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Posted by - 2020.07.06,Mon
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Posted by 新矢晋 - 2014.03.19,Wed

ウサミミが二人いる世界線です。
ウサミミ(美月)×ヤマト、ロナウド×ウサミミ(湖宵)が同時に成立してます注意。
たぶん回帰後。






二人の迷宮


 見知らぬ部屋の床で目覚めた湖宵は、数回瞬きをしてから慌てて起き上がり、同じように隣で眠っていた友人……美月の肩を揺さぶった。
「美月ちゃん! 美月ちゃん起きて!」
「んー、もうお昼ご飯は食べたでしょー……」
 むにゃむにゃと口を動かしてから目を開けた美月は、あれ、と湖宵の顔を見てから起き上がる。
「……ここどこ?」
「わかんない」
 ……休日に二人でショッピングに出掛けただけだった。
 ところが今は、家具の類の一切無い、つるりとした真っ白な素材で全面を覆われた部屋にいる。
「誘拐? 監禁? やだ……やまと……」
 じわりとその大きな青い目に涙を滲ませた美月に、湖宵が頭を振る。
「大丈夫だよ、大和がこれに気付かないわけないし……大和ほどなんでも出来るわけじゃないけど俺がいるから大丈夫だよ!」
 ね、と手を握ってきた湖宵の手が少し震えていることに気付いた美月は、きゅっと唇を噛むと、服の袖で目を擦った。
「ん! もう泣かない! こよちゃんは俺がまもる!」
「……ありがと」
 へにゃりと湖宵が眉を下げた時、かちゃりと小さな稼働音がした。身を竦ませた二人の視線の先で、ゆっくりと壁の一部がスライドして自動ドアのように開く。
 顔を見合わせてから立ち上がり、恐る恐るその向こうを覗くと、そこは、壁一面が黒白の市松模様に塗り分けられた小さな部屋だった。
「……どうしようか」
「ここにいたって仕方ないよ、いこ!」
 湖宵の手を引いて美月が部屋へ入ると、部屋の真ん中から奈落のようにせり上がって来るガラスの机。その上にはチェス盤が置かれていた。
『すべてのクイーンの死を回避せよ』
 突然響いたのは、よく案内音声で聞くような無機質な女性の声。
『すべてのクイーンの死を回避出来なければ、自らもまた死に至るだろう』
 不穏な台詞に美月が口を開くより先に、ガコン、と部屋が揺れる。続いて大きなモーター音。慌てて周囲を見回した美月の隣で、湖宵が焦った声をあげた。
「天井! 天井が降りてきてる!」
 目をこらすと、少しずつではあったが確かに天井が床へ向かって降りてきていた。壁の模様が無ければわからないくらいの速度ではあったが、そう遠からず天井と床がキスをするだろう事が予想出来る。
「えっ、ど、どうしよう?!」
「来たドアも開かないよ!」
 部屋の中をおろおろと歩き回る二人に、またその声が降ってくる。
『すべてのクイーンの死を回避せよ』
『すべてのクイーンの死を回避出来なければ、自らもまた死に至るだろう』
「クイーン……?」
 視線を巡らせた湖宵は机の上のチェス盤に気付き、美月を呼ぶ。不安を分け合うように手を握り合って、二人は身を寄せ合い周囲に気を配りながら机へと近づいた。
 チェス盤には、クイーンの駒が八個並べられていた。
「クイーンの、死を、回避……」
 眉を寄せて盤上を見下ろす湖宵の隣で、同じようにそれを覗き込んでいた美月が、あっ、と声をあげる。
「このクイーン死んじゃう」
「え?」
 問い返した湖宵をよそに、美月はその白い指先で、
「クイーンって縦横斜めに真っ直ぐ進めるの、だから……」
 ひょいとクイーンをひとつ摘まんで、
「これで」
 滑らせるように斜め方向へ動かしてその先にあるクイーンを、
「……ほら、このクイーンが死んじゃう」
 倒す。
 ことんと音をたてて倒れたクイーンをもう一度元の位置に戻す美月を見ていた湖宵は、はっ、と表情を変えた。
「全部のクイーンが取り合わないように配置しろ、ってこと?」
「そっか! きっとそうだよ、こよちゃん頭いい!」
 盤上のクイーンを一旦全て取り除き始めた美月は、ふと手を止めてぱちぱちと瞬きをしてから湖宵を見た。
「脱出ゲームみたいだね」
「うん……俺たちをここに連れてきた奴が何を目的にしてるのかわからないし、とりあえずはこのゲームに付き合った方がよさそう」
 難しいこと考えない方がきっとうまくいくよ、と言いながら美月は先刻の泣きべそ顔が嘘のようにクイーン達を盤に乗せてああでもないこうでもないと動かし始める。
 それを見て小さく笑った湖宵も、クイーンをひとつ握り締めて難しい顔で考え込み始めた。
 ……だが、大きなモーター音をたてて降りてくる天井の圧迫感が、どうしても集中力を鈍らせる。湖宵は内心の焦りを押し隠し、気を紛らわせるように口を開いた。
「……そういえば美月ちゃん、チェス出来るんだね」
「やまとに教えてもらった!」
 盤上から目を離さずに答える美月は、恋人の話をするからかこの状況でなおどことなく嬉しそうですらある。
「へえ、強いの?」
「やまととしかしたことないからわかんない……やまと相手でごぶごぶくらい?」
 ふんふんと鼻歌をうたいながらクイーンを並べていく美月の隣で、湖宵は一度強くクイーンを握り締めてから、小さく息を吐いた。
 そっと、盤上に置く。
「あれ? これでいけたんじゃない?」
 美月が声をあげるのと同時、がこん、と音をたてて天井が停止する。
「……助かった……?」
 じっとしたまま部屋を見回す二人の目の前で壁の一部がスライドし、また扉が現れる。
 顔を見合わせた二人は、恐る恐るそちらへ向けて足を踏み出した。


