Posted by 新矢晋 - 2012.04.30,Mon
ウサミミ→ロナウド。一方通行かもしれない。
誰も幸せになっていないし、どことなく薄暗いです。
友情出演ヤマトさん。
誰も幸せになっていないし、どことなく薄暗いです。
友情出演ヤマトさん。
犬を拾った話
俺がヤマトと共に世界を変える為の戦いに身を投じてから、少しの時が流れていた。
友と戦い、或いは説得して、……時には別れ、俺は研ぎ澄まされてゆく。
力のある、価値ある者のみが生き残り世界を形作るのだとすれば、俺はその世界に間違い無く生き残るだろう。
――そんな七日目の話。
犬を拾った。
汚泥にまみれたみすぼらしい姿、何の力も価値も無いこのいきものはこの世界に必要とはされないだろう。
けれど、気が付くと俺はその犬をこっそりと連れ帰っていた。
他の局員やヤマトに見付かったらきっといい顔はされないだろう。俺はその犬に首輪をかけ部屋に繋いだ。
そうしてこっそり医療品を拝借して看病すると、犬は少しずつ元気を取り戻していった。
最初のうちは、怯えているのかしきりに吠えられた。噛み付かれたり引っ掻かれたりした傷を周囲に言い訳するのに苦労したが、そのうち状況を理解したのか大人しく部屋で留守番するようになった。
――大人しくなってきた犬を風呂に入れる事にした。
泥のこびりついた焦げ茶の毛を丁寧にくしけずり、地肌を指先でマッサージしながら洗うと心地良いのか犬は目を細め身震いをした。
俺もついでにシャワーを浴びている間、犬は吠えもせず静かに待っていた。黒い目が、ただ俺を見ていた。
そんな時。
「……君には、野犬を愛でる趣味があったのか」
廊下で呼び止められた後に言い放たれた言葉は十分に俺を動揺させたが、ヤマトの口振りに責める響きは無かったので安心する。
「ああ安心したまえ、君は君の思うようにするといい。最後まで責任をもって飼育するように」
「ありがとう、ヤマト!」
こうして局長のお墨付きをもらった俺は気が大きくなり、犬を散歩に連れて行こうと思った。
流石に昼間は任務があるから、夜にリードを持って部屋を抜け出す。一度ほろんだ世界の夜は星が多い。再び街の灯りが夜空を駆逐するには、まだまだ時間がかかるだろう。
星空を見上げていると、ふとリードが軽くなり、首輪の外れた犬が俺を見ていた。
「すまないが、もう君に付き合ってはいられない」
犬は、そう吠えた。
「君は優しいから、俺を生かしたんだろう。だが俺の正義が潰えた世界で生き永らえる事に何の意味がある?弱者を切り捨てるこの世界では、俺も切り捨てられるべきだ」
悲しげに、目を細めて、哭く。
「悪魔を喚ぶ力も無い。仲間もいない。……はは、無様だな」
そして、犬は。
「さよなら、犬ごっこは終わりだ」
その声を最後に背を向けるから。俺は、……俺は。
「それは、あの犬の墓か」
「うん」
「君に懐かぬ駄犬など、捨て置けば良かったものを」
「……そうだね」
ヤマトは、それ以上何も言わず俺の横に居てくれた。
《終》
俺がヤマトと共に世界を変える為の戦いに身を投じてから、少しの時が流れていた。
友と戦い、或いは説得して、……時には別れ、俺は研ぎ澄まされてゆく。
力のある、価値ある者のみが生き残り世界を形作るのだとすれば、俺はその世界に間違い無く生き残るだろう。
――そんな七日目の話。
犬を拾った。
汚泥にまみれたみすぼらしい姿、何の力も価値も無いこのいきものはこの世界に必要とはされないだろう。
けれど、気が付くと俺はその犬をこっそりと連れ帰っていた。
他の局員やヤマトに見付かったらきっといい顔はされないだろう。俺はその犬に首輪をかけ部屋に繋いだ。
そうしてこっそり医療品を拝借して看病すると、犬は少しずつ元気を取り戻していった。
最初のうちは、怯えているのかしきりに吠えられた。噛み付かれたり引っ掻かれたりした傷を周囲に言い訳するのに苦労したが、そのうち状況を理解したのか大人しく部屋で留守番するようになった。
――大人しくなってきた犬を風呂に入れる事にした。
泥のこびりついた焦げ茶の毛を丁寧にくしけずり、地肌を指先でマッサージしながら洗うと心地良いのか犬は目を細め身震いをした。
俺もついでにシャワーを浴びている間、犬は吠えもせず静かに待っていた。黒い目が、ただ俺を見ていた。
そんな時。
「……君には、野犬を愛でる趣味があったのか」
廊下で呼び止められた後に言い放たれた言葉は十分に俺を動揺させたが、ヤマトの口振りに責める響きは無かったので安心する。
「ああ安心したまえ、君は君の思うようにするといい。最後まで責任をもって飼育するように」
「ありがとう、ヤマト!」
こうして局長のお墨付きをもらった俺は気が大きくなり、犬を散歩に連れて行こうと思った。
流石に昼間は任務があるから、夜にリードを持って部屋を抜け出す。一度ほろんだ世界の夜は星が多い。再び街の灯りが夜空を駆逐するには、まだまだ時間がかかるだろう。
星空を見上げていると、ふとリードが軽くなり、首輪の外れた犬が俺を見ていた。
「すまないが、もう君に付き合ってはいられない」
犬は、そう吠えた。
「君は優しいから、俺を生かしたんだろう。だが俺の正義が潰えた世界で生き永らえる事に何の意味がある?弱者を切り捨てるこの世界では、俺も切り捨てられるべきだ」
悲しげに、目を細めて、哭く。
「悪魔を喚ぶ力も無い。仲間もいない。……はは、無様だな」
そして、犬は。
「さよなら、犬ごっこは終わりだ」
その声を最後に背を向けるから。俺は、……俺は。
「それは、あの犬の墓か」
「うん」
「君に懐かぬ駄犬など、捨て置けば良かったものを」
「……そうだね」
ヤマトは、それ以上何も言わず俺の横に居てくれた。
《終》
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