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Posted by 新矢晋 - 2012.06.07,Thu
軽くR15くらい?
回帰後の世界で、同棲はしていないまでも近所に住んでいるウサミミとロナウドがラブラブするお話。
ロナウドがナチュラルに犯罪者です。

眠らぬけもの


「湖宵くん、良ければこれを貰ってくれないか」
 そう言ってロナウドが差し出してきたのは、ゲームセンターなんかによくあるウサギのぬいぐるみだった。青いビー玉みたいな目をしたそいつを思わず受け取ってから視線で問うと、ロナウドは照れ隠しのようにわしわしと頭を掻いた。
「いや、ゲームセンターで時間を潰していたら取れてしまってな……俺の部屋にはちょっと似合わないし、君なら大事にしてくれるかと思って」
 再び視線を落としてぬいぐるみと見つめあう。俺と似た色の目をしたそいつをなんだかほっとけなくて、俺は礼を言うとそのぬいぐるみを家に持ち帰った。
 ――初めてロナウドに貰ったプレゼントだから、正直に言うと少し浮かれていた。俺はぬいぐるみをベッドの枕元に置き、寂しい時は抱いて眠る事にした。
 俺とロナウドは一応恋人同士だけど、毎日会えるわけじゃない。連絡だってそうまめに取り合えないし、たまには俺も寂しくて枕を濡らす事も……いやそれは大袈裟だけれど。
 ウサギの奴を抱いて眠ると、不思議と寂しくなかった。そして、ウサギを抱いて眠った次の日には、何故かロナウドから連絡が来る事が多かった。放っておいてすまない、よく眠れているか、次の休みにはきっと埋め合わせするから……俺を気遣ってくれるロナウドの声は優しくて、俺はそれだけですっかり不満なんて忘れてしまうのだ。




 ある夜、寂しさをもて余した俺はベッドの上で自慰に耽っていた。
 ロナウドの名前を呼びながらモノを扱きまくって、終いには自分で尻の穴を弄っていた俺は、馬鹿みたいだったと思う。
 大きな手の感触とか、俺の名前を呼んでくれる声とか、匂いとか、記憶の中のロナウドにすがって何発か抜いたって全然おさまってくれない。むしろ、彼に触れてほしくて堪らなくなる。
 泣きたくなってきた俺は、兎に角もう寝てしまう事にした。熱めのシャワーを浴びてさっぱりしてから、牛乳でも飲もうと冷蔵庫を開けたところで玄関のチャイムが鳴る。
 こんな時間に、と思いながらも確認に行った俺は、来訪者の姿を見て慌てて扉を開いた。
「夜遅くにすまない、もう寝るところだったか……?」
 パジャマ姿の俺を見て眉を下げた彼、ロナウドの姿を前に俺はこれが都合の良い夢でない事を願うばかりで。
「え、いや、大丈夫だけどどうしたの?」
 そんな俺をよそに、ロナウドはいきなり俺を抱きすくめてきた。
「……急に、君に会いたくなったんだ」
 耳元に吹き込まれる、熱を帯びた囁くような声。ぞくぞくと甘い痺れを感じて、へたりこみそうになるのを俺は必死に我慢していた。
「俺も、会いたかった……っ」
 性急なキスで言葉は封じられる。久し振りに感じる彼の唇に、唾液の味に、目眩がする。両手でロナウドにしがみついてキスに応じるだけでもギリギリなのに、腰や尻の辺りを揉まれたり擦られたりすると足が震える。
 燻っていたものが爆ぜそうで、俺はもう体裁を取り繕うことも出来なくて、ロナウドに訴えた。
「俺、寂しかった……ロナウドが欲しい、」
 ロナウドは俺の言葉に一瞬目を見開いてから、嬉しそうに笑った。そして軽々と俺を抱き上げると、ベッドへと足を向けたのだった。
「……こいつ、大事にしてくれているんだな」
 俺をベッドに横たえた後、枕元に置いてあったウサギのぬいぐるみを持ち上げロナウドは笑った。
 これから始まる事への期待でどきどきしていた俺は、ロナウドがウサギをうつ伏せに置き直すのをただぼんやりと眺めていた。
「見られてるみたいで落ち着かないからな。……久し振りだから、ゆっくり慣らしていこうか」
「えっ」
 思わず不満げな声を出してしまった俺を、ロナウドが不思議そうに見下ろす。
 ――言えない。自分で弄ってたからそんなに慣らさなくてもいけるなんて、言えるわけがない。
「え、あ、いや、その……ロナウドだって溜まってるだろうし、少しくらい乱暴でもいいよ?」
「何を言うんだ湖宵くん!そりゃあ確かに俺だって早く君が欲しいが、君が痛かったり苦しかったりするのは嫌だぞっ」
 ローションはここだったか?と言いながらベッド横の棚を探すロナウドの姿に、申し訳なくなると同時に焦る。
 ロナウドは、俺に甘い。そんな彼が「ゆっくり」俺を慣らすと言ったのだ、それはもう丁寧にしてくれるに違いない。……今の俺からすればそれは、苦行以外のなにものでもないのに。
 欲しい。俺の身体の奥までロナウドで一杯にしてほしい。自慰なんかじゃ満たされない、深いところまで。
「……ロナウド」
 ローションの瓶を片手に振り返った彼の顔は見られないまま、俺はまるでAVみたいなおねだりをする。
「もう準備出来てるからっ、早く、……早く、来て……っ」
 ――引かれてしまうだろうか。怖くて目を閉じた俺は、彼がどんな顔をしているか知らない。ぎしりとベッドが軋んで覆い被さられた事を知り、耳朶をあまく啄まれて肩が跳ねた。
 ロナウドは、とても優しい声で俺に囁く。
「湖宵くん、俺も色々我慢してるんだぞ……そんな事言ったら、」
「我慢しなくていいからっ、俺、今すぐロナウドが欲しい……!」
 駄々をこねるように頭を振った俺は、ロナウドの喉が鳴るのを聞いた。首筋に熱い唇を押し当てられて、それから肌を通すように囁かれた彼の声さえ熱を持っているよう。
「……俺も、君が欲しい」
 腰が、焦れったく疼いた。


