Posted by 新矢晋 - 2012.05.08,Tue
平等主義が実現した後の世界での話。
両想いの筈なのに不安なウサミミと無慈悲なロナウド。
先行きが不安な感じ。
両想いの筈なのに不安なウサミミと無慈悲なロナウド。
先行きが不安な感じ。
雨、虹はまだ見えない
まだ建て直しも済んでいない廃墟に駆け込む。犬のように頭を振って雫を払い、手櫛で髪を撫で付けながら彼はこちらを向いた。
「凄い雨だな」
「土嚢積んだ後で良かったね」
「ああ、だが止んだら一度見に行った方が良さそうだ」
叩き付けるような勢いで降っている雨は、暫く止みそうにない。コンクリートで四方を囲まれた薄暗い室内で二人、俺とロナウドは時間を潰す。
――今日は河川敷の様子を確認しに行って、ついでに現場を手伝ってきたところだ。……土嚢を担いで号令を飛ばすロナウドは、机にかじりついて計画書を作ったりしている時よりよほど生き生きしていて、横顔が格好よかったりなんかして、
「どうした?コヨイくん」
思い出しながらロナウドの顔を見詰めてしまっていたらしく、不思議そうに尋ねてくる彼を適当にあしらっていた俺の耳に、地鳴りのような音が届く。
「……!」
びく、と身体が強張るのを隠せなかった。
気付いてほしくない時だけ聡いロナウドは、物問いたげにこちらを見て口を開きかけたがそれよりも先に窓の外で空が光る。
――俺が窓から離れて部屋の隅にしゃがみ込み両耳を塞ぐのと、破裂音にも似た爆音がびりびりと空気を揺らしたのはほぼ同時だった。
「……コヨイくん?」
心配そうに覗き込んでくる彼は、本当に、こんな時だけ優しくてイケメンだから腹が立つ。
「雷、苦手で……子供っぽいけど、苦手なものは苦手なん……っ」
言い訳をする暇も無くまた閃光。ぎゅっと目を閉じて身を縮こまらせた俺は、肩に触れた大きな手にそのまま抱き寄せられて息が止まるかと思った。
「あ、え」
背中を擦ったり頭を軽く叩いたりする手のひらを意識しすぎて、うまく喋れない。そんな俺の動揺になど気付きもせず、ロナウドは俺の髪をそっと指で鋤いた。
「怖いなら我慢する必要はないんだぞ、君はいつも本当に強くて賢い男の子なんだから……たまには甘えたってバチは当たらないだろう?」
こちらを見下ろす彼の眼差しが真っ直ぐすぎて、頬が熱い。それを隠す為に胸元へ額を押し付けたら、くすくすと笑う振動が伝わってきた。
雨に濡れたシャツからは、土と汗の匂いがした。不器用なヒーローの……ロナウドの匂い。
「……すき、」
ほとんど無意識に呟いて目を閉じる。雷はいくらか遠ざかり、もうこうしている必要は無いかもしれないけれど離れがたい。
――雨なんて、やまなければいい。俺とロナウド以外のすべて、海に沈んでしまえばいい。そうすれば、彼は俺のことだけ見てくれるのに。
じりじりとした不安と焦燥感、嫉妬にも似た熱をもてあましながら彼の背に手を回して、きつくすがりつこうとしたら肩を掴まれ引き離されて、
「あ、ごめ、」
額に触れた、少しかさついた唇の感触に声が出なくなる。
多分今の俺は馬鹿みたいな顔をしていると思う。ロナウドの顔を見上げると真剣な表情で見下ろされて、どうしたらいいかますますわからない。
「好きだ」
心臓が痛い。
「君が好きだ、大好きだ!だから、遠慮なんかせずに甘えて欲しいし頼って欲しい。俺はこれでも大人の男だし、君の事を守りたいって思ってるんだ」
「え、あ、」
痛い。心臓が締め付けられる。ロナウドの言葉は偽らざる彼の本心だろう。彼は俺の事を大切に思ってくれているのだ、だからこそ泣きたいくらいに辛くなる。
――こうして俺が甘えている限りは、ロナウドは俺を気遣い甘やかしてくれる。彼は器用なひとではないから、その時口にする愛や好意は偽りではない。本気で俺のことを考えてくれている。
だがロナウドは俺だけのヒーローではなくて、俺がこの手を離したらすぐに他のひとの所へ行ってしまう。俺はそんな彼を好きになったのだから仕方ないのだけれど。
……あ。駄目だ。
「コヨイくん?!」
驚いたようなロナウドの声も、俺の目から零れ落ちる涙を止めることは出来なかった。
――好きで。好きで好きでどうしようもなくて、この手を離したくなくて。
あわあわと俺の肩に手を置いたり髪に触れたりしていたロナウドは、結局乱暴に俺の顔を自分の胸に押し付けさせた。
「すまん、俺はただ……」
何か言いかけた彼の言葉を遮り頭を振って、取り繕わず力一杯腕を回してすがりつく。
「ありがとう、大好き」
――いずれこの手を離さなくてはならないとしても、それでも。
