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Posted by 新矢晋 - 2013.08.24,Sat
リクエスト頂いて書いたケイタと主人公。恋愛ではないつもりですが距離感近め。
夏祭りの話。





かき氷のとけるまで


 大阪の夏祭りに合わせて皆で遊ぼうという彼の提案に乗って集合したのは、仕事の忙しい一部の大人以外と、地元の面子だった。
 女子たちは緋那子に紹介されたレンタル浴衣でああでもないこうでもないと着飾って、男子たちはそんな女子を気にして夏の熱気にそわそわする。
 準備が整い祭り場へ繰り出した後、大所帯でうろつくのも不便な為、何人かずつに分かれてうろつく事となったのだが……ちゃっかり女子と同行したりいつもの相手と連れだったりする者からあぶれたのは、渋々といった様子で参加していた大阪のボクサーと、その親友(自称)であるところの言い出しっぺの少年だった。


「たこ焼き食べたい」
 屋台の並ぶ道を歩きながら、不意に呟いた少年を見上げて――不本意ながら未だに見上げて!――啓太は舌打ちをした。
「アホ、祭り屋台のたこ焼きなんぞ高いだけで美味くないわ」
「ええー、たこ焼き食べたい」
「ああ?! うっさいのお、……ああアレやったらええわ。あのおっさん、よそでも店出しとるからマトモやろ」
 啓太は早足にひとつの屋台へと歩み寄り、たこ焼きを一船買ってきて押し付ける。とりあえず受け取ってからきょとんと瞬きをした相手に呆れたように溜め息を吐いた。
「自分が食いたい言うたんやろ。さっさと食えや、冷めたたこ焼きなんぞ食えたもんちゃうぞ」
 促されるままたこ焼きを口に入れた少年は、思いのほか熱かったらしくぱたぱたと地団太を踏み涙目になりながら咀嚼し飲み込んでから、ぱっと表情を明るくして啓太に向き直る。
「美味しい! はい!」
 ずいと啓太にも船を差し出して、差し出された方が不機嫌そうに眉を寄せたのにも気付かず――というか、気付いているだろうに無視をして――にこにこと笑う。その少年を退けるのは至難の業だということを啓太は知っていて、渋々ながらも爪楊枝でひとつたこ焼きを摘まみあげ口に放り込む。
「……、……」
 恐らく熱かったのだろうが一瞬だけ眉を跳ね上げただけで何も言わずに口を動かす啓太を、にこにこ眺める少年。啓太は不本意そうな顔で船を返し、はよ行くぞと歩き出した。


 金魚すくいや射的といった勝負の出来る屋台を中心に回り、一勝一敗一引き分けと接戦を繰り広げる途中、少年は休憩を提案した。それに軟弱だなんだと文句を言いながら啓太も従い、ちょっとした休憩所のベンチに二人並んで腰掛けた。
「ブルーハワイって何味なんだろうねー」
「知るか」
 不愛想に、だが律儀に言葉を返す啓太は手元の紙カップに盛られたかき氷を見下ろした。先ほど、頼んでもいないのに勝手に買ってこられたそれにはいかにも体に悪そうな真っ青なシロップがかけられ、なんとも食欲をそそらない。
 一方隣に座るその張本人の手元には定番の赤いシロップがかけられたかき氷があり、もくもくと氷を頬張っているその顔は幸せそうで腹立たしい。
「なんでこないなもん買うて来てん」
「んー」
 さくさくとストローでかき氷をつつき、少し黙り込んでからちらりと啓太を見てくる少年。
「……怒らない?」
「そう言う根性が気に食わんからどつく」
「不条理だ?!」
 笑いながら片手で頭をかばうような仕草をしてから、へら、と少年は笑った。
「さっきたこ焼き食べてから、舌打ちしなくなっただろ? 冷やした方がいいんじゃないかって、」
 言い終わる前に構えていた腕を叩かれ、少年はしょんぼりと眉を下げる。もごもごと言い訳をしようとしたがそれも余計に怒りを買うことがわかりきっていたため、何も言えない。
 が、啓太は一度叩いただけで顔を背けてざくざくとかき氷を掬い口に入れ始める。
「啓太?」
 そろそろと腕を下ろしてから様子を窺う少年からは、啓太がどんな顔でかき氷を食べているのかは見えなかった。


《終》

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