Posted by 新矢晋 - 2012.06.03,Sun
世界の敵として生まれついたウサミミVSヤマトin通天閣前。
憎悪より深く愛より苦く。つまりはよくわからない。
憎悪より深く愛より苦く。つまりはよくわからない。
世界の敵と守り竜
あの日、君と初めて会ったあの時、私は君を殺しておくべきだったのかもしれない。
私を庇ったケルベロスが引き裂かれ肉片となり消える。既に悪魔のストックは底を突き、私の霊力も尽きかけていた。
――私は恐怖を知らない。否、私にそれを与えるような強者を知らなかった。だが。
「ああっ、もう、邪魔!」
素手で魔獣を引き千切り、妖鳥を踏み台に空を舞い、純然たる魔力の槍で耐性も何もかも貫いてくる君を見て、背筋が冷えた。これを常人は恐怖と呼ぶのだろう。
「もう少し使えると思ったんだけど、ちぇ」
無造作に君が投げ捨てた死体は、私の認識が正しければ君の友人の一人ではなかっただろうか。息を整え少しでも周囲の空気から霊力を取り入れようとする私に、君は一気に距離を詰める。
――閃光。遅れて、轟音。
先程まで私が立っていた地面は抉れ、そこに立つ君は土煙を纏いパーカーをはためかせながら私を見ている。怖気が走るほど美しいその目が本当は何を映しているのか、私にはわからない。
「君は……何を考えている、同胞まで殺して、何処へ辿り着こうとしている?」
私の時間稼ぎに、君は素直に付き合ってくれた。自分の有利はそう揺らがないと思っているのだろう、私も同じ見解だ。
「別に、どこでも良かったんだ、つく陣営は」
君が片手を九時の方向へ差し伸べ、その背後にゆらりと龍と魔王の影が揺れたかと思うとその指先から雷が翔ぶ。遠く、繁みに潜んでいた狙撃班が全滅した。
「俺はこの世界を壊したかった。だから、あの時点で一番思想の実現に遠そうだったロナウドたちについた。それだけの事」
――かつては普通の高校生として暮らしていた筈の君が、如何にしてこうも歪んでしまったのか私は知らない。知ろうとも思わない。
……君は敵だ。おぞましくもうつくしい、世界の敵だ。
私は油断なく君を見詰めながら、呼吸を繰り返す。折れた肋の痛みが脂汗を滲ませるが、今は肉体の回復より霊力の回復が先だ。
「……ッ、局、ちょ」
視界の端で倒れていた迫が身体を起こそうと呻き、それに君が僅かに意識を向けた瞬間私は駆けた。
勝負は一撃。これを通せなければ私は負ける。私を迎え撃つ君が、何故か不意に視線を上に逸らした意味を考えるより先に、凄まじい轟音と衝撃が私の意識を途切れさせた。
――我に返った私はもうもうと立ち込める土煙の中に倒れ込んでいた。少しずつ視界が晴れてきて状況を理解した私は、僅かに息を飲む。
通天閣が半ばから折れ、落下していた。
そして、私と君が対峙していたであろう場所で、君は鉄骨に貫かれ地に縫いとめられていた。
腹に太い鉄骨が一本、下半身はコンクリートの基礎に押し潰され、じわじわと広がる赤い液体はとめどない。標本にされた蝶にも似たその状態で、君は不遜に唇をねじ曲げる。
「あーあ、糞忌々しい……でも、ま、……これで世界の行く末だとか、いちいち振り回されなくて、すむか……」
ごぼ、と大きな血の塊を吐き出してから君は細く息を吐いた。立ち尽くす私を見上げる青い目は相変わらず何を考えているのかわからない、木のうろのよう。
「お前の勝ちだ、大和。精々頑張って、世界を作り直して……いずれ来る、絶望に、のたうち回るといい……」
「何を、」
「ふは、……俺は、お前ほど、人間を信じちゃいないから、ね」
ひゅうひゅうと君の喉が鳴る。それは、君の肉体から生命が逃げ出していく音だ。
――あの時。轟音を響かせ通天閣が崩落したあの時。君は上を見た後私に携帯電話を向け、随分と優しい攻撃で私を吹き飛ばした。
「……次は、……に、……いな……」
最後に何か言った君は、私にそれを問い質す時間も与えず事切れた。青ざめた肌に飛び散る血はまだ鮮やかな色をしていて、先鋭的なアート作品か何かのようだ。
――見開かれたままの瞳が私を見ている。迫が見かねてその瞼を閉じようとしたが、やめさせた。
「君はそこで見ていろ。私が世界を作り替えるのをな」
私は宣言する。
「世界はより価値ある形に生まれ変わる。絶望などするものか」
行くぞ、と迫を伴いその場を後にした私は、君の嘲い声を聞いた気がした。
《終》
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