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Posted by - 2020.07.06,Mon
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Posted by 新矢晋 - 2014.02.04,Tue
管理者打倒後。
恋愛要素薄め、ロナウドが(精神的に)ボッコボコにされ、ウサミミが(肉体的に)ボッコボコにされる話。
暴力描写含む。






選ばなかった君


 不快な眠りから目覚めたロナウドは、ずきずきと鈍く痛む頭に手をやろうとして自分が拘束されていることに気付いた。きつく縛り上げられた手足はまともに動かせそうにない。
 ロナウドは、先駆隊として廃工場へとやってきた筈だった。電子機器や鋼材は極めて貴重かつ需要が高く、もし見付かればかなりの収穫となる。入念な調査の最中、地下の暗がりへ降りる瞬間何かに襲われたのを最後に記憶は途切れていた。
 ……それからどれくらいの間冷たいコンクリート剥き出しの床に転がされていたかロナウドにはわからなかったが、ガラスの無い窓の外では日が暮れかけており、それなりに長い時間が経っている事が予想された。
 使われていない廃ビルか何かの一室だろう。埃くさく生活感は無いが、人の手が入った気配がある。この為に用意されたのかもしれない。
 鋭く細めた目を周囲に配っていたロナウドはしかし、最も重要な違和感に気付いた。
 いない。
 不自由な体をくねらせ室内を隅々まで見回しても自分以外に人間はいない。
「……湖宵くん」
 意識を失う直前まで一緒にいた相棒の姿が無い事にロナウドの胸がざわつく。自分一人、もしくは彼が傍にいるならこの状況でも関節のひとつくらい外して動くつもりでいたが、彼の安否がわからないとなると下手に動く事は出来ない。
 ひとつ深呼吸をして長期戦も覚悟したロナウドの耳に、硬質な足音が届く。睨んだ部屋の出入り口から現れた足音の主は、ロナウドと同じか少し上くらいの年格好の男だった。
「……もう起きたか、さすがに頑丈だな」
 昏い目をした男はロナウドを見下ろし唇を歪める。逆光でよく見えないその顔を見上げじっと時機を窺っていたロナウドは、はっと息を飲んだ。
「か……神崎?! お前がこんなことをしたのか?!」
 男は、ロナウドがかつて仲間として共に行動していた人物だった。平等で、優しい世界を作るという信念をともにし戦っていた……筈の。
「湖宵くんを、俺と一緒にいた少年をどうした!」
「無事だよ、今のところはな」
 くくっ、と喉を震わせた男を見上げ、ロナウドはまだ信じがたいといった様子で緩く頭を振る。かつて互いに信じ、手を携えてきた相手なのだ。
「どうしてこんなことを……」
「……どうしてだろうな、俺にもよくわからないよ。……復讐、と呼ぶには冷めすぎた」
 よく知っている相手の筈なのに、見たことの無い表情をした男にロナウドは背筋が粟立った。絶望でも憎悪でもない、ただのっぺりとしたそれ。
 だが、男の表情が僅かに変わる。哀れむような、呆れたような、だがどこか悲しむような顔でゆっくりと瞬きをする。
「……みんな死んだよ」
 溜め息を吐くように。
「あんたが仲間って呼んでた奴らはほとんどが死んだ。病人も、老人も、怪我人も……こんな世界で生き残れるわけないだろう?」
 ――事実だろう。
 物資も人手も圧倒的に不足したこの状況では、いくら努力したところで限界がある。弱いものから力尽きていくのは当然であり、合同葬儀で焼かれる遺体は病人や怪我人がかなりの割合を占めていた。
「弱いものが虐げられない、切り捨てられない、優しい世界を作るんだって言ったよな? もう忘れたんだろうな、あんた生き生きしてるもんなあこんな世界で!」
「ち、違う、俺は……」
 栗木ロナウドは自覚の有無は置いて、奉仕をする事で自己を保つ気質の男だった。元々の強い正義感に加え、「誰か」のため、「何か」のために働く事が好きだった。だからかつての滅びかけた世界で庇護なしには生きていけない者たちを守ることに尽力し、彼らを等しく救うことの出来る世界を望んだのだ。
 当初望んだ世界とは違う形ではあるが、この世界は……互いに協力しあい助け合う状況は、ロナウドにとって心地のよいものであった。
 楽しんでなどいない。ましてや幸せだなんて。しかしロナウドは口ごもり、言い返す事が出来なかった。自らの矛盾に薄々気付きながら、目を背けて蓋をした。
「あんたはいつだって正しかったし、今でも正しいんだろうさ。だけど……」
 男はナイフを差し込むように、ロナウドへ囁いた。
「正しさは罪だよ、ロナウド」
 俺はその罪を許せない、と独り言のように呟いてから男は笑う。声を出さずに笑う。
「これは復讐であり、断罪であり、……八つ当たりだ。あんたに泣き叫んでもらえたら、俺たちの気が晴れるってだけの」
 理解できないと頭を振るロナウドから目を逸らし、男は部屋の出入り口を見やった。
「あんたを痛め付けるより、こっちの方が手っ取り早いだろうからな」
 おい、と部屋の外へ呼び掛けると、またロナウドにも見覚えのある青年たちが、拘束した少年を引き摺るように連れてきた。
「湖宵くん!」
 連れてこられた少年はロナウドの相棒で、かつて滅びかけた世界でロナウドを救ってくれた人物でもある。その少年が相手側に囚われているという状況に、ロナウドはぎりと歯を食い縛った。
 だが当の少年は静かな目でロナウドを見てから僅かに口元を綻ばせると、無事でよかった、と呟いた。その少年の腕を掴んでロナウドの前へ引きずり出して、男は顔を歪める。
「あんたのかわいいかわいい相棒だ。あの日夢を語った俺たちよりも大事な、この子供を傷付けたら……あんたは泣きわめいてくれるかな」