 ――そうして存分に互いの身体を貪った後、ロナウドの腕枕でうとうとするこの時間が好きだ。俺の髪に触れる指とか隣の体温が、いとおしくて幸せで。
 何気なく枕元を見るとまだウサギがうつ伏せになったままだったから、元に戻そうと持ち上げる。……と、お腹の縫い目がほつれて綿がはみ出している事に気が付いた。取り敢えず中に押し込もうと指でぐいぐいと押すと、何か硬い物が指先に触れる。気になったのでそれを引っ張り出してみた俺は、首を捻った。
「……何だこれ」
 小さな、四角い機械のような何か。コードのようなものが端から飛び出ている他は、凹凸は無い。
「どうした、湖宵くん」
 俺がごそごそしているのに気付いたロナウドは、俺が持っている物を見て眉を寄せる。無言でそれを俺の手から取り上げると横の棚に置いて、ローションの瓶で叩き壊した。
「ロナウド?!」
「……盗聴機だ」
 ロナウドの口から出た言葉に、俺は目を丸くする。……盗聴機って、あの盗聴機?
「最初からぬいぐるみの中に入った状態で売られていたのか、それとも何者かが忍び込んで仕掛けたのかはわからんが……湖宵くん、心当たりは無いか?」
 ――あるわけがない!
 慰めるように俺の頭を撫でるロナウドの手は大きくて優しくて、俺は黙ってかぶりを振るばかり。
「大丈夫だ湖宵くん、盗聴のほとんどは愉快犯だし……だが、そうだな。もし不安なら、俺の家に来るか?」
 ……やっぱり俺はかぶりを振る。彼の提案は嬉しいけど、ロナウドには仕事があるし俺には大学がある。いつも俺の事を気にかけてくれるロナウドにこれ以上迷惑をかけられないというのもある。
「そうか。無理にとは言わないが……でも念のため家の鍵は取り替えるんだぞ」
 ロナウドの言葉は優しいだけじゃなくて頼もしい。まさか自分が盗聴されてたなんて思ってもみなくて驚いたし怖かったけど、俺の恋人はなんてったって警察官なのだからこれ以上頼りになる相手はいない。
 俺はすっかり安心してしまって、けれどまだ不安なふりをして、ロナウドの胸に顔を埋めた。彼は、当然のように俺を抱き締めてくれた。




