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Posted by 新矢晋 - 2014.12.08,Mon
友人の誕生日祝いに書いたもの。よそのうさみみさんイメージで名前は北斗。
忙しないクリスマスの話、短め。




さいわいの降る夜


「ヒ~ホ~……ホワイトクリスマスにしたかったホ~……」
「余計なお世話だ!」
 最後の一体を消し炭にしてから溜め息を吐く。都心に大雪を降らせようとする悪魔を討伐するのが今回の任務で、クリスマス?何それおいしいの?状態になってしまった俺はとぼとぼと帰路につく。
 俺には恋人がいる。いつも忙しくて一緒にいる時間なんてとれなくて、たまの季節のイベントくらいは一緒にすごそうって二人して必死に仕事を終わらせていたのにこのざまだ。日頃の行いが悪かったんだろうか、と思い返してみても俺はむしろ日本を守っているわけで、逆にちょっとくらいいい事が起こってもいいんじゃないかと思う。
 はあ、と何度目かの溜め息が漏れた。今から恋人のいる大阪へ戻っても、つく頃には日付をまたいでいるだろう。なによりそんな深夜に押しかけたら彼の貴重な睡眠時間を削ってしまう。ターミナルが使えればよかったのだけど、任務終了後そのまま東京支局に報告だけして直帰する予定の俺に貸し出されたのは、片道だけの使い捨てキーだった。
 とりあえず大阪までは「新幹線」で戻ろう、明日の朝になってから恋人とすごそう、と思いながら「新幹線」乗り場についた俺はどっかりとベンチに座り、ふと行きかう人の中に見知った顔を見付けた。
「あれ、こんなところでどーしたの」
 声をかけると相手はきょとんと瞬きをした。彼も俺と同じ組織で同じように働いている同僚で、今日は休みの筈だった。
「そっちこそ。直帰じゃなかったっけ」
「うん、まあ……」
 言葉を濁す俺を不思議そうに見ていた彼は、あ、と声をあげると俺の近くに寄った。
「北斗、頼みがあるんだけど」
 つくづく今日は問題に巻き込まれる日らしい。今更ひとつやふたつ用事が増えたって変わらないから、投げやりな気持ちで首を傾げた俺の目の前に差し出されたものに、目を丸くする。
「ターミナルキー……?」
「うん。これ、『大阪本局』に今から返しに行かなきゃいけないんだけど、北斗が代わりに持っていってくれないかな」
「え、」
 大阪に寄ってから家まで帰るの面倒だしさ、と言う彼の顔をまじまじと見る。新幹線じゃなくてターミナルなら、一瞬で大阪まで戻れる。俺の視線に気づいた彼は、ふふ、と笑った。
「これ報告書ね、委任印も今押しとくから」
 小さなカードに彼が指を滑らせぼそぼそと口の中で呟くと、ぽう、と青い文字が浮かび上がってから消える。押し付けるようにそれを俺に握らせた彼は、面倒なこと押し付けてごめんね、と一方的に言ってから踵を返した。
「え、おい、湖宵!」
 半身だけ振り返り、ひら、と手を振る彼に俺は大きな声でありがとうと言った


「大和!」
 なんとか日付が変わる前に局長室へ飛び込んだ俺は、丁度仕事を終えたらしくコートを着ている途中の恋人に抱き着いた。
「……どうした、直帰ではなかったか」
 驚いた様子もなく冷静な声で尋ねてくるいつもの声が今日に限ってとても愛しくて、ぎゅうぎゅうと抱き締める。苦しげに呻く声に慌てて力を緩めて、顔を覗き込む。
「話せば長くなるけど、とりあえず帰ってきた! あと一時間くらいしかないけど、一緒にいよう」
 長い睫毛をはためかせた大和は、そうか、と静かに言って目を細めた。それが微笑みである事を俺は知っていて、鼻を摺り寄せてからキスをした。
 つめたい、と言った大和に、ごめんね、と言ってから思い出してポケットを探る。もし会えたらその時に渡そうと思っていたものが入れっぱなしだった。
「これ、クリスマスプレゼント。たいしたものじゃないけど」
 小さな紙袋を渡す。ありがとうと言って開封した大和は、真面目な顔で中身を取り出した。銀色の、シンプルなブレスレット。青いチェコビーズが揺れている。
「趣味じゃなかったらしまっておいて。一応俺がおまじないかけておいたけど、まあ、大和には敵わないんだけど」
 まじまじとブレスレットを眺めた大和は、するりとそれを手首に巻いた。
「ありがたく受け取っておく。まじないが上手くなったな」
 大和に褒められるとどうにもむずがゆい。大和はお世辞を言うタイプじゃないからきっと本心で、顔が緩むのを止められない。そんな俺を見る大和は何故だか困ったように眉を寄せ、ぽそりと呟いた。
「……すまないが、私は何も用意していない」
「いいよ! 別に俺が渡したかったから渡しただけだし、一緒にいられるだけで全然!」
 しばらく考え込むように目を伏せた大和は、徐に手を伸ばすと俺の背に回した。ぼそぼそと何かを囁く。
「……ん? どうした大和」
「うん? ちょっとした気休めだ」
 白い手が俺の顎に添えられ頬に唇が触れる。擽ったくて笑ってから、俺も大和の頬にキスを返した。


 ――ほんとうは聞こえていて、もう一度聞きたかっただけなんだ。
 きみにたくさんのさいわいがふりますように。あいしてる。


《終》

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