  *  *  *


「……?」
 某所にある特別なマンションの一室に帰宅した主、峰津院大和そのひとは怪訝そうに眉を寄せた。
 電気のついていない部屋、寒々しい空気。常ならば勢いよく飛びついてくる同居人……美月の姿が無い事に気付いて、大和はコートを脱ぎながら思案した。
 友人と出掛けた事は知っている。その友人のこともよく知っているが、こんな遅くまで連れ回すような人間ではない。
 何かあったのかもしれないとポケットから取り出した携帯電話を操作して、大和の顔色が変わる。
「……式が外れている?」
 危なっかしく何をやらかすかわからない性質の美月にお目付け役としてつけておいた式が、対象を見失い一定地点を旋回し続けている様が画面に表示されている。
 ――何かあったのだ。普通でない、何かが。
 大和は再びコートを羽織りながら、部屋を後にした。
 ……数分後、式の旋回している公園に着きそれを回収した大和は、周囲に感覚を開く。何か超常のものがある筈だ。
 だがサーチし始めてからそう経たない内、ある人間の気配を感じて大和は一旦感覚を閉じた。
「……栗木」
「峰津院!」
 大和の姿を確認するや否や大股で近付いてきた男、ロナウドは、少し焦った様子で口を開く。
「湖宵くんがまだ帰ってこないのだが、美月くんは帰ってきたか?」
「いや。そうか、貴様のところもか」
 もう一度感覚を開き周囲を見渡した大和は、ふと違和感を覚えて目を眇めた。公衆トイレの影、闇のわだかまるその場所に、何かひずみのようなものがある。
 何も言わずに歩き出した大和を追いかけてきたロナウドは、どうした、と囁くように訊ねた。
 大和はそれを無視して、その携帯電話を何もない空間に突きつける。
「この程度の目くらまし、峰津院に通じると思ったか」
 ぱちん、と何かが弾けるような音がして、次の瞬間その空間がぐにゃりと歪んで木の洞に似た穴が出現した。
 迷う事なくその中へ足を踏み入れる大和を、一瞬迷ってからロナウドは追いかけた。
 ……次の瞬間踏んだ地面は、ぐにゃりと柔らかいような気がした。ロナウドは眩暈を堪えて、目前の肩を掴む。
「……ついて来たのか」
「どういうことだ、説明しろ峰津院!」
 詰め寄るロナウドを呆れたように見た大和は、面倒そうに口を開く。
「……境界が一枚剥がれたのだろう、こちらへ美月は滑り落ちた可能性が高い」
「境界?」
「世界の境界だ、つまり……」
 ギャア、ギャア、と鳥でも獣でもない鳴き声がする。
 振り返ったロナウドの目線の先には、自然には存在しえない……獅子に蟻の下半身が繋がっているけもの、二足で歩く獣頭人身の剣士、その他様々な魑魅魍魎が迫ってきていた。
 あり得ないのに、大和もロナウドもそれを知っている。
 ――悪魔。
「ここはあいつらの領分だ」
 絶句したロナウドに向かって走り寄ってきた悪魔が剣を振り上げた瞬間、大和が鋭く声をあげる。
「栗木」
 投げ渡されたものを確認する間もなく、
「#9が力体型物理だ、セットしろ」
 端的な言葉に問い返す暇さえ無く、
「……!?」
 身構えたロナウドの目前で、悪魔の振り下ろした剣が見えない壁に弾かれるように止まった。
 手の中にあるもの……咄嗟に操作した携帯電話の画面で点滅する「物理無効」の文字にロナウドは目を見張る。だが次の瞬間には慣れた様子で携帯を片手で操作しながら悪魔の方へ走り寄る。
「デスバウンドっ!」
 強烈な回し蹴りが繰り出されると同時に衝撃波が扇状に発生し、数体の悪魔を消し飛ばしマグネタイトのきらめきに変える。
「ち、沈めきれないか……!」
 恐らく物理に耐性のある、複数体の悪魔が無傷のまま向かってくるのを睨んだロナウドの背後から、
「どけ」
 短い言葉。問い返す前に嫌な予感がしたロナウドが脇へ跳んだ直後に指を鳴らす音。
「メギドラオン」
 純然たるエネルギーが収束し、爆ぜる。轟音の後そこには悪魔の影も残らず、唖然とその様子を眺めたロナウドは抗議の声をあげる。
「俺ごと殺す気か!」
「貴様は殺しても死ぬまい」
 予備の携帯電話を手に歩み寄ってきた大和は悪びれもせず、その様子に毒気を抜かれたロナウドは溜め息を吐きながら周囲を見回した。
「……ここに二人がいるなら、早く見つけないと」


