Posted by 新矢晋 - 2012.05.13,Sun
実力主義に与する事を決めたウサミミと、それを認められないロナウドの話。
ロナウドが気持ち悪い感じに病んでいます、注意。
ロナウドが気持ち悪い感じに病んでいます、注意。
恋とは信仰に似て非なる
路地裏に、男が立っていた。
男はただ一人の少年が来るのを待っていた。彼にとってとても尊く、とても優しい少年を待っていた。
――だが、少年は、来なかった。
栗木ロナウドは己の正義を信じていた。それと同時に、峰津院の正義を憎んでいた。だから、彼が憎からず思っていた少年がよりによって峰津院の陣営に身を寄せた事に頭を殴られたような衝撃を受けた。
少年は確かに強く聡明で、峰津院にも目をかけられているようだった。だがそれ以上に少年は優しく真っ直ぐな心根を持ち、峰津院の掲げる実力主義などに賛同するようにはどうしても思えない。
――ロナウドは、こう結論付けた。
「彼は峰津院に騙されている!」
でなければ弱みでも握られているのだと考えたロナウドは、少年を峰津院の元から救い出すことを決意した。あの優しく賢い少年が実力主義などに傾倒する筈がない、峰津院さえ倒せば目を覚まして自分と共に来てくれる。
信仰にも似た楔が、この時しっかりと栗木ロナウドの奥深くに食い込んだ。
「峰津院大和!貴様はこの俺が必ず倒す!」
「ほざけ愚民、貴様らのような生温い輩に私たちが敗れるものか!」
魔王の如く君臨する峰津院大和の隣には、静かな目をした少年が立っていた。互いに問答など無意味と知り、携帯を構えて悪魔を呼び出してなお少年の目は揺らがなかった。
――嗚呼、彼は自分の立ち位置を決めたのだ。かつての仲間たちの殆どがそう察したというのに、誰よりも少年を信じているロナウドだけが気付かない。
真っ直ぐに、ロナウドは彼を信じている。祈るより愛するより強く、少年の優しさと強さを信じている。
だから気付かない。気付けない。峰津院大和の隣で戦う少年の目に宿る強い意思の光や、他人を想う事で強くなるものの存在について。
――そうしてロナウド率いる平等主義の面々は、犠牲を払いながらも峰津院だけを打ち倒す事に成功した。その後に他の面子をどうにか行動不能にし、ロナウドは皆の反対を押し切って少年を連れ帰った。……彼は峰津院に惑わされているのだと、まだ信じていたからだ。
「……ヤマト、」
目覚めて、周囲を見回し状況を理解した少年の第一声はそれだった。ああ、こんなにも彼の深くに峰津院が侵食しているなんて。
「大丈夫だ、もう峰津院は居ない。安心していいぞコヨイく、」
「ヤマトは!ヤマトは無事?!」
ロナウドの手を振り払い立ち上がろうとした少年は、まだ体力が戻っていなかったらしくベッドから転がり落ちる。それを抱き起こしながら、ロナウドは優しく優しく囁いた。
「峰津院は死んだ」
少年の身体が強張り、そしてゆっくりと脱力する。子供をあやすように少年を抱き締めて背中を擦りながら、低く落ち着いた声が真剣に言葉を綴る。
「もう大丈夫だ。俺と一緒に行こう、全てのひとが幸せになれる世界を……」
「……だ」
ロナウドが聞き返すより早く、少年は彼を突き飛ばし立ち上がっていた。その頬には涙が伝っていたが表情は激しい怒りと憤りをあらわにして、殆ど叫ぶように捲し立てる。
「そんな世界はくそくらえだ!おてて繋いで共倒れする世界なんか、……俺はヤマトに幸せになって欲しかったのに……!」
――明確な拒絶。
憎悪にすら似ている激情をぶつけられたロナウドは一瞬表情を失った後、駄々っ子を前にした大人のような苦笑を浮かべた。
「優しいのは君のいいところだけど、峰津院に同情する必要なんて、」
鈍い音。
少年の拳がロナウドの顔面を殴打していた。
「あんたのそういう無神経なところが大嫌いだ!ヤマトは、ヤマトだってあんなに苦しんで……」
よろけて片膝をついたロナウドの足元に、ぼたぼたと赤い雫が落ちる。鼻孔から滴る血を手の甲で拭いながら彼は、唇だけで笑った。
「峰津院の洗脳がとけていないんだな。大丈夫、俺が必ず君を助けるから……」