「なっ?! 彼は関係ないだろう!」
 裏返ったロナウドの声を無視し、男の拳が無造作に少年の顔へ振り下ろされた。ふらついた少年の足を払い、受け身もとれずに床へ倒れたその肩を踏みにじる。
「やめろっ、湖宵くんに触れるな!」
 自分が傷つけられたような声をあげて身をよじるロナウドを横目に、男は腰を屈め少年の髪を掴み頭を持ち上げた。
 微かに呻き声をあげて薄く目を開いた少年は、ロナウドの表情を見ると安心させるように微笑もうとする。
 だが次の瞬間その腹に足のつま先が食い込んだ。
 苦痛に顔を歪めた少年は背を丸め、胃の中身を床へぶちまける。酸い臭いが鼻を突き、それがますますロナウドの精神を削ってゆく。
 少年を連れてきた青年も加えて更に暴行は激しくなったが、少年はそれでも悲鳴を飲み込んでいた。むしろ、それを見せ付けられているロナウドの方が余程うるさく喚きたてていた。
 拘束されまともに受け身も取れない状態で、髪を掴んで壁に頭を叩き付けられたり何発も蹴りを入れられても微かに呻くだけの少年は最終的に埃と吐瀉物に汚れて床に転がったが、それでも文句ひとつ言わず唇を噛み締めていた。
「ふうん……あんたの相方なんかやってるだけあって、こいつも強情だな。……ちょっと手ほどけ」
 少年の手首に巻かれていた縄をほどかせ、片方の腕を前に出させてまた縛り直す。その腕を床に押さえつけ、男はひきつるような笑みを浮かべた。
「なあロナウド、人間の指は何本ある?」
 突然の問いに怪訝そうに眉を寄せたロナウドは、男が少年の小指を持ち上げ手の甲側に折り曲げ始めた瞬間に顔色を変えた。
「やめろ! やめてくれ、そんな、冗談だろう……?!」
 ……ぽきん、と。ロナウドの叫びにかき消されそうなくらい軽い音だった。
「ぎ……っ、ぐぅ……ッ!」
 噛み殺しきれない苦痛の声は極めて小さいもので、少年の意思の強さたるや称賛に値するものだったが、それでも見開いた目からぼろぼろと涙が落ちることは止めようがなかった。
 あ、あ、と呆然と口を開け言葉にならない声を出すロナウドは緩く頭を振って、それから男の指が少年の薬指にかかるのを見て悲鳴をあげた。
「やめてくれ! どうしてそんな、お前たちを裏切ったのは俺だろう、彼には関係なぁああァっ?!」
 少年の薬指がおかしな方向へ捻りきられた瞬間ロナウドは絶叫した。
「やめろおっ! やめろ! やめ、てくれ、湖宵くん……ぁあ、やめてくれぇ……っ!」
 二本の指を折られてなお少年は泣き喚かず、脂汗を流しながら震えていた。その青い目が一度だけロナウドを見て、また痛みに耐えるようにきつく閉じられた。
 ……少年の右手が使い物にならなくなる頃には、ロナウドはただ少年の名を繰り返しながらすすり泣くだけになっていた。常の気迫や堂々とした素振りは無く、その鳶色の目からは意志の輝きも消えている。
「……さてロナウド、いい加減解放してやるよ。この子供を楽にしてやってから、な」
 虚空を見詰めていたロナウドは、ゆっくりとその言葉の意味を理解しその目に光を取り戻した。
「やめろ……!」
 暴れもがいて二人がかりで押さえ込まれ、それでもなお顔を上げたロナウドはぼろぼろと涙をこぼしていた。
「それだけは、それだけはやめてくれ、頼む……! 俺を、俺が何でもするから彼は……彼は、だってまだ子供じゃないか!」
 懇願するロナウドは、ひぃひぃと喉を鳴らして泣きじゃくる。
「彼を解放してやってくれ……俺には何をしてもいい……だから、彼は、……湖宵くんは……」
「死んでたんだ」
 ぽつりと呟いた男は、ぎりと奥歯を噛み締めてから低く声を絞り出す。
「俺の子は産まれたときには死んでたし、母親ももたなかった……設備さえ整ってりゃ問題ない筈だったのに……!」
 目をみはったロナウドは激痛に耐えるように唇を噛んで、その隙間から震える声を洩らした。
「……俺を、俺を殺せ……なぶり殺しにしたっていい……だから、」
「誰が殺してやるもんか……!」
 男はロナウドの胸ぐらを掴み上げ、冷えた刃のように寒々しい目で見下ろした。憤怒に似た、絶望にも似たそれは酷く禍々しくまなこの奥に澱んでいる。
「あんたも知ればいい。あんたの夢を、理想を、新しい世界を信じた末に死んだ奴らの……残された人間の、失う痛みを! あんたも知ればいいんだ!」
 叫んだ次の瞬間に男は少年の方へ向き直り懐からナイフを取り出した。
「やめろおぉぉっ!!」
 ロナウドが絶叫したその時、突然室内に複数の人間が飛び込んできた。
 その内の姿勢を低くし疾走してきた小柄な影が、慌てて前に出ようとした青年を一瞬で叩きのめし鼻を鳴らす。
「こんな雑魚に捕まっとったんかアホウが」
 もう一人が背後から近付いてきたのに振り返りもせず回し蹴りを叩き込んで、倒れたその頭を踏みつけ周囲を睨む灰色の目。
 突然の襲撃に動転していた男が我に返った時には、一気に距離を詰めてきたもう一人の少年が目の前で鉄パイプを振りかぶっていた。
「どけぇぇっ!」
 殴り倒され床に転がった男を、素早く駆け寄ってきた女が拘束する。
「湖宵、無事……ッ!」
 少年の右手の有り様を見た大地は、ひ、と息を飲んだ。それから慌てて少年を抱き起こし医療班を呼ぶ。
「……だい、ち?」
「もう大丈夫だからな! 帰ろうな!」
 少年はほんの僅かに表情を緩めたが、次の瞬間。
「あ、あ、ぁあぁぁァあアあ?!」
 絶叫が響き渡る。
「ゆびっ、俺の指ぃいいぃっ! 痛いっ、痛い痛い痛いぃい……!」
 緊張の糸が切れたのか泣き叫び暴れだした少年を、大地が慌てて抱き抱え連れていく。
「他の部屋は制圧したし、目標も発見した。急ぎ帰投するぞ……ロナウド、いったい何があった」
 女に拘束を解かれながら、ロナウドはただ頭を振った。