  *  *  *


 ――幾つものパズルや問いの仕掛けられた部屋を抜け、二人が辿り着いたのは今までのものとは違う雰囲気の広い部屋だった。昔歴史の教科書で見たような、装飾の施された石の柱が立ち並んでいる。
「朝には四本足、昼には二本足、夜には三本足になる生き物の名前を答えよ」
 部屋の奥から響く、女性とも男性ともつかないコントラバスのような声に美月は息を呑んだ。
「……人間。四つん這いの赤ん坊、自立した青年、杖をついた老人」
 湖宵が囁くように答えると、奥から笑うような音がした。そして、パッと部屋の明かりがつく。
 ――巨大な獅子である。
 部屋の奥に悠然と横たわるのは巨大な獅子であり、優美な鷲の翼であり、美しい女性の上半身、すなわち「スフィンクス」と呼ばれるものによく似た姿かたちの存在だった。
「私の問いに答えるお前たちの光、非常に美味であった」
 緩く翼をはためかせ、その怪物は笑う。
「私は問うもの。問いに答えられることで生きるもの。お前たちは永遠にこの迷宮へ囚われ、私の為に答えを導き続けるのだ」
 つくりもののような、息の止まるような美しい笑みに湖宵は気圧され黙ったが、
「やだ!」
 美月はきっぱりと断言した。
「俺はやまとのとこに帰るし、こよちゃんはロナウドのとこに帰るの!」
 怯まず、怖じず、真っ直ぐ前を見て宣言した美月を湖宵は眩しそうに見た。
 だが、足を開いて仁王立ちする美月は、腰に手を当て胸を張ると付け加えて、
「……こよちゃんは俺のとこでもいいよ!」
 そう言ったものだから、湖宵はがくりと脱力した。
 黙って二人を見ていた怪物は、理解出来ない様子で頭を振り、再び口を開いた。その唇は妙に赤い。
「ならばやむを得まい、お前たちの首を私の非常食として取り置く事にしよう」
 ゆるりと体を持ち上げ、怪物は背を反らし遠吠えのように吠える。びりびりと肌を打つそれに、美月はきゅっと唇を噛み、守るように湖宵の前へ立った。
「お前なんか怖くない! 俺は、……俺はやまとの恋人なんだから、こんなことくらいで、泣いたりしないんだから!」
 おかしげに笑った怪物の周囲に、氷の塊が幾つも浮かび上がる。ぴしぴしと音をたてて槍の形に変形してゆくそのすべてが、二人の方へ鋭い穂先を向ける。
「……氷の乱舞」
 低く音が響くのと同時、氷槍が勢いよく二人目掛けて飛来する。それから守るように、美月は湖宵を床に押し倒しぎゅっと抱きかかえて丸くなった。
 衝撃かあるいは痛みかに備えてきつく目を閉じ身を固くしていた美月は、一向にそれが来ない事にゆっくりと目を開き、
「……全く、手間をかけさせてくれる」
 聞き慣れた声に勢いよく顔を上げた。
 黒いコートを靡かせるすらりとした少年の影。銀色の目が、鋭く細められ前を見ている。輝く光の盾が怪物の攻撃を防ぎ、のみならず弾き返して相手に幾らかの傷を負わせていた。
