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Posted by 新矢晋 - 2012.05.31,Thu
戎橋で「誰か」を悼むお話。
恐らく別ルート経験済みのウサミミさんがいます。

知らない悼み


 いつも白いパーカーの兎耳を揺らして駆け回っている彼の姿が見えない事に気が付いたのは、夜も更けてからの事だった。
「湖宵くん?大阪の様子見てくるって言ってたわよ」
 柳谷さんが明日からの準備をしながら教えてくれたが、……大阪か。恐らく俺たちにとって最大の障害となるであろう奴等の本拠地だ。流石に今夜いきなり仕掛けてくるなんて事は無いだろうし、偵察するのも間違いではないだろう。
 だが、俺に黙って一人で行くなんて。何かあったらどうするんだ!
 ――俺は、急ぎ大阪に向かう事にした。


 彼はすぐに見付かった。何をするでもなく戎橋の欄干に腰掛けて、ぼんやりと道頓堀川を見下ろしていた。
 月の光に照らされた彼の横顔はなんだか思い詰めたような、神聖で不可侵のものに見えて俺は声をかける事すら出来ずに立ち尽くして、呼吸の仕方さえ忘れそうになっていた。
 不意に彼が振り返って俺を見た。まるで幽霊でも見たように驚いた顔をして、それから誤魔化すように笑う。
「どうしたのロナウド、こんなところで。リーダーなんだからフラフラしてちゃ駄目でしょ」
「それは俺の台詞だ、君こそこんなところまで一人で来るなんて……」
 口を開いた彼はいつもの彼で、俺は安堵して歩み寄る。ぶらぶら足を揺らしている彼の隣へ座り、並んで道頓堀川を見下ろした。
 彼は黙っていた。ただほんの少しだけ俺へ距離を詰め、静かに息を吐いた。
 俺も黙っていた。ただほんの少しだけ勇気を振り絞り、彼の手に触れてみた。
「……ここでね」
 俺の指と自分の指を絡めるように手を繋ぎながら、彼は口を開いた。
「ここで……俺の大事なひとが死んだんだ」
 墨のような水面を見下ろしたまま淡々と、けれど俺の手を握るその手は僅かに震えて。どこか青ざめた横顔を見詰める俺は、気の利いた台詞ひとつ言えない。
「そのひとは最後まで勝手で、俺は……助けられなくて」
 ――ああ、彼はそのひとを好いていたのだ。とても強く、想っていたのだ。だから水面を見る彼の目はこんなにも深い色をして、美しい。
 そんな大切な思い出を話してもらえるなんて嬉しい筈なのに、俺はじくじくと胸の辺りが痛んでいた。その今はもういない何者かに、名状し難い不快感を覚えていたのだ。
「馬鹿みたいに真っ直ぐで、眩しくて……俺、隣には居られなかった」
 だから死んじゃったのかな、と呟いて、彼は俺を見た。澄んだ青色の目に射すくめられて、思わず息を飲む。
「ロナウド。俺、何があってもロナウドの隣に居るよ。それを決意するのに、今夜ここへ来たんだ。……死なせてしまったあのひとに、今度はちゃんと守るからって」
 そして彼は、俺に口付けた。
 柔らかくていい匂いがして、少しでも動いたら夢だったことになってしまいそうで、俺は瞬きだけ繰り返していた。
 ゆっくりと唇を離してから、彼は困ったように、はにかむように笑った。
「我慢出来なかったや、ごめんね。……嫌だった?」
 俺は何も答えずに彼を抱き寄せ、乱暴にその唇を塞いだ。口腔を嘗め回し舌を吸い、彼の唾液を啜る。不安定な場所だというのに止められなくて、俺は夢中で彼の唇を貪った。
「は、ぁ……湖宵くん……」
 接吻の合間に彼の名を呼ぶと、
「……ろ、なう、ど」
 乱れた息の下、必死に俺の名を呼ぶ彼。濡れた唇。熱っぽい吐息。ますます手離せる気がしない。
「湖宵くん、俺は……もっと君の事が知りたい。君の隅々まで、俺に、見せてくれないか……」
 上擦る声でそう言った俺に彼はきょとんとしていたが、服に手をかけると意味を理解したらしく恥ずかしげに俯いた。
「外……だし、恥ずかし……っ」
 再びキスを降らせて彼を黙らせる。
「こんな所、誰も来ないさ……それに、俺はあまり我慢強くなくてね」
「あっ、あ、ロナウド……!」
 膝頭で彼の股間をぐりぐりとしてやると、彼も満更ではなかったらしく艶めいた声が漏れた。
 ――これはいける。そう確信した俺が更に彼へと密着しようと片手を着こうとした場所には、空気しか無かった。ぐらりと身体が傾いた瞬間に彼の叫び声が聞こえて、次の瞬間には俺は生臭い水の中に居た。


 自力で岸に這い上がった俺に、彼は体当たりするような勢いで抱き付いてきた。自分まで濡れるのも気にせずぎゅうぎゅうと抱き締めてくる彼を、俺は引き剥がせなかった。
 ――この場所で、かつて彼の大事なひとが死んだのだ。そんな場所で軽率な行為に及ぼうとしたばかりか、彼の辛い思い出を甦らせるような真似をしてしまった自分の浅慮さが情けない。
 しゃくりあげる彼の頭を撫でながら何とか俺に出来る事を考えてはみたけれど、俺に出来る事といったら。
「湖宵くん、……湖宵くん、俺は、」
 ――俺は。
「……俺は、死なない」
 身体を強張らせた彼をぎゅうと抱き締めて、俺の体温まで伝わるように。
「俺は君を置いて死んだりしない、理想の為に……君の為にも生きるから」
 こんな口約束で彼の不安を除けるとは思わない。だが、俺は彼を……俺の腕の中で震えるいたいけな少年を守りたいと強く思ってしまっていたから、
「湖宵くん、君が俺を守ってくれるなら、俺が君を守りたい。……駄目かな」
 腕の中から俺を見上げた彼が、はたりと瞬きをしたその睫毛から振るい落とされた涙がとても尊く見えた。
「……約束して」
 震える唇から紡ぎ出された彼の声は、少しだけ掠れていて。
「俺より先に死なないで。一分でも一秒でもいいから」
「……わかった。約束するよ」
 ――俺がしたこの約束が気休めに過ぎない事を、きっと彼は知っている。それなのにふわりと笑みさえ浮かべて、俺の肩に頭をもたせかける彼がいとしい。
 そうして俺たちは月が見守る中、ゆっくりと唇を重ねた。……のなら、良かったのだが。
「……ぶぇっくしょい!!」
 俺のした大きなくしゃみが、雰囲気も何もかもぶち壊したのだった。


《終》

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