 重傷の少年とは裏腹に、ロナウドはほとんど傷を負っていなかった。そして少年が治療を受けている間に、ふらりとどこかへ一人消えてしまった。
 ……まだ復興には程遠い、荒れ果てたけれど人々の活動しているのがわかる街並みを見下ろす事の出来る廃墟の屋上がロナウドの気に入りの場所だった。
 ここから街を見下ろし、この世界を生き抜く決意を新たにするのが常だったが、今のロナウドはただ壁にもたれ掛かりぼんやりと宙を眺めていた。
「……やっぱりここにいたんだ」
 聞こえた声に肩を跳ねさせ振り返ったロナウドの視線の先にはあの少年が立っていた。痛々しく右腕に巻かれた包帯とギプスに注がれた視線に気付いて、困ったように笑う。
「隠してても仕方ないから言うけど……この手、うまく動かなくなるかもしれないって」
 息を飲んだロナウドはくしゃりと顔を歪めると、すまない、と絞り出すように言った。少年は頭を振りロナウドへと歩み寄る。
「ロナウドがやったわけじゃないんだから、謝らなくていいよ。気にするな……っていうのは無理だろうけど」
 じっと見上げてもその鳶色の目がこちらへ向かない事に溜め息を吐いた少年は手を伸ばし、ちょい、とロナウドの服へ指を引っ掛けた。
「……相棒やめるなんていわないでよ」
 ぎくり、と体を強張らせたロナウドをまだ見詰めている青い目は、水面のように揺れてから細められる。
 ふ、と。細く息。
「全部平らげて俺たちはここにいるんだよ。俺たちに罪があるとしたら、まとめて一緒に背負おう」
 ね、と笑った少年の眼差しが揺れるのを涙のようだと思うより先、ロナウドは少年を引き寄せその肩に頭を乗せる。
「すまない……すまない、俺の」
「ん」
 自分よりも大きな体、大きな背に腕を回してぽんぽんと叩きながら、少年は首を傾げてロナウドに頬を擦り寄せた。
 まだ壊れたままの街並みに、太陽が沈んでいく。


《終》

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