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Posted by 新矢晋 - 2013.06.15,Sat
回帰後、それぞれのお悩み相談。
ジョー×ダイチ要素を味付け程度に含みます。軽く猥談?



手を伸ばす15cm


 背伸びが出来なくて足掻く、子供たちの話。


「……なあ大地、お前、ジョーさんに抱かれたいって思うことある?」
「は?!」
 すっとんきょうな声が大音量で部屋に響き渡ったものだから慌ててマイクのスイッチを切った大地は、幼なじみの少年が思い詰めたような顔でこちらを見ているのに気付いて困惑を深めた。
「な、何言ってんだよそんな、急に……」
 どこか気の抜けるようなJ-POPをBGMにじっと大地を見詰めていた少年はのろのろと視線を下げ、懺悔でもするかのような消え入りそうな声で呟いた。
「俺、最近……ロナウドに抱かれたいって思うんだ」
 頭を振れば、癖のある髪が揺れる。
「俺おかしいのかな、そりゃ付き合ってるんだからキスとか抱き締めたりはするけど、男なのに……抱かれたい、なんて」
 ……内容が内容だけに下手なことも言えずマイクを握り締めたまま、あー、だの、うー、だの唸った大地は取り敢えずマイクを置いてカラオケの音量を絞ると、膝を揃えて少年へと向き直った。
「恋人同士なら、エロい事したくなって当然じゃね?その……色々複雑だろうけどさ」
 大地は、少年の恋人がとても朴念仁で鈍感で良く言えば硬派で、けれど少年がそんな年上の恋人をどうしようもなく好いている事を知っている。……思いが通じあって恋人となれた今も、ただ同性だという一点が、未だ少年を悩ませ苦しめているのだという事も。
「……でも俺、男なのに。抱きたいんじゃなくて抱かれたいなんて、普通じゃないだろ?」
「俺にもわかんねえよそんなの……」
 そしてその大地もまた、あの終末に出会った年上の男と恋人関係にあるのだから、互いに同時にカミングアウトした折には幼馴染みというのは性癖まで似るのかと苦笑するしかなかった。
 なんとか少年をフォローしようと言葉を重ねる大地は、からからの口内を薄まったコーラで湿してから再び口を開く。
「ほらっ、あれだ、そーゆーのって多分可愛い方が女役だし!ロナウドはそういうんじゃないし!お前だってロナウド押し倒しても勃たないだろ?な?」
「……、……」
「そこで黙らないで?!」
 悲鳴のような声をあげた大地はどうも押し倒されて頬を染めるロナウドの姿を想像してしまったらしく、青ざめてぶんぶんと頭を振った。
「お前が下のがいいって!お前がどうしても上がいいんならアレだけど、ほら体格的にも、な!」
 急に必死な様子で説得してきた大地に少年は不思議そうに眉を寄せたが、ふとまた大地から視線を逸らす。
「……最近、ロナウドが俺を避けてる」
 泣き出しそうに顔を歪めて、震える声で。
「俺がロナウドのこと変な目で見てるのに気が付いて、それで、き、気持ち悪いって思っ……」
「だ、大丈夫だって!悪い方に考えすぎんなよ、っていうかロナウドがそんな微妙な事に気付くわけないじゃんお前に言うのもなんだけど!」
 少年を必死になだめすかす大地は最終的に、少年と二人でやけくそにジャンプしながら昔のロックバンドの歌を歌っていた。


