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Posted by 新矢晋 - 2014.10.01,Wed
回帰後。
ロナウドに片思いしているウサミミが、ロナウドの寝姿を見ている話。







夢魔


 床に寝転がっているロナウドを見た時はさすがにぎょっとした、呼吸とか意識を確認するくらいには。テーブルの上を確認すると空になった俺のコップがあって、多分間違えてチューハイを飲んでしまったのだろうと推測できた。
 以前(チョコレートの件だ)のようにただ眠っているだけのようだから取り敢えず寝かせておくことにする。もし様子がおかしくなったらすぐに救急車が呼べるように携帯を手元に置いた。が、多分必要ないだろう。さすがにコップ半分もない量で急性アルコール中毒になんてならないと思う、いくらロナウドでも。
 服を緩めてやった方がいいだろう、と、ベルトを外す。襟元も緩めて、その喉仏にどきりとした。ちらちらと見える肌が眩しくて、貴くて、俺は打ちのめされ溜め息を吐くしかない。
 この人はどうしてこんなにも美しいのだろう。
 彫りの深い、はっきりとした目鼻立ち。切れ長の目は今は閉じられているが、開けば強い光を湛えた鳶色があらわれることを俺は知っている。筋肉質な体つきはセックスアピールを感じてやまないし、その胸に抱かれたいと思ったことは一度や二度ではない。
 ギリシャの彫像ってこんな感じだった気がする。美しくて、荘厳で、恥ずかしくなる感じ。そうだ、恥じ入るべきなのだ、酔い潰れた年上の友人の服をはだけさせまじまじと観察しているなんて。
 俺はゲイではない、と思う、今や自信がなくなってきたけれど。俺がこんなに性的魅力を感じる男はロナウドだけで、他の男と付き合いたいとかキスしたいとは全く思わない。ただたった一人であれ男に惚れたならそれはもうゲイだというなら、仕方ない、俺はゲイだ。
 俺がこんな風に考えていることを知ったら(ロナウドに惚れているということは伏せて、ゲイかもしれないということだけをカミングアウトしたら)ロナウドはどう思うだろう。表向きはきっと、どんな性嗜好であれ君は俺の友人だ、とか言うだろうけれど、頭の硬くて常識人な彼が態度を変えずにいられるわけがない。ぎくしゃくして、今みたいな関係でいられなくなるのは想像に難くない。
 だから、俺がロナウドに劣情を抱いていることには、絶対に気付かれてはならない。そう、劣情だ、これは憧憬とか思慕なんかじゃなく、生温かくてざらざらした劣情だ。ぐったりと横たわっているロナウドの、開いたシャツの前から覗く胸板に生唾を飲む、俺の気持ち悪い欲だ。
 緩めたベルトを見て一瞬よぎった欲求は除けておいて(さすがに下を脱がせるのは目覚められた時に言い訳のしようがないだろう)、じっと見詰めていると別の欲求が頭をもたげる。少しの間抵抗したがあっさりと負け、俺はロナウドににじり寄った。そして、ロナウドの腰辺りを跨いで、なるべく体重をかけないように腰を下ろす。甘美な何かがぞくぞくと背筋を這い上がった。はあ、と息を吐いて欲を逃がす、興奮のあまり指が震えている。なんだか泣きたいような気持ちだ。
 こうして馬乗りになってもロナウドは起きなかった。危機感が無さすぎると思う、まあ、同性相手でしかも「親友」と一緒にいる時に無茶を言っているとは思うけども。もしこれが女の子だったら今頃取り返しのつかないことになっているところだ。
 取り返しのつかないことに、してやりたい。
 さすがにもう童貞ではないだろう、それがまた腹が立つけれど(俺はこいつに惚れてしまったせいで未だに卒業していない)、俺がなんやかんやしたって野良犬に噛まれたってことに出来るかもしれない。まあ、親友ではいられなくなるだろうけど。
 喉仏が見える。三つめまで外したボタン。噛み付きたい。
 ……あ。やばい。寒気に似ているけど寒気ではけしてない感覚が下半身を這って、俺は慌ててロナウドの上から降りた。ああ、やっぱり勃起している。
 どうしようもない、救いようがない、泣きたい。好きな相手は男で、親友だと思われていて、その相手に馬乗りになって興奮して勃起までする俺は、どこまでも浅ましく滑稽だ。
 ロナウドとセックスがしたい。愛とか恋とかどっちでもいい。その逞しい腕に抱かれて、満たされたい。俺の気も知らずにぐうぐう寝てるロナウドをめちゃくちゃにしたくてたまらない、多分俺を拒絶するだろうけどそんなことには構わず搾り取ってやりたい。どんな顔をしてイクんだろう、とか、もうこれは変態の域に入ってる気がする。
 ううん、と呻く声が聞こえて我に返った俺の前でロナウドが目を開けた。ぼんやりと目を泳がせた後俺に気付いて、上半身を起こそうとする。ふらつく体に手を伸ばして背を支えてやったら、すまない、と掠れた声で言われた。
「俺は……どうしたんだ?」
「間違えて俺のコップから飲んだでしょ」
 酒の所為で記憶がはっきりしないのか、眉を寄せたロナウドは何も言わない。ほら、と空のコップを見せると納得したようで溜め息を吐いた。茫洋と瞬きをする、睫毛が揺れているのをうっとりと眺めそうになっていけない。
「すまない……介抱してくれたのか」
 乱れた衣服に気付いてそう言うロナウドは、勿論何にも気付いていない。その身体で欲情して、いやらしい意図でもって触れて、眺めた、俺の情欲になんてまるっきり。気付かれても困るから安心すべきことの筈なのに、妙に腹が立った。本当に無知が似合う男だ、無知による残酷さをわかっていない、優しくてひどい男だ。
「今日は念のために泊まっていきなよ、俺も心配だしさ」
「……そうしよう、悪いな」

 今晩はきっと、眠れない。一晩中、ロナウドの寝顔を瞼にえがくだろう。


《終》

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