思わず怯んで動きを止めた少年を抱き寄せたロナウドの目は、信仰に殉ずる狂人のそれに似ていた。
《終》
路地裏に、男が立っていた。
男はただ一人の少年が来るのを待っていた。彼にとってとても尊く、とても優しい少年を待っていた。
――だが、少年は、来なかった。
栗木ロナウドは己の正義を信じていた。それと同時に、峰津院の正義を憎んでいた。だから、彼が憎からず思っていた少年がよりによって峰津院の陣営に身を寄せた事に頭を殴られたような衝撃を受けた。
少年は確かに強く聡明で、峰津院にも目をかけられているようだった。だがそれ以上に少年は優しく真っ直ぐな心根を持ち、峰津院の掲げる実力主義などに賛同するようにはどうしても思えない。
――ロナウドは、こう結論付けた。
「彼は峰津院に騙されている!」
でなければ弱みでも握られているのだと考えたロナウドは、少年を峰津院の元から救い出すことを決意した。あの優しく賢い少年が実力主義などに傾倒する筈がない、峰津院さえ倒せば目を覚まして自分と共に来てくれる。
信仰にも似た楔が、この時しっかりと栗木ロナウドの奥深くに食い込んだ。
「峰津院大和!貴様はこの俺が必ず倒す!」
「ほざけ愚民、貴様らのような生温い輩に私たちが敗れるものか!」
魔王の如く君臨する峰津院大和の隣には、静かな目をした少年が立っていた。互いに問答など無意味と知り、携帯を構えて悪魔を呼び出してなお少年の目は揺らがなかった。
――嗚呼、彼は自分の立ち位置を決めたのだ。かつての仲間たちの殆どがそう察したというのに、誰よりも少年を信じているロナウドだけが気付かない。
真っ直ぐに、ロナウドは彼を信じている。祈るより愛するより強く、少年の優しさと強さを信じている。
だから気付かない。気付けない。峰津院大和の隣で戦う少年の目に宿る強い意思の光や、他人を想う事で強くなるものの存在について。
――そうしてロナウド率いる平等主義の面々は、犠牲を払いながらも峰津院だけを打ち倒す事に成功した。その後に他の面子をどうにか行動不能にし、ロナウドは皆の反対を押し切って少年を連れ帰った。……彼は峰津院に惑わされているのだと、まだ信じていたからだ。
「……ヤマト、」
目覚めて、周囲を見回し状況を理解した少年の第一声はそれだった。ああ、こんなにも彼の深くに峰津院が侵食しているなんて。
「大丈夫だ、もう峰津院は居ない。安心していいぞコヨイく、」
「ヤマトは!ヤマトは無事?!」
ロナウドの手を振り払い立ち上がろうとした少年は、まだ体力が戻っていなかったらしくベッドから転がり落ちる。それを抱き起こしながら、ロナウドは優しく優しく囁いた。
「峰津院は死んだ」
少年の身体が強張り、そしてゆっくりと脱力する。子供をあやすように少年を抱き締めて背中を擦りながら、低く落ち着いた声が真剣に言葉を綴る。
「もう大丈夫だ。俺と一緒に行こう、全てのひとが幸せになれる世界を……」
「……だ」
ロナウドが聞き返すより早く、少年は彼を突き飛ばし立ち上がっていた。その頬には涙が伝っていたが表情は激しい怒りと憤りをあらわにして、殆ど叫ぶように捲し立てる。
「そんな世界はくそくらえだ!おてて繋いで共倒れする世界なんか、……俺はヤマトに幸せになって欲しかったのに……!」
――明確な拒絶。
憎悪にすら似ている激情をぶつけられたロナウドは一瞬表情を失った後、駄々っ子を前にした大人のような苦笑を浮かべた。
「優しいのは君のいいところだけど、峰津院に同情する必要なんて、」
鈍い音。
少年の拳がロナウドの顔面を殴打していた。
「あんたのそういう無神経なところが大嫌いだ!ヤマトは、ヤマトだってあんなに苦しんで……」
よろけて片膝をついたロナウドの足元に、ぼたぼたと赤い雫が落ちる。鼻孔から滴る血を手の甲で拭いながら彼は、唇だけで笑った。
「峰津院の洗脳がとけていないんだな。大丈夫、俺が必ず君を助けるから……」
思わず怯んで動きを止めた少年を抱き寄せたロナウドの目は、信仰に殉ずる狂人のそれに似ていた。
《終》
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