Posted by 新矢晋 - 2014.02.04,Tue
酔っぱらいウサミミがロナウドに解放される話。ほんのり性的、R-15くらい?
回帰後。
回帰後。
笹に虎
「ロナウドお、もしもーし!」
妙に陽気な声で彼から電話がかかってきたのは、もう日付も変わろうかという深夜だった。
「どうした湖宵くん、こんな時間に」
だがそれを咎める気にならないのは、どんな状況だろうが彼から電話がかかってくるのは俺にとって喜ばしい事だから。
……つまりは俺がどうしようもなく、彼を好いてしまっているからだ。
「終電逃しちゃってねー、泊めてくれないかなあって」
その突然の、普通なら迷惑だろうおねだりを断れない俺は随分とやさしくなってしまったようだった。
駅前まで彼を迎えに行くと、完全に彼は酔っ払っていた。俺に抱きついてみたりキスをしようとしたりとご機嫌で──咄嗟にキスを拒んでしまったのは惜しかったかもしれない──、なんとか車に乗せて家まで連れ帰る。
部屋まで辿り着き、とりあえず水を飲ませてソファで安静にさせていると船を漕ぎ始めた彼を抱き上げベッドへと運ぶ。
断じて、断じて下心からではなく介抱のいち手段として、彼の着衣を少し緩めることにした。
震える手で彼の服のボタンを外し、ベルトを抜き取る。理性を総動員した結果それ以上の事はせずにすみ、枕元に腰掛け彼の様子を観察する。
うとうとと眠たげな目が俺を見上げ、ふにゃりと笑みを浮かべた。ああ、天使がいるならきっとこんな風に笑うだろう。
「ろな、うど」
しなやかに手を伸ばした彼は、俺の腕を掴んで引き寄せる。それに抗わず身を屈めたら、
「?!?!」
彼が、俺に、口付けた。
固まって動けない俺をよそに彼は何度も啄むように口付けて、ぺろりと唇を舐めてから俺の顔を覗き込むと熱っぽく囁いた。
「ロナウド、好き……」
染まった頬、潤んだ瞳。酒のせいだとはわかっているのに、俺の理性は容易く千切れ飛んだ。
※ ※ ※
何度も何度も彼の唇を貪り、まだ成熟していない少年の体を凌辱した。白い肌には口付けの痕が散り、下腹にはべっとりと欲望の残恣がこびりついている。
──足りない。まだ足りない。
ずっと彼だけが欲しかったのだ。想像の中で犯した事は一度や二度ではなく、その度に罪悪感で押し潰されそうになってもまた妄想してしまう。
しかし彼のすすり泣くような嬌声や繋がった箇所の熱は確かに現実で、俺はただがむしゃらに腰を振り続けた。
涙を浮かべて俺を見上げ、途切れ途切れに俺の名を呼ぶ彼がいとしくて、いとしくて、これが同意を得ない行為である事も忘れてキスをする。彼がそれに応えてくれる事が、泣きたいくらい嬉しかった。
暫くはなんとか彼の中には出さずに耐えていたのに、甘えた声で彼がねだるから。酒で意識が朦朧として、快楽に流されているだけだとしても、まるで俺を愛しているかのように呼ぶから。俺は箍が外れたように、何度も、彼の中に浅ましい欲を注ぎ込んだ。
※ ※ ※
ようやく頭の冷えた俺は、しどけなく手足を投げ出して眠っている彼を前にして絶望した。いくら彼の体をきれいに洗い清めたところで俺のした事は消えない。
……もう友人ですらいられない。警察に突き出されたって文句は言えない。
滑稽なことにこうなってしまってもまだ俺は彼が好きで、あわよくば好かれたくて、どうにかこの状況を収拾できないかと凄まじい速さで頭を回転させている。
だがいくら考えたところで打開策など思い付くはずがなく、俺は己の罪に押し潰されそうになりながらソファーで頭を抱えた。
──結局ほとんど眠れずにソファーで朝を迎えた俺は、コーヒーでも入れようと腰をあげかけて固まった。
彼が、不安そうな顔をして寝室から現れたのだ。
何を言えばいい、謝るのか、だがどうやって、……黙っている俺を見て彼は不思議そうに首を傾げ、俺に対する嫌悪などまったく感じさせない顔をしている。
「ロナウド、昨日何かあった? 俺、全然覚えてなくて……なんか体痛いし……酔っ払って転んだのかな」
こっちを見る澄んだ青い瞳。覚えていないのか。
……一瞬脳裏をよぎった卑怯極まりない手段──つまりは「なかったこと」にする──を追い出すように俺は、勢いよく床に両手をつき額を打ち付けていた。
「すまない湖宵くん!俺は君に大変な事を、せ、性的ないたずらを……」
「え?」
なんと説明していいやらわからずに唸る俺を見て彼はしばらく困惑していたが、少しすると何かに思い至ったらしく自らの尻へ手をやった。
