童話パロ。
ウサミミがシンデレラでヤマトが王子様です。
ナチュラルに女装だし整合性など投げ捨てろ。
うさでれら
むかしむかしあるところに、美月という少年がいました。なんやかんやあって、毎日いじわるな姉に苛められたり無茶ぶりをされたりして暮らしていました。
そんなある日、美月はお城で舞踏会が開かれるという話を耳にします。王子様の結婚相手を探すパーティーです。
美月は昔、城下町を視察に訪れた王子様を遠くから見たことがありました。美しく、凛々しい王子様の銀色の目に、白い指先に、美月は一目ぼれしてしまったのです。
けれど相手は王子、美月はみすぼらしいただの少年。姉たちはきゃっきゃと楽しそうにドレスやアクセサリーを見繕っていますが、美月は一人姉たちのドレスを繕わされたりしていました。
いよいよ舞踏会の夜が来ました。
たった一人、言い渡された掃除を懸命にしていた美月が裏庭で少し休憩をしていると、目の前にふわりとつむじ風のようなものが巻き起こり、思わず目を閉じて再び開いた時には、見知らぬ少年がそこに立っていました。
美月によく似た姿をしたその少年は、真っ黒いマントととんがり帽子、先端に赤い星(に目玉のついた謎の物体)のついた杖を持っていました。まるで魔法使いのようです。
「こんばんは、美月ちゃん。舞踏会に行きたいの?」
少年に尋ねられた美月はうなずきましたが、すぐにしょんぼりと俯きます。
「でもおれ、こんな格好だし、ドレスもないし、お城は遠いよ……」
「大丈夫! 俺に任せて!」
胸を張った少年は、美月にネズミとトカゲとカボチャを持ってくるように言いました。言われた通りに美月が用意すると、少年は杖を高々と掲げます。
「マハブフマハジオメギドラオン! 美月ちゃんの服、きれいなドレスになあれ!」
ぽんっ、と火薬玉の弾けるような音がしたかと思うと、美月のみすぼらしい服は一瞬にして美しいドレスへと変わりました。
目を丸くする美月をよそに、少年はカボチャを馬車に、ネズミを馬に、トカゲを御者に変えてしまいます。
「これで舞踏会に行けるよ!」
「うわあ……! ありがとう魔法使いさん!」
ぱあっと顔を輝かせた美月はさっそく馬車に乗り込みましたが、少年が窓から覗き込んで忠告します。
「でも美月ちゃん気を付けて、俺の魔法は12時までしかもたないんだ。12時を過ぎると魔法は解けてしまうから、それまでには帰ってくるんだよ」
「わかった!」
「うん、いってらっしゃい!」
美月は魔法使いに手を振りながら、カボチャの馬車でお城へと向かいました。
……お城についた美月は、舞踏会に来ていたどの娘よりも輝いていました。
ざわざわと来客がざわめく中、王子様が美月へと近寄ってきます。
「美しいひと。私と踊ってくれないか」
「はい、喜んで……!」
それはそれは夢のような時間でした。
楽団の奏でる音楽に合わせて、美月と王子様は踊ります。美月の背に回された王子様の腕は逞しく、美月はうっとりと王子様の顔を見詰めながら、リードされるままに踊ることしか出来ません。
……けれども、ああ!
ふと広間の時計が目に入った美月は青褪めます。もう12時まで時間がありません。
「王子様、ごめんなさい、おれもう帰らないと」
「何故だ。お前は私の妃となるのではないのか、私の前から去ってしまうのか」
「……ごめんなさい!」
美月は後ろ髪引かれる思いで広間を駆け出し、追ってくる王子様をふりきって馬車に乗り込みお城を後にしました。
後には、美月の履いていたガラスの靴だけが残っていました。
数日後、美月はまだ舞踏会の事が忘れられず、ぼんやりと箒を動かして玄関先の同じ場所を何度もはいていました。
その目の前に、一台の馬車が止まります。
美月が顔をあげると、その馬車から降りてきたのはあろうことか王子様!
思わず美月は声をかけそうになりましたが、今の美月はただの薄汚れた少年でしかなく、美月はなんだか悲しくなって唇を噛みました。
「……姫」
ですが王子様は真っ直ぐ美月に歩み寄ると、その前に跪きました。
驚く美月の前にガラスの靴を差し出し、迷いの欠片も無い眼差しが美月を貫きます。
「私の姫。この靴を届けに来た、出来ればこのまま私と共に城まで来てほしい」
美月は目を丸くしていましたが、ゆっくりと言われたことの意味を理解し、ぽろぽろと泣き出してしまいました。その真珠よりも美しい涙を、王子様の指先が拭います。
「何故泣く。……私を拒むのか」
「ちが、ちがいます、おれ、おれ王子様が好きで、」
美月は思わず腕を伸ばし、王子様に抱き着きました。
「おれをお嫁さんにしてください!」
「……最初からそのつもりだ」
満足げに目を細めた王子様は、美月の髪を撫でてからその額にキスをしました。
それから二人は仲睦まじい夫婦となり、末永く幸せにくらしました。
めでたし、めでたし。
《終》