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Posted by 新矢晋 - 2015.01.23,Fri
長谷部×審神者♀。
ナチュラルに頭のおかしい幼女審神者と狂犬長谷部。







物狂い


 板張りの廊下を歩くのは童女と青年。
 ――幼い審神者と、その近侍のへし切長谷部である。
 きゃっきゃと楽しげに長谷部の手を引くその姿は微笑ましく、長谷部もまた柔らかく目元を緩めていた。


 「門」を抜ければ町だ。きゅっと長谷部の手を握ったまま、審神者は辺りを見回している。
 この時代の町へ来るのは何度目かであり、最初は「審神者」とその「刀」である二人を人々は畏怖と好奇の目で見ていたが、今は違う。人々は、ただ、二人と目を合わせないように怯えきっていた。
 ふと、審神者の目が一点を見て止まる。そこにいたのは幼い子供を連れた母親だった。見られた、と気付いた瞬間母親の肩が跳ねる。
「……0.000001。長谷部」
「はい」
 砂を踏みそちらへ近付く長谷部の前で、母親がかたかたと震えながら子供を後ろへ庇うように押しやった。か細い声が繰り返し許しを請うのを、淡い色の目が静かに睥睨した。ふ、とその目が細まる。
「主命である」
 瞬間、母親の左脇腹から右肩へ向けて銀色の光が一閃する。遅れて、赤い液体が噴き上がった。振り上げた刀の切っ先からひとつ、ぽとり、と雫が落ちたそのとき、弾けるような笑い声が響いた。
「きれい! きれいね長谷部!」
 心底楽しそうにころころと笑う審神者に、長谷部は振り返り薄く微笑んだ。お喜びいただけましたか、と問う声は少し誇らしげですらある。浴びた返り血は少しずつ内へ吸われるように消えていき、刀は血と脂のぬめりひとつない冴え冴えとした輝きを取り戻した。
 事切れた母親にすがって子供は泣いている。不機嫌そうにそちらを見た審神者は、何かを見透かすように目を細めた。
「0.000002」
 審神者には人々の「介入度」が見える。歴史に大きく影響を与える人間ほど数値が高く、その数値が0.001以上の人間への干渉は禁じられている。歴史を滞りない道筋へ乗せるために動く審神者にとってはときに何よりも重要なことだった。
 裏を返せば、その数値が極めて低い人間には、何をどうしたところで歴史に大きな影響はないということである。
「長谷部」
「はい」
 とん、と軽い音をたてて子供の背から胸へ刀が真っ直ぐ貫通する。正確に心の臓を貫いたそれをゆっくりと引き抜くと、背の真ん中にじわりと牡丹のように赤い染みが広がった。
「すごい! これもきれいね」
 無邪気な笑みは年相応に愛らしく、血を見る目はおはじきやびいどろを見るようにきらきらと輝いている。はせべ、はせべ、と自らの刀の足元へまとわりつく姿はいとけない子供にも見える。だがその目の前にはふたつの死体が転がっていて、それを作り出した男(かたな)は平然と笑っているのだ。
「長谷部、かえる。抱っこして」
「はい」
 強請るように両手を伸ばした審神者を抱き上げ、歩み去る様には何もおかしいところはない。幼い子供が兄に、あるいは父親に甘えているような、とてもありふれた幸せの光景だ。
 ――ああ、ここは、なんという名の楽園だろう。


 最初は庭に迷い込んだ猫だった。
 ころして、はせべ。
 そう請われて戸惑いながらも刀を振るった長谷部は、その血と死体を見て心底嬉しそうに笑う審神者の姿に不思議と充足感を覚えてしまった。
 次は町中で吠えかかってきた犬だった。長谷部は、ひわ、と悲鳴をあげた審神者の前から無造作に犬を蹴り飛ばし、躊躇なくその腹を一太刀に裂いた。
 ありがとう、はせべ。
 甘ったるい感謝の言葉に長谷部は罪深い恍惚感を覚え、刀としても、人型としても欲望が満たされるのを感じた。それは肉欲にも似た、支配されるよろこびだった。
 だいすきよ、はせべ。だから、ころして。
 重ねられる主からの言葉は長谷部が望むとおりの甘美さを備えていた。魂を惹きつけた。全身が震えるほど、生身の人間であれば絶頂さえ迎えそうなほど、それは至上の美味だった。
 もう戻れない、戻らなくていいのだと、長谷部はすべてを主に捧げた。
 三度目に斬ったのは、人間だった。


「血の匂いがするね」
 本丸へ戻り、審神者を部屋に送ってから廊下を歩いていた長谷部の顔すら見ずに言ったのは、縁側に腰掛け庭先を眺めていた歌仙兼定だった。
「刀は血を吸うのが本懐だ」
 表情ひとつ動かさずに答えた長谷部を、そこでようやく歌仙が見上げた。冷えた緑色が光る。
「このままじゃあきっと、主の方が討伐対象になるよ。いくら可能性が低いと言ったって、あんなに数を重ねれば、いつか皺寄せがくる」
 君だって主を斬りたいわけじゃないだろう、という台詞を聞いた長谷部の口角が上がるのを見て歌仙は思い至ってしまった。彼が何を考えて、あるいは何を考えないようにしているか。
「きみ、まさか……」
 ――そうだ、この刀(おとこ)は馬鹿じゃない。あんな凶行に及び続けた結果がどうなるかなんて、恐らく最初の、一度目のときからわかっていただろう。
 立ち上がった歌仙は、長谷部の胸倉を掴んで声を張り上げた。
「自滅するのがわかっていて付き従うのは忠義なんかじゃない! 君のそれは、醜くておぞましい、肥大した自意識だ!」
 ひゅ、と空気が鳴った瞬間、長谷部の鞘が歌仙の側頭へ叩き込まれた。たたらを踏みながらも倒れなかった歌仙は長谷部を睨みつけ、その眼差しを受け止めてなお長谷部は睫毛を震わせもしなかった。
「付き合いが長いとはいえその言葉は許さん」
 歌仙のこめかみから目元へ、血が一筋流れる。どうかしている、と囁いたその声に、長谷部は耳を貸すつもりもないようだ。
「俺は主にこの魂も体もすべて捧げてお仕えする。切っ先から柄頭まで、俺のすべては主のものだ。それが忠義でない筈がない」
 白い手袋に包まれた手が、自らを誇るように胸元へ押し当てられる。
「主がほろびるときは俺も供する。あの方と共に、地獄へ落ちよう」
 歌うように宣言する長谷部の微笑は、吐き気がするほど美しかった。


《終》

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