみろ、役員の一人も道連れにしてから喉を突いてやると伝えておけ!」
 そんなようなやりとりの後、ひとつの気配が遠ざかり、ひとつの気配が近付いてくる。
「長谷部」
 まだ人間の肌を焦がすくらいには熱を持っているはずの俺のからだに触れる指。
「こんな……鞘だけか? 中は……」
 鞘から抜き放って刀身を確認する眼差しを感じる。ぐ、と強く握りしめられて、起きろ、と呼ぶ声がした 。
 そうだ、これは主の声だ。意識がはっきりして、呼ばれるまま現界した俺はくちびるに笑みを乗せようとして凍り付く。
 主の服の右袖がほぼ焼け落ち、胸元まで煤けている。髪の焦げたような匂いもする。なによりそのあらわになった右腕は焼け爛れ、ところどころ皮が捲れている有り様だった。
 ああ、このひとは、あろうことか、素手で俺を炉の中から掴み出したのか……!
 気付いた瞬間、主の体を横抱きにして部屋を飛び出す。
「薬研! 薬研ッ、何人使ってもいいから火傷の治療の準備! 今すぐにだ!」
 部屋から顔を出した薬研はこちらの様子を確認すると、ぎょっとした様子で駆け出した。そして応急処置を施した後に本部へ連絡を入れ、主は療養することとなった。
 主ははるかに医術の発達した時代の人間であり、支援も受けられるし、一旦未来へ帰って治療をしてからまだ時間を遡ることもできる。が、俺にはよくわからないけれどその辺りには様々な都合やら上の意向やらがあるらしく、主は本丸で仕事をしながら定期的に本部で診断を受ける、という中途半端な療養をしていた。
 薬は、よくわからない筒のようなものを二の腕に押し付けて撃ち込む形状のもので、その音を聞くたび主が刺されたように感じていまだに慣れない。片腕が動かないながらも涼しい顔で仕事を片付ける主は、けして弱ったところなど見せず、余計な介添えも許さず、重傷を負っているとはとても思えない。
 だが、ほんの少しだけ、俺が手伝いを許されている事柄がある。それは着替えや、あるいは湯浴みなどといった、仕事には関係ない日常の些事だ。
「長谷部」
「はい」
 日が暮れ、一日の仕事を終えた主に随伴する。柔らかな肌着と手拭いなど、湯浴みに必要なものを持って風呂場へ入ることに抵抗はない。最初のうちは、いくら刀とはいえ男のすがたをしたものが供するのはどうか、せめて短剣のような稚児にやらせた方がよいのではないか、といった話も出たが、ここに女はおらず主も構わないと言ったため結局こうなった。
 ほっそりとした首に、ああこのひとはそういえば女だったな、だとか。白く日焼けしていない肌は内務が多いからだろうか、だとか。抱く感想はそれくらいで、刀を男として勘定はしなくていいだろう。そも、裸の主と密室に入る、などという行為を近侍である俺以外に任せるなどありえない。この細い首に手をかけ少し力を入れれば、他の者が駆けつける前に容易く殺せるのだから。
 片腕では届かない場所、背中や足元を流して差し上げてから、右腕の世話をする。包帯をほどくと、まだ生々しく火傷の跡が残っていて、俺はそっとくちびるを噛んだ。手拭いを添えてなるべく動かさないようにしながら湯船へとお連れすると、主が、俺を見ないまま口を開いた。
「言わないのだな、お前は」
 静かな声に一瞬手を止めてしまうが、はたと気付いて再開する。
「何を、でしょうか」
「何か言いたいことがあるのだろう、傷を見るたび息が止まっている」
 そのうち言うかと思って黙っていたのだが、と言う主の目がゆっくりとこちらを見た。このひとに、嘘は、吐けない。
「……俺の、せいだと」
 ゆらめく湯気が俺の表情を隠してくれはしないだろうか。きっと俺は、うまく顔を作ることが出来ていない。
「俺が、あなたを信じていれば……こんなことには」
 そう、主があんな指示を出す筈がないと信じられていれば、あんな風にあっさりとからだを炉にくべていなければ、こんなことにはならなかった。
 俺の懺悔にも似た言葉を聞いた主は、ふうん、と大したことでもなさそうに返事をした。
「お前は傲慢だな」
「……は」
「お前の心持ちひとつでどうにかなるものか。不忠があるとすれば、それはあるじの責任だ。従者に自分を信じさせることのできないあるじが未熟だというだけのこと」
 ちゃぷり、と湯を跳ねさせこちらを向いた主は、手を伸ばすと俺の顎に指を添え引き寄せた。水面のように静かな目が俺を写している。
「安心しろ『へし切長谷部』。お前が私を信じずとも、私がお前を信じてやる。お前を折るときがあるとすれば、私が手ずから折ってやる」
 ――そのとき背筋を這ったのはよろこびだったか、おそれだったか。
 はい、とくちびるを震わせた己の声は、他人のもののように聞こえた。
《終》

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