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Posted by 新矢晋 - 2014.03.31,Mon

栗木ロナウド単独SS。
本編中、画面に映らない時の彼らはきっとこんな事してたんじゃないかな!
このロナウドはマコトさんを道頓堀するタイプのロナウド。
死ネタ……になるのか?




十一人目のかれの話


 五人目だった。
 瓦礫の陰でスコップを動かすその男は今や無表情である。ただ手を動かすことにだけ集中するのが、彼の痛苦を和らげる唯一の手段であったから。
 ――男が初めて出会った死は祖父のそれだった。あまり顔を合わせたこともない老人の死に現実感は無く、広い屋敷で親戚の子供らとかくれんぼなどをしたことの方を男はよく覚えている。それからうすぼんやりと、出棺の前に父親に抱き上げられて覗き込んだ棺の作り物のようにかさかさとした老人と、それがなぜだか子供心に異常なものに思えて泣きじゃくったことを覚えている。
 それからはときたま親戚や知人の葬式に参列するくらいで、死を目の当たりにすることなど滅多に無かった。男はごく普通の範疇に含まれるだろう人生を送ってきた。

 世界が攻撃を受けたあの日、目の前で瓦礫に押し潰されて死んだ一人目。

 巨大な狼に食い千切られて死んだ二人目の血飛沫はまだ男のズボンの裾から消えない。

 三人目は環境の激変に耐えられなかった胎児、四人目はその母。

 そして先日男が救出した老人は、その時負った傷が原因でつい今しがた五人目となった。

 この数日で立て続けに触れた死は男を少しずつくるわせている。男は自分の痛苦を和らげる方法を知ってはいたが上手くはなく、自らヤマアラシの群れに身を置いている。
 血を流しながら男は誓う、結局破る羽目になる無駄な誓いを、「これを最後の死にするのだ」と、何度も。
 もうその誓いは空しさしか産まないが、それ以外に男には縋るべきものが無かった。嘆きも、涙も、何も産まないことを男は知っていた。助けを求める声は誰にも聞こえず、世界は優しくはない、それを男は十二分に知っていた。だがその誓い以外に何も寄る辺は無かったのだ。
 そう、男はいつだって、世界に聞こえない声を聞いていた。それから耳を塞ぐことは出来なかった。悲しみが男を駆りたて、ただうつろな誓いだけがその背を押し、いずれすべてが憎しみと憤怒に変容する未来が避けられないとしても、男は世界の残酷さと人の弱さから目を背けることが出来なかった。そしてそれゆえに傷み続けていた。
 男の握るスコップは重く、粗末である。割ける体力も多くはない。浅く地面を耕してその上に彼らを横たえ、上から瓦礫で覆うのが精一杯の弔いだった。細かな傷が増え、爪が削れてきている自分の手を見る男はやはり無表情だ。
「ロナウド! 時間だ!」
「……ああ、いま行く」
 遠くから聞こえた声にこたえた男は少し顔を強張らせてから、そっと、おかしくもないのに笑った。

  ▼  ▼  ▼

 トラックのフロントガラスへ大きな鳥が激突し、真っ白く罅割れたガラスが視界を塗り潰して運転手はハンドル操作を誤った。電信柱に激突したトラックは停止し、既に傾いでいた柱はついに電線を引き千切りながら地面へ倒れた。
 もうもうと舞い上がる土埃を切り裂き駆けてきた人々が、トラックから降りる制服の人間、つまりはジプス局員を取り囲み携帯を構える。
「クソっ、何も知らない民間人が……何をしているかわかっているのか?!」
 通信機で応援を呼ぼうとした局員に、暴徒と呼ばれる彼らが何も言わず一方的に攻撃を仕掛けた。抗戦の為にその手から放り出された通信機を取り上げ、男は、弱者の英雄は唇を捻じ曲げた。
「何を? ああ、わかっているとも、……これは正当な権利の行使だ!」
 少し割れた声で叫ぶ男の目はぎらぎらと光っていて、それはか弱き者を酔わせる毒であり、聖戦を呼ぶ熱である。彼らを守る為に戦う彼は、己の存在そのものが彼らを駆り立てることに無自覚である。世界に優しくあってほしい筈の男は、彼らを守り育みたい筈の彼は、暴力と闘争によって動かされる彼らを率い傷つけあわせている。男は彼らの盾であると同時に、彼らを剣と化していた。
 自らを生かす為に戦い、戦うがために死ぬ彼らの矛盾を誰も知らない。
 誰も、彼も、その矛盾を知らない。
 ……交戦は短時間で終わり、局員たちが撤退してなおその興奮を醒ますことの出来ない彼らが戦の興奮とは別種の動揺をしていることに気付いた男は人だかりの方へと近付き、その理由を知った。
「なあ、ロナウド……」
 青褪めた若者の足元に倒れているぴくりとも動かない「それ」の前に屈み込んだ男は、その身形を改めてから頭を振った。
「やらなければ俺たちがやられていた。……仕方のないことだ」
 ひ、と息を飲む音がどこからか聞こえる。こんな異常な環境に置かれた彼らは無知で弱い存在だからこそ、その暴力に加減は無く程度もコントロール出来ない。いずれこうなるだろうことを男は予感していた。
 ――死なせないがために、自らの手で殺してしまうという最大の矛盾。
 激痛に耐えながら唇を一度噛んだ男の表情を誰も見ていなかったし、小さく息を吐いてからこぼした男の声が震えていることにも誰ひとり気付かなかった。
「死者に罪は無い、弔ってやろう。……来られる者だけ手伝ってくれ」
 六人目だった。

 二度と死なせないという誓いはまた何度も破られるが、十一人目を最後に男が死を目の当たりにすることはなくなった。
 十一人目を迎えるのは瓦礫の閨ではなく、冷たく濁った水の閨だった。


《終》

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