 それから少し経ったある晩、臆病な大人たちの話。


「どしたのクリッキー、こんなトコに呼び出しなんて珍しいじゃない」
 三十分の遅刻を悪びれもせず居酒屋の座敷へ上がった譲を、ロナウドは珍しく苦言のひとつも言わずに迎えた。
 向かい合ってとりあえずグラスを合わせてから、譲は「わかってるんだから」とでも言いたげに眉を上げる。
「で、なに悩んでるの。おにーさんに話してみなさいなって俺のが年下だっけ、あはは」
 だがロナウドはその譲から目を逸らし、普段であれば目を見てはっきり喋る彼としては珍しく、妙に歯切れ悪く言葉を濁してだし巻き玉子へと箸を伸ばした。
「いや……そうだ、大地くんとはどうなんだ?うまくやっているのか?」
「ん?仲良くやってるよ、そう言うクリッキーはどうなのさ」
 何気ない問いにロナウドの表情が曇ったのを見て、ああ、やっぱりソッチの話なのねと譲は内心苦笑した。
「喧嘩でもしたの?駄目じゃんクリッキー、そういう時はさっさと謝っちゃった方がいいよ」
「……い、」
「え?」
「一ヶ月会っていない。……いや、俺が一方的に避けているのか」
 グラスの中で溶けかけた氷を眺めたロナウドの眼差しは物憂げだが、舐めるように飲むのは酒ではなく烏龍茶。
 その向かいで女の飲むような甘ったるいサワーを飲みながら譲はほんの僅かに表情を険しくした。
「……何してるの。やっぱり男の子は無理だったってんなら、ちゃんとお別れしてあげなよ」
 ロナウドが勢い良く顔を上げる。
「違う!俺は湖宵くんが好きだ!」
 よく通る明瞭な声で断言するが、すぐに沈痛な面持ちになって声が沈んだ。
「……こんな気持ちのままでは彼に会えない」
「えっナニ浮気でもしたの最低だねクリッキー」
「違う!!!」
 激昂しかけたロナウドを宥め、たこわさ食べる?などと小鉢を押しやる譲に毒気を抜かれ、溜め息をひとつ吐いてからロナウドは唇を噛んだ。
「俺は……っ、俺はあろうことか彼にっ、不埒な思いを抱いてしまったんだ……!」
「フラチ?」
 現代日本であまり聞かない単語を不思議そうに繰り返した譲を見やるロナウドは、目を伏せたり逸らしたり上げたりと忙しい。
「彼に、……彼を、オカズに……その……」
 もごもごと口ごもるロナウドの様子から大体言わんとしている事を理解した譲は、呆れたように肩をすくめた。
「あのねクリッキー、君ら恋人同士なんだよ?セックスしたっておかしくないのに、今更オカズにするくらい何だってのさ」
「な……だ、だが湖宵くんは男だぞ?!」
 頭の固い友人を目の前に、その恋人である少年に思いを巡らせて、それから自身の恋人の言を思い出した譲は僅かに唇を緩めた。
 ……この頭の固い友人が心底惚れ込んでいる恋人もまた、情欲をもて余して思い悩んでいるのだ。
「んー、これは俺の勘だけど、正直に湖宵くんに言うといいよ、それ」
「?」
「湖宵くんに欲情しましたー、エッチしたいでーす、って」
「?! そ、な……そんな事うぁっ!」
 思わず立ち上がりかけたロナウドはグラスをひっくり返し、慌てて器を移動させおしぼりで机の上を拭く。拭きながらも動揺はおさまらないらしく、そんな事言えるわけがない、破廉恥だ、などともごもご呟いている。
 その様に呆れたように肩をすくめた譲は続けて口を開く。
「あのさ。クリッキーが急に避けたりするから、湖宵くん悩んでるんだよ。嫌われたんじゃないかって」
「嫌いになんてなるわけないだろうっ!」
「俺じゃなくて湖宵くんに言いなね。……不安になっちゃった恋人に何をしてあげたらいいか、ちゃんと自分で考えなよ」
 難しい顔で黙りこんだロナウドは、手羽先に手を伸ばした。