 峰津院大和そのひとが、そこに立っていた。
「やまと! やまとー!!」
 飛び上がって抱き着きぐりぐりと頭をすり寄せた美月にほんのわずか、わかるかわからないか程度に表情を緩めてから、ヤマトは怪物に目を向けた。
「悪趣味なゲームを仕掛けてくれたな怪物風情が、その翼を毟られ首を飛ばされたくなければ疾く去ね!」
「峰津院の徒か、面倒な……」
 苦々しく呟いた怪物は、その翼で体を覆うようにしてぐにゃりと消え去った。ふん、と鼻を鳴らした大和にぴったりとくっついたままの美月は輝かんばかりの笑顔でぴょんぴょんと跳ねる。
「やまと、やまと助けに来てくれたの? ありがとう!」
「……怪我は」
「無いよ! やまとーやまとー」
 ろくに話も聞かずに、何度もいとしい恋人の名を繰り返し猫のようにすり寄る美月の姿をぼんやりと眺めていた湖宵は、ほっ、と息を吐いてから立ち上がろうとする。
 その湖宵を、突然誰かが抱き締めた。
「湖宵くん! よかった無事で!」
「……ロナウド?」
 不思議そうな声をあげた湖宵は、自分のいとしいひとの姿を見て体から力を抜く。体に回された腕へ体重を預けて、それからくしゃりと顔を歪めた。
「ロナウド、……ロナウド、こわかったロナウド……!」
 スイッチが切れたように泣き出した湖宵に、そっとロナウドが口付けようとした瞬間、
「こよちゃーーーーん!!!!」
 勢いよく体当たりしてきた美月がロナウドごと湖宵を抱き締めてわんわんと泣きじゃくる。
「美月ちゃん、よかった、俺たち、よかったぁ……」
 ロナウドから離れて美月の方へ抱き着いた湖宵を、やりどころのない手を持て余したロナウドが見ていた。


  *  *  *


「全く、お前は無茶をする」
「今回は事故だもん、俺悪くないよ」
 帰りの車の中、ぷぅ、と頬を膨らませる美月の頭を撫でながら大和はかすかに笑った。
「啖呵を切っていただろう、私の寿命を縮めるような真似はしてくれるな」
 叱られた子供のようにしゅんと肩を落とした美月は、だが、もぐもぐと口を動かして弁解をする。
「だって……こよちゃん友達だもん、俺が守るって約束したんだもん……」
 そうか、と大和はこたえて、街灯の流れる窓の外を見遣る。
「慈悲深いのはお前の美点だが、……まあいい、今日はゆっくり休め。疲れただろう」
「……」
「美月?」
 怪訝そうに眉を寄せた大和が隣を見ると、美月は大和にもたれかかってうとうとと船を漕いでいた。
 ふ、と口元を緩めてから大和の腕が美月の肩へと回り、己の方へ引き寄せその頭に頬を寄せる。
「……よく頑張ったな、美月」
 優しげな声が、子守歌のように、降った。


《終》 

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