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Posted by 新矢晋 - 2012.05.30,Wed
ダイ主なのか主ダイなのか。
実力主義の世界で、病みミミさんがダイチを監禁する話。貧乏くじなヤマトとダイチ。
死人が出てるような出てないような。

ヤンデレの幼馴染みに死ぬほど愛されて眠れない俺

 ――ある朝目が覚めると知らない部屋にいた。


「……はい?」
 思わず間抜けな声が漏れる。ふかふかのベッドに清潔な室内、広さは俺の部屋より少し広いくらい。取り敢えず室内を見回していた俺は、携帯電話が取り上げられている事に気が付いて血の気が引いた。
 ――おいおいまじでヤバいよ何だよこれ誘拐?ラチカンキン?でも俺なんか狙ったって何の意味も無いだろうようわあ名古屋思い出すし!
 テンパっていた俺は、突如開いた部屋の扉にあわてふためいてベッドから転がり落ちた。恐る恐るベッドの影から様子を窺うと、そこには。
「あ、気が付いたのか大地」
 いつもとおんなじ、何考えてんだかよくわからないポーカーフェイスで立つ俺の幼馴染み神宮寺湖鳥。
「なななんだよ驚かせんなよな!ていうかここお前の部屋なの?なんで俺こんなとこに……」
「何言ってるんだよ、大地はここで暮らすんだろ?」
「はあ?」
 意味がよくわからず聞き返した俺に、湖鳥はにっこりと微笑んだ。……ああ、この笑顔に大抵の女子はコロッといっちゃうんだよなあなんて平和な事を考えていた俺の耳に、妙に薄ら寒い声が届く。
「大地は放っておくとすぐ死んじゃうからさ。この部屋から出なければ安全だし」
「ぶっ!死、って何よ?!確かに俺何回か死に顔動画のお世話になってますけどね?!」
「うん、俺大地が死んだら嫌だからさ。大和に頼んで安全な部屋を借りたんだ、だからここから出ちゃ駄目だからな」
 ――親友の目はマジだった。
 ええとつまり、俺は今まさに親友によって監禁されつつあるって事?!
「ちょちょ待て落ち着け湖鳥、俺そんなすぐ死んだりしないって」
「実際死にかけただろ!二回も!!」
 いきなり両肩を掴まれて、俺は黙りこくる。……というかこいつ、こんな剣幕で捲し立てるような奴だったっけ?
「もうニカイアも無いし、大地に何かあっても俺が毎回助けに行けるとは限らない。だから大地はここにいて、俺が守ってやるから。な?」
 湖鳥の目はビー玉みたいに青くて、俺は思わず頷いていた。……頷かないと、えらい事になる気がした。


 俺たちが実力主義の世界を作り上げてからしばらくの時間が経っていた。
 あいつは、湖鳥は凄い奴だから大和にも頼りにされてるし、バリバリ世界の為に働いてるけど、俺は日々いっぱいいっぱいだ。悪魔の生き残りを退治しに行って怪我して帰るなんていつもの事だし、その度に湖鳥は俺の事を心配していた。
 だから湖鳥は、こんな事をしたのだろうか。……っていやいやそれにしてもおかしいだろ!いくら心配だからって、部屋に閉じ込めるなんてそんなのどうかしてる。
 ……どうか、してるよな?


 ――あの衝撃の目覚めから数日が経って、早くもこの状況に慣れつつある自分が怖い。
 湖鳥は毎日仕事の合間に顔を出し、俺が生きているのを見て安心しているようだった。夜は自室に戻っているみたいだけど、わりとしょっちゅう俺と一緒に寝たがる。俺の隣ですやすや眠る幼馴染み殿はまあ天使のようっちゃ天使のようだけど、この天使バリバリのアタッカーで監禁犯ですからね?!
 監禁には慣れても、ずっと部屋の中なんて退屈だし気も滅入る。何度か外に出してくれないか頼んでみたけど、その度にすごい剣幕で却下された。
「……俺は大地に死んでほしくないだけなんだ」
 最後には泣き出しそうな顔でそうすがられて、俺は何も言えなくなってしまう。
 ――駄目なのはわかってる。わかってるんだ。だって湖鳥はどんどん俺に依存するようになってきてるし、仕事の最中にも電話が来るようになって。
 俺はここにいちゃ駄目だ。外に出て、ちゃんと話さないと。じゃないと俺だけじゃなくて湖鳥も駄目になる。
 そう決意した俺は、脱出計画を練り始めた。


