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Posted by - 2020.07.06,Mon
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Posted by 新矢晋 - 2011.10.24,Mon
トッズ護衛エンド後。
貴族になって城を出た女分化レハトと、その密偵の話。死ネタ。

いずれ去りゆく

 ――この屋敷へ移ってきた頃の事を思い出していた。思えばあの夜が、私たちをより強く結び付けたのかもしれない。


 荷物の整理も終わり、ようやく落ち着いて生活が出来るようになった頃、私はトッズの姿を見かけない事に気がついた。
「……トッズ」
 夜、眠る前に露台へ出て彼の名を呼んでみても、答える声は無い。
 ――途端に怖くなった。
 いつも傍に居て私を守ってくれる彼に見捨てられる恐怖。その好意に子供のように甘えてきた私は、いつ飽きられたって文句は言えない。
「トッズ、トッズ……!」
 彼は「責任を取る」とは言ったけれど、私が無事に成人し貴族としての地位も確定した今、その責任はほぼ果たされたといって良い。
 彼は、何処にだってゆける。私とは違う。
「ト、」
「はいはい、あんまり大きい声で呼ばないの。レハトはまだまだ子供だねえ」
 不意に響いた声に泣き出しそうになった。露台の隅に滲むように現れたトッズへと駆け寄ろうとして、私は足を止めた。
 彼の目が、笑っていない事に気付いたから。
「最近はご無沙汰だったからさ、俺の事なんて忘れちゃったのかと思ったよ。
 ……えらーい貴族様になるレハトには、もう俺なんていらないんだよね?」
 何を言っているのかわからない。ただ頭を振る私に、トッズは苦く笑ってみせた。
「こっちへ移るのが決まった時、お前俺に何も言わなかったろ?
 何も言わなくたって付いて来ると思ったのか……まあ実際そうなんだけど」
 目を細めて私を見やるトッズが、何故か知らない生き物のように見えた。
「……俺って、その程度の存在なんだ。うん。わかってるよ。所詮俺は薄汚れた裏切り者だもんな。
 ……お前にとって、俺は子供時代にかかる麻疹みたいなもんだった、ってだけだ」
 言いたい放題に吐き捨てて私に背を向けたトッズの服を、咄嗟に掴んでいた。顔だけこちらに向けた彼の目は濁っていて、何を考えているのか全くわからなかったけれど、今この手を離したら取り返しがつかなくなるだろう事だけはわかった。
 トッズが口を開く前に、一息にまくしたてる。口では彼に勝てないのだから、喋らせたら負けだ。
 ――私は、トッズを間違いなく愛しているという事。
 移住について話さなかったのは理由がある事、その理由とは……
「……トッズに自由になってほしかった」
 消え入りそうな声で私がそう言うと、彼は目を眇めた。これは私のエゴに過ぎないから言いたくはなかったのだが、こうも拗れてしまっては仕方ない。
「トッズは、……もう責任なんてとらなくていい。もうリリアノ様もローニカも居ないから、トッズはどこにだって行けるし、好きなように生きられる」
 鼻の奧がつんとしたが、今泣くのは卑怯だ。百戦錬磨の密偵さんに伝わるよう、懸命に言葉を重ねる私は、彼の表情が変化してきているのに気づかなかった。
「私は、トッズの吹かせる風が好き。私の行けない遠くの匂いがする、風が好き。だから……だから、私、縛り付けたくなくて」
「ああああー、もう!」
 いきなりトッズが大きな声をあげた。驚いて彼を見上げると、困ったような顔でぐしゃぐしゃと頭をかいていた。
「ほんともう、俺って駄目な大人!……でも今回はレハトもちょっとは悪いんだからね?」
 むに、と軽く頬を抓られる。
「レハトが俺に構ってくれないから、ちょっと拗ねてたの!……それがまさか、そーんな事考えさせてたなんて、トッズさん不覚だわ」
 そこまで言うとトッズは姿勢を正し、私を正面から見た。珍しく真剣な眼差しに戸惑う私に小さく苦笑してから、表情を引き締め口を開いた。
「この際だからはっきりしとくけど、俺はお前の事が本当に好きだ。愛してる。……だから、もしどこへでも行って良いって言われたらレハトの隣に行くし、好きに生きろって言われたらレハトの為に生きるよ」
「……でも、」
「俺は愛に生きるって決めたの。……レハトの為に生きるって、決めたの」
 そっと私を抱き寄せた腕は、僅かに震えていた。
 ――いつも余裕綽々の彼が時折見せる迷いや怯えを、私が少しでも拭えたら。私は彼の体に腕を回し返すと、力を入れてみた。少しだけ彼の体が強張り、すぐに力が抜けるのがわかった。
「ありがとう。……ごめんなさい、不安にさせて」
「ううん、俺の方こそ大人げない態度とっちゃってごめんねー?」
「あのね、トッズ」
 うん?と眉を上げた彼を見上げて、精一杯の思いを込めて言ってみる。
「大好き。……だから、私の傍にいて下さい」
 一瞬面食らったように動きを止めたトッズは、次の瞬間喜色満面の笑みで私を抱き締めてきた。