沈痛な面持ちで頷く俺に、絶句する彼。その沈黙が何より痛くて彼の顔をまともに見る事すら出来ないが、俺は自分の行いに責任を持たなければならない。たとえ社会的信用を失おうが、彼に対して不誠実であるわけにはいかなかった。……その結果、彼との友情を失う事になろうとも。
彼は戸惑いながらも俺の頭を上げさせようとしたが、俺は頑なに床へと額を擦りつけ続ける。
「煮るなり焼くなり好きにしてくれ! 警察に突き出してくれたって構わない! 俺は最低な男だ……!」
張り上げた声が引き攣って、まるで泣きそうな声に聞こえる。これでは彼の同情を誘おうとしているようで、しかも彼は優しい子だから引きずられる可能性は高くて、自分の卑怯さに死にたくなった。
唇を噛んで彼の言葉を待つ俺に、そっと何かが触れた。俺の顔を上げさせた彼の手は、変わらず優しい。
「じゃあ……責任とってくれる?」
「勿論だ! 何をすればいい?」
真っ直ぐ俺の目を見詰める彼の、湖水のような青みがかった目に眩暈がする。昨晩その目がどんな色に濡れていたかを思い出してしまってぞくりとした。
――俺は。俺はもう駄目だ、あんなひどい事をしてしまったというのにまだ彼をそういった目で見ている。
俺のよこしまで唾棄すべき心中など知らず、彼はどこか恋する乙女のように恥じらいながら、
「俺のこと、ロナウドの恋人にして」
……俺の時間を止めた。
責任、というのは、それは確かに手を出した以上、結婚であるとか何らかの契約を結ぶべきであるというのは一理あるが、俺も彼も男であってその理論は通用しない気がする。
何より俺は同意も得ずに彼を犯した最低の男で、その俺と恋人になる、だと?
「こ、湖宵くん、それはどういう……」
「……俺、ロナウドが好きなんだよ」
うろたえきって舌もうまく回らない俺に、更に彼はとどめを刺しに来ている。彼の言葉が理解出来ない。
好き?
好きというのはつまり、彼も俺が彼を思うのと同じように、俺に触れたい抱き締めたいと思っているのか?
好きだと、俺のことを好きだというなら、俺はその俺を好いてくれている相手にあんなことを?
「ロナウド」
俺の混乱を見抜いたように彼は俺の手を握り、落ち着いた声で子供に言い聞かせるように言葉を続けた。
「俺はロナウドが好きなんだ。だから、……その、俺に手え出したっていうのが本当なら、ちょっと、嬉しい。……俺のこと、そういう風に見てくれたってことでしょ?」
嘘いつわりには聞こえない。彼は俺の目を見ている。恥ずかしげに頬を染め唇を時折噛みながら、俺のことを見ている。
「ここに来たのも、……これだけ前後不覚なら、何かの間違いで、一線越えられないかなって」
彼もそのつもりで俺の家に来たというのか?
――俺が彼に口付けた時、受け入れてくれたのは、酒のせいだけではなく……。
「でも、既成事実、なんて言うつもりないし……ロナウドが気まずいなら俺、今の話忘れるから……」
離れていく彼の手にどうしようもない寂しさを感じて、思わずその手を掴む。僅かに体を強張らせてこちらを見た彼の目を、初めて俺の方から見た。
からからの喉に唾を送り込む。
「……俺は、酔った君に手を出してしまうような男のクズだ」
「ロナウド、それは」
「それでも!」
ああ、情けない。彼の手を握った手が震えている。きっと彼にも伝わってしまっている。
「それでも俺は、君が好きだ。好きなんだ。だから……一生かけても、君に償うチャンスをくれ」
あいしている。愛しているんだ。
今まで押し隠してきた熱がもはや隠しきれずに声に乗る。彼は睫毛を震わせて、それからこくりと頷いた。
恐る恐る伸ばした俺の腕に、彼は身を任せてくれた。
「……でも惜しい事したなあ」
その後、コーヒーで一息いれていると、彼がぽつりと呟いた。
目で問うと、照れ臭そうに笑って俺を見上げる顔が眩しい。
「ロナウドとの初えっち、覚えてたかったなって」
ほんとにまったく記憶が無いんだよね、惜しいことした、ほんと惜しいことした、と彼は唇を尖らせる。
――なんていじらしいんだろう!
いとおしさと、それと同じくらいの劣情を押さえつけながら、俺は彼の髪に触れそっと指先で梳いた。
「それならもう一回するか? 今度は忘れないように、ゆっくり……な」
俺の、もちろん冗談のつもりで言った台詞に、彼はさっと頬を染めるとまんざらでもないように視線を泳がせて、それから小さく頷いた。
「……する」
ああ。
俺の理性は、もう少し頑張って仕事をしてくれても良いと思う。
《終》
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