 ――うん、俺、チョロすぎじゃね?
 カーテンやらシーツやらを繋げて窓から脱出した俺は、すぐに一般局員さんに見付かって追い回された挙げ句、たまたま俺の様子を見に帰ってきてたらしい湖鳥に捕まったのだった。
 湖鳥は俺が部屋から出ているのを見ると、凄い顔をした。チビるかと思ったね。何も言わずに俺の手を引きあの部屋へ向かうのが余計に怖くて、でも俺は、言わずにはいられなかった。
「……なあ、お前どうしてそんななっちゃったの。昔はそんなじゃなかったじゃん……」
 階段の踊り場で足を止めた親友の目は、昔のまま綺麗な青色をしていたけど、何かが決定的に違ってしまっていた。俺はそれが怖くて何より悲しくて……悲しくて。
「こんなの良くねぇよ。お前が俺を心配してるのはわかるけど、だからってこんなの……おかしいだろ?」
「俺はただ、大地に死んでほしくなくて、だから……」
 ああ、泣きそうになってるな。子供の頃と変わらない、くしゃくしゃと鼻に皺を寄せて。でも。
「……俺は戻らない」
 湖鳥の手を外させると、あいつ本当に傷付いたみたいな顔をして、ほだされそうになるけど心を鬼にする。
「心配しなくても俺、ちゃんと一人でやってけるから。また普通に親友しようぜ、な」
 そのまま背を向け立ち去ろうとした俺に、湖鳥がすがりついてくる。腕を掴む力が強くて痛いぐらいだ。
「なんで!わかんないんだよ!大地のバカ!」
 ほとんど叫ぶみたいな湖鳥の声。そのまま取っ組み合いになった俺たちは、湖鳥に敵うわけもない俺が瞬く間に劣勢になって、踏ん張ろうとした足が不意に空を切って俺は、衝撃が、あ


  ※  ※  ※


「大地!」
 顔を蒼白にして階段を駆け下りてきた少年は、床に倒れたまま動かない志島大地の横に座り込みその身体を揺さぶった。
「大地、大地!し、やだ、大地死んじゃった?俺、大地、おれ……」
「どうした湖鳥」
 泣き出しそうな少年とは裏腹に落ち着き払った声が降ってくる。その主は冷めた目で大地を見下ろしていたが、少年はがんぜない子供のような顔で隣を、峰津院大和を見上げた。
「大和、どうしよう俺、大地が」
「ふむ」
 膝を折り大地の様子を確認した大和は、無表情に頭を振る。
「頭を強く打って意識を失っているだけだ、死んでいない。落ち着け」
「ほんと?大地死んでない?」
「ああ。志島は私が医務室へ連れていくから、君は顔を洗ってきたまえ」
 ぐすぐすと鼻をすすりながら少年がその場を立ち去るのを見送ってから、大和は無造作に大地の身体を横抱きにした。そのまま軽々と進む足は、……しかし医務室を通り過ぎる。
「……なかなか上手くいかんものだな」
 呟く声は静か。
 そして大和が姿を消したのは、一部の者しか立ち入りを許可されていないターミナル基地だった。




 ――真実は大抵の場合残酷で悲惨なものである。




 黄金色に輝く円柱の前に横たえられた志島大地は、とうに息をしていない。峰津院大和はその白いかいなを円柱に……ターミナルに翳し、干渉を始める。
 大地の身体が、端から分解され概念へと還ってゆく。そしてまたその端から再構築され、新たな肉体を形作る。
 光の奔流がおさまり完全に「志島大地」の再生が成ったのを確認してから、大和は疲れたように溜め息を吐いた。
「これで三人目か……次はうまくやってくれると良いのだが」
 ――神宮寺湖鳥という優秀な人間を優秀たらしめる為の礎になるのなら、それは志島大地という凡人には過ぎた役目ですらあるだろう。……寧ろ、霊的にも物理的にも平凡なデータを持つ志島大地だからこそ、ターミナルに残った情報からその存在を再構築するなどという荒業が出来るのだから、神宮寺湖鳥の楔が志島大地であるというのは不幸中の幸いかもしれない。
 ――ああ、次はどのくらいもつだろう。そんな事を考えながら、大和は大地を抱えてその場所を後にした。


《終/あるいは最初に戻る》

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