黙って俺を抱き返してくれた彼の腕の力強さが、また涙腺を刺激した。
《終》
まだ建て直しも済んでいない廃墟に駆け込む。犬のように頭を振って雫を払い、手櫛で髪を撫で付けながら彼はこちらを向いた。
「凄い雨だな」
「土嚢積んだ後で良かったね」
「ああ、だが止んだら一度見に行った方が良さそうだ」
叩き付けるような勢いで降っている雨は、暫く止みそうにない。コンクリートで四方を囲まれた薄暗い室内で二人、俺とロナウドは時間を潰す。
――今日は河川敷の様子を確認しに行って、ついでに現場を手伝ってきたところだ。……土嚢を担いで号令を飛ばすロナウドは、机にかじりついて計画書を作ったりしている時よりよほど生き生きしていて、横顔が格好よかったりなんかして、
「どうした?コヨイくん」
思い出しながらロナウドの顔を見詰めてしまっていたらしく、不思議そうに尋ねてくる彼を適当にあしらっていた俺の耳に、地鳴りのような音が届く。
「……!」
びく、と身体が強張るのを隠せなかった。
気付いてほしくない時だけ聡いロナウドは、物問いたげにこちらを見て口を開きかけたがそれよりも先に窓の外で空が光る。
――俺が窓から離れて部屋の隅にしゃがみ込み両耳を塞ぐのと、破裂音にも似た爆音がびりびりと空気を揺らしたのはほぼ同時だった。
「……コヨイくん?」
心配そうに覗き込んでくる彼は、本当に、こんな時だけ優しくてイケメンだから腹が立つ。
「雷、苦手で……子供っぽいけど、苦手なものは苦手なん……っ」
言い訳をする暇も無くまた閃光。ぎゅっと目を閉じて身を縮こまらせた俺は、肩に触れた大きな手にそのまま抱き寄せられて息が止まるかと思った。
「あ、え」
背中を擦ったり頭を軽く叩いたりする手のひらを意識しすぎて、うまく喋れない。そんな俺の動揺になど気付きもせず、ロナウドは俺の髪をそっと指で鋤いた。
「怖いなら我慢する必要はないんだぞ、君はいつも本当に強くて賢い男の子なんだから……たまには甘えたってバチは当たらないだろう?」
こちらを見下ろす彼の眼差しが真っ直ぐすぎて、頬が熱い。それを隠す為に胸元へ額を押し付けたら、くすくすと笑う振動が伝わってきた。
雨に濡れたシャツからは、土と汗の匂いがした。不器用なヒーローの……ロナウドの匂い。
「……すき、」
ほとんど無意識に呟いて目を閉じる。雷はいくらか遠ざかり、もうこうしている必要は無いかもしれないけれど離れがたい。
――雨なんて、やまなければいい。俺とロナウド以外のすべて、海に沈んでしまえばいい。そうすれば、彼は俺のことだけ見てくれるのに。
じりじりとした不安と焦燥感、嫉妬にも似た熱をもてあましながら彼の背に手を回して、きつくすがりつこうとしたら肩を掴まれ引き離されて、
「あ、ごめ、」
額に触れた、少しかさついた唇の感触に声が出なくなる。
多分今の俺は馬鹿みたいな顔をしていると思う。ロナウドの顔を見上げると真剣な表情で見下ろされて、どうしたらいいかますますわからない。
「好きだ」
心臓が痛い。
「君が好きだ、大好きだ!だから、遠慮なんかせずに甘えて欲しいし頼って欲しい。俺はこれでも大人の男だし、君の事を守りたいって思ってるんだ」
「え、あ、」
痛い。心臓が締め付けられる。ロナウドの言葉は偽らざる彼の本心だろう。彼は俺の事を大切に思ってくれているのだ、だからこそ泣きたいくらいに辛くなる。
――こうして俺が甘えている限りは、ロナウドは俺を気遣い甘やかしてくれる。彼は器用なひとではないから、その時口にする愛や好意は偽りではない。本気で俺のことを考えてくれている。
だがロナウドは俺だけのヒーローではなくて、俺がこの手を離したらすぐに他のひとの所へ行ってしまう。俺はそんな彼を好きになったのだから仕方ないのだけれど。
……あ。駄目だ。
「コヨイくん?!」
驚いたようなロナウドの声も、俺の目から零れ落ちる涙を止めることは出来なかった。
――好きで。好きで好きでどうしようもなくて、この手を離したくなくて。
あわあわと俺の肩に手を置いたり髪に触れたりしていたロナウドは、結局乱暴に俺の顔を自分の胸に押し付けさせた。
「すまん、俺はただ……」
何か言いかけた彼の言葉を遮り頭を振って、取り繕わず力一杯腕を回してすがりつく。
「ありがとう、大好き」
――いずれこの手を離さなくてはならないとしても、それでも。
黙って俺を抱き返してくれた彼の腕の力強さが、また涙腺を刺激した。
《終》
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