 俺の家で盗聴機が発見されてから数日が経った。今のところ生活に変わりは無く、俺はいつものように大学から帰宅したところだった。
 ――玄関の扉を開けると見覚えのあるスニーカー。
「……ロナウド?」
 俺たちはお互いの家の鍵を持っているから、勝手に入ったって構わないのだが……珍しいな。何の用だろう。
 寝室に気配を感じて覗いてみると、ロナウドはこちらに背を向けてしゃがみこみ、コンセントの辺りでドライバーを使って作業していた。
「何やってるの?」
 振り返ったロナウドは、ドライバーでコンセントのカバーを叩きながら、
「この間の件があっただろう、他にも盗聴機が仕掛けられたりしていないか調べていたんだ」
 大丈夫何も無かったよ、と笑う。
 ――この人は本当に俺の事を心配してくれているのだ。
 俺は何だかたまらなくて、ロナウドに抱き着きたいのを我慢してコーヒーを入れにキッチンへ向かった。
 コーヒーメーカーのスイッチを入れて、マグカップを用意する。コーヒーに入れるのは俺はミルクだけ、ロナウドは気分によりブラックか砂糖だけ。
 お揃いのマグカップは、初デートの時に買ったものだ。俺は白い猫、ロナウドは黒い猫。同棲してるわけでもないのに何やってんだろうねと俺が笑うと、彼は真顔で、将来使えばいいだろうと言った。
 マグカップを二つ並べて悦に入っていた俺は、不意に背後から抱き寄せられて息が止まるかと思った。
「ロナウド?コーヒーならまだだよ、」
 もぞもぞと抜け出そうとすると腕の力が強まって、諦めた俺が背後を振り仰ごうとするとロナウドがことりとその頭を俺の肩に乗せた。
「……ロナウド?」
「やっぱり俺の家においで、湖宵くん。心配なんだ……」
 俺の肩口に頭をすり寄せながら囁く彼の声に、胸を締め付けられる。胸の前に回された腕に手を添えて、俺は。
「……駄目だよ、そんなに俺を甘やかしちゃ」
 そっと腕を外させながら。
「俺はまだ学生で未成年だから、何かあったらロナウドが責任を取らされる。……そんなの対等じゃない、俺はちゃんと大人になってロナウドと対等な恋人同士になりたい。それまで、一緒に暮らすのは待ってほしいんだ」
 俺の思いの丈を懸命に話す。するとロナウドは俺の身体の向きを変えさせて、感激した様子で正面から俺を見た。
「湖宵くんが俺との事をそんなに真剣に考えてくれているなんて、嬉しいよ……!君が俺を好きになってくれた奇跡を、神に感謝しないといけないな」
「お、大袈裟だってっ」
 ちゅっちゅとキスまで降ってくるから、俺は照れ臭くてロナウドの肩を押し返す。が、ひょいと手を捕まえられて抵抗なんてお構いなしにキスのあめあられ。最初は鼻先や頬に触れるだけだったそれが、唇同士の濃厚な接触になるまでそう時間はかからない。
「ロナウド、っ……コーヒー入ったから、」
「コーヒーよりこっちがいい」
 親指で下唇に触れられて、かあっと顔が熱くなるのを自覚した頃にはもう逃げ場は無い。半勃ちになってしまったモノをズボンの上から擦られて、更にはロナウドのそれもズボンを窮屈そうに押し上げている事に気付いてしまった俺は、小さく頷くことしか出来なかった。




 ――この後は、少年の知らない話。


 その日も遅く帰宅したある男は、パソコンを起動しパスワードを入力して何らかのソフトを立ち上げる。そこに保存された音声ファイルは作成日時順に並んでおり、男が在宅していない時間のものもあった。
 男は慣れた様子でカーソルを動かし、最新のファイルを開く。……無音。いや、録音状態が悪いのかざらついた雑音が入り込んでいる。時折早送りしながら最後までその無音のファイルを聴き終わると、男は席を立った。
 しばらくして戻ってきた男はどうやら風呂上がりらしく、コーヒーの入ったマグカップ片手にまたパソコンを操作した。
 ほとんどが無音の音声ファイル。男は椅子を引くとヘッドホンをパソコンに繋ぎ、真剣な表情でそれに聞き入っている。だがその表情には時折何かいとおしいものを見るような、うっとりとした眼差しが混ざっていた。
「……大丈夫。俺が、守るよ」
 男の……栗木ロナウドの独白は、深い愛情と、強い義務感、いずれも過ぎれば狂気となるものを孕んでいた。


《終》

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