小説交換で書いたダイ主。
さらっと短いです、時期外れの冬の話。
冷め切ったココア
「あーさむ、さむー」
「寒いって言うなよ、余計寒くなる」
「そんなこと言ったって寒いもんは寒いんだよ、くそ、そのうさみみフードよこせー」
「じゃあそのマフラーよこせー」
背を丸めながら歩く二人の男子高校生は、息を白く染めながら坂道を下っていた。
軽口を叩きながら早足に下っていく足取りは、しかし坂の途中で片割れが――マフラーを巻いた方、すなわち志島大地が――足を止めた事によって止められる。
「ちょっと温かいもんでも飲むわ」
自動販売機を前にごそごそと小銭を取り出した大地は、あたたか~いと書かれた列からどのボタンを押すか思案する。その視界にぬうっと出てきた白い手が無造作にココアのボタンを押すまでは。
「ちょ、何勝手に押してくれてんの!」
「飲みたかったから」
「俺の120円ですヨ?!」
ガコン、と吐き出された温かい缶を取り出し、当然のようにプルタブを起こし、口をつけるフードの少年。あつっ、と噎せて地面へ少し缶の中身を零し、手の甲で無造作に唇を拭った。
「もったいない!」
「はい」
「つーか、なんで俺の金で買っておいてお前が先に口をつけるかね、もー……」
差し出された缶のココアを受け取って、大地は深々と溜め息を吐く。白がその口の周りを一瞬隠して、すぐに晴れた。
相棒の二の舞にはなるまいと、ふうふうと口を尖らせ冷ましながら甘ったるいその液体を飲む大地をよそに、フードの少年は自動販売機に寄りかかりながら眠たげな目を瞬かせる。
くぁ、と欠伸をしてからむにゃむにゃと口を動かすその様に、大地は溜め息を吐いた。
「マイペースっつーかなんつーか……なんでお前みたいなのが女子に人気なんだろうなー」
「さあな」
「そこは否定しなさいよ」
ココアの缶を両手で握り暖をとる大地を見遣り、少年は肩をすくめる。
「名前も知らない女の子にモテたって、仕方ないだろ。……たった一人にモテなきゃな」
生返事をしながら缶に口をつけた大地は、はたと一度瞬きをしてから少年をまじまじと見た。
「お前、好きな子いるの?」
え、と虚をつかれたようにぽかんとした少年は、それからじわじわと苦虫を噛んだような顔になる。
その表情の変化に図星と踏んだ大地は興味津々といった様子で少年へと問いかけを重ねた。
「水臭いじゃん、どうして俺に教えてくんなかったんだよ!なあなあ、どこのクラスの子?大地さんに教えてみ?」
「……秘密」
ええー!と不満げな声をあげる大地の手からココアを奪いとり、一気に缶を傾け半分以上を飲み干す少年。大分ぬるくなったそれは余計に甘ったるくて、喉に絡まるよう。
しつこく食い下がる大地に少年はかたくなに口を閉ざし続け、最後には大地も諦め溜め息を吐いた。
「……まあいいや。でもなんか困ったら相談しろよ、……まあ俺も経験豊富じゃないけどさ」
幼馴染に遠慮なんていらないだろー、と軽く少年の腹に拳を当てた大地は秘密を気にした風もなく笑う。
その笑顔を見ていた少年はかすかに眉を寄せて、
「なあ大地」
「ん?」
少し迷うように唇を半開きにし、一瞬、とても真剣な顔をしてから、何事も無かったかのように悪戯小僧のような笑みを浮かべる。
「ふーう!」
「ひぃやぁ?!」
そして、おかしな声をあげながらマフラーの中に手を突っ込んで首筋に冷えた手を押し付けて、裏返った悲鳴をあげた大地にけらけらと笑いながら走り出す。
「おま、さっきから何なんだよぉ!」
最後に一口分ほど残っていた冷め切ったココアを飲み干して空き缶をゴミ箱に投げ入れて、それから少年を追いかける大地は子供のように何も知らない。
――なにも、しらない。
《終》