 ――それからずっと、トッズは私の傍に居る。


 今の私はそれなりの領地を治める貴族で、日々慣れない執務と策謀に追われている。この生活に何とかしがみついて暮らしていられるのは、愛する人が私の傍で助けてくれているからだ。命じられれば何処へでも出向し、作物の生育状態から娼婦の下着の色まで調べ上げるその手管に助けられた事は一度や二度ではない。
 ――その手を血に染めさせた事だってある。
 それでも彼は、トッズは変わらず私に笑いかけ、忠誠を誓い、愛を囁いてくれた。私も勿論、彼に愛を。
 けして表沙汰には出来ない、誰にも祝福されない関係だろうが構わなかった。ただ私たちは、強く、深く、愛し合っていた。この幸せは続くものだと信じていたし、その為の努力は惜しまないつもりだった。


 私は、忘れていたのだ。
 死というものはいつも呆気なく、無作為で、容赦がないのだという事を。
 ――けして、自分の周りだけ避けていってはくれない事を。


 彼は何も残さなかった。その亡骸も、遺品も、何も。私には彼に花を捧げる事すら許されず、ただ侍従の報告で全てが終わった事を知った。
 涙は出なかった。任務中に彼が死んだとだけ伝えられて、現実感など訪れてくれる筈も無い。
 ただ黙々と仕事をしては眠るだけの日々が続き、月が何時の間にか赤くなっていた夜、寝室で眠りにつこうとしていた私の全身を突然の寂寥感が襲った。
 ――もう、露台へ無礼な客が降り立つ事は無い。
 低い声が私の名を呼ぶ事も、不意に後ろから羽交い締められる事も、……愛していると囁かれる事も、もう無いのだ。
 ふらふらと鏡台へと歩み寄った私は、隠し引き出しを開けた。……そこには古びた短剣が入っている筈で、有事に私の誇りを守るという役割を担っている彼は、トッズが私の護衛になってからは一度も日の目を見る事無く引き出しの中で眠っていた筈だった。
 ――短剣は、変わらずそこにあった。そっとその柄を握った私は、引き出しの中にまだ何かあるのに気づいて目を見張る。
 ……「読んで!」とだけ表書きされた封筒。見覚えのある筆跡。私は、震える手でその手紙を開いた。


 とりあえず、その短剣は脇に置いて、ゆっくり深呼吸して。
 ……何があったのかはわからないけど、きっと俺はそこに居ないんだね。俺が居れば、お前にそんな事はさせないもの。
 俺の後追いだったりしたら嬉しいけど、うーん、嬉しいけど待ってほしい。
 お前は死んだら神の国へ迎えられちゃうから、俺と同じところへは来られないよね?
 だから、俺がお前を迎えに行くまで待ってて。必ず、迎えに行くから。
 流石の俺でもすぐにってわけにはいかないから、それまでのんびり過ごしててよ。あ、でも浮気しないでね?

 誰よりもお前を愛している者より


「う、ぁ……」
 喉の奧から嗚咽がもれるのを止められなかった。ぼたぼたと零れる涙は文字を滲ませ、赤い月の光も揺れる。
 ――ああ、本当に彼は、商売人の鏡だ。アフターフォローまでばっちりじゃないか。
 胸が締め付けられるように痛む。涙が止まらない。私は手紙を抱き締めて、子供のように泣きじゃくった。
 泣いて、泣いて、一晩中泣き明かして、あと少しだけ生きてみようと思った。
 ……彼の居ないこの世界を、生きてみようと思った。


《幕》

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