 そしてようやく決意した大人と、子供の話。


 久し振りに恋人……ロナウドの家へ招かれた少年は嬉しそうではあったが、今まで距離を置かれていた事と恋人の表情がどこか深刻そうだった事から、最悪の宣告も覚悟していた。
 どこかぎくしゃくとした時間が過ぎ、夕方から夜になる頃合いに少年は帰り支度を始めた。それを黙って眺めていたロナウドは、何度も口を開いては閉じ、くしゃりと頭を掻いてから少年へと呼び掛けた。
「……湖宵くん、今夜は泊まっていかないか」
 ロナウドの、かなりの勇気を要した言に、少年はぱちくりと瞬きをする。
「ロナウドから誘うなんて珍しいね、……何かあった?」
 帰り支度を止めてロナウドの座るソファーに引き返してきた少年は、自分へ伸びる手に瞠目したが逃げずに受け入れた。
 ロナウドの腕の中にすっぽりとおさまって、微動だにせず静かに見上げる。その少年を見下ろして、ロナウドは僅かに唇を震わせた。
「湖宵くん、俺は……君が好きだ」
 見上げる青い目が僅かに揺れ、それから困ったように目尻を緩ませる。
「俺もロナウドが好きだよ、ねえ、どうしたの?」
 不安に揺れた言葉に気付いたのか否か、ロナウドは少年を抱く腕に力を入れた。
「君を傷付けたくはないし、君を大事にしたいんだ。だが俺は……」
 はぁ、と息を吐いて言葉の準備をする。そして少年へ懺悔でもするかのように、震える声。
「……君に劣情を覚えてしまった。君の肌を、その温もりを思って俺は……っ、すまん!」
 不意に体を強張らせたロナウドは慌てて少年の体を離したが、その下半身に集う熱は既に少年の知るところとなっていた。
「違うこれは、いや、違わないか……俺は君に浅ましい欲を抱いてしまったんだ……」
 囁くようにもう一度謝罪したロナウドは、苦しそうに少年から目を逸らす。だが少年はそんな彼の首に腕を回すようにして抱きついた。
「ロナウド」
 呼ばれて視線を戻せば、少年の目に嫌悪の色は宿っていない。
「ロナウド、俺たち恋人同士なんだから、そういう気持ちになったっていい筈だよ」
「だが俺たちは、」
 まだ戸惑いと拒絶感から抜け出せていないらしいロナウドを見上げて、少年は少し悲しそうに眉を下げる。
「ロナウドは……例えば俺が、ロナウドにそういう事されるの想像してたとして、気持ち悪い?」
 一瞬何を言われているのかわからなかったらしく、少し間を空けてから見る間に狼狽し忙しなく目線を泳がせたロナウドは、しばらくしてからゆっくりと頭を振った。
「いや、気持ち悪くなんかない。むしろ……」
 途中で口ごもったのは、自らの内で確かに目覚めた興奮に戸惑ったから。自分の愛しい恋人が、自分の事を性的に見ているという事実に、たとえようもなく興奮してしまったから。
「性欲とか、さ。汚いものじゃないよ。俺は……ロナウドに触れてもらいたいし、触れたい」
 ロナウドの迷う鳶色を覗きこむ、青。同じように不安げに揺れる、青。
「俺のこと、軽蔑する?……俺、ロナウドに抱いてほしいってずっと思ってた」
 そのままロナウドへ口づけた少年の唇は、震えていた。
 ああ、と溜め息のようにもらしたロナウドは、逃げ出そうと身をよじった少年を捕まえたまま離さない。泣き出しそうになりながら見上げてきた愛しい恋人を見下ろす目は、まだ迷いが色濃いものの、恋人から逸らされることはなかった。
「……俺も」
 少し掠れた声。
「俺も、君を抱きたいと思っていたんだ、ずっと前から」
 ──気付かないようにしていただけだ、劣情は悪しきものだと信じていたから。
 もう何も言わずに少年を抱くだけのロナウドの背に、細い腕がおずおずと回された。

 そして。

「なんか……ごめん」
「君は謝らなくてもいい!俺が、その……」
 なんとも気まずい空気の中、半裸でベッドに正座し向かい合う二人。
「その、あんなに痛いと思わなくて……」
 申し訳なさそうに眉を下げる少年は、もぞもぞと尻を動かした。
 ……ベッドインした二人は触り合うまではよかったものの、いざ繋がろうという段になってあまりの激痛に泣きわめいてしまった少年にロナウドのものが萎え、うやむやになって終了してしまったのだ。
「いやっ、無理をする必要は無い!君が苦しいと、俺も辛いし……」
 沈みこんだままの少年を必死に慰めるロナウド自身も多少なりと自信を失い落ち込んでおり、慰めの言葉も拙い。
「俺がその、もう少し小さければよかったんだが……」
 少年は恥ずかしげに服を整えながら頭を振る。
「ロナウドのを小さくするのは無理だから、……が、頑張って次までには広げておくよ」
「広げ……?!」
 先程の行為から「広げる」というのがどういう手段でもって行われるかを察したロナウドは、ごくりと生唾を飲み込んだ。
「……湖宵くん、俺も手伝おう!」
 不思議そうに見返した恋人の手を取り、妙に真剣な眼差しで迫るロナウドの声は僅かに上擦っている。
「こういった行為はその、二人の共同作業だろう?君にだけ頑張らせるわけにはいかない、俺も手伝うよ。だからする時はうちに来るといい」
 その空気に押されて頷いた少年に、ロナウドはひとつ咳払いをしてからそっとキスをした。
「……今日はもう休もうか。痛みは大丈夫か?」
「平気、ありがと」
 ベッドを整えてから当然のように恋人を抱き寄せ横になるロナウドを、そっと見上げる青い目はまだ迷うような色をしている。
「……どうした?」
 目元を緩めて少年の髪を撫でる大きな手の感触に、青からは迷いが抜けてゆき静かに瞼が閉じられた。頭をロナウドの肩にすり寄せて、ぽつりと呟く。
「よかった」
「何がだ?」
 問い返されても何も答えず、ふにゃふにゃと口元を緩めながら額を押し付けてくる恋人をまるで猫のようだと思いながらロナウドは小さく笑った。


《終》

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