Posted by 新矢晋 - 2013.06.16,Sun
解放ED後、ロナウドとヤマトが凸凹コンビな話。
BLではなく友情です。
BLではなく友情です。
細く、微かな
瓦礫の山へ足をかけ遠くを見る男を見上げていたしろがねの髪の少年は、長いコートの裾を風になぶられるままにして声をあげた。
「栗木、貴様そんな状態で重くはないのか」
「?」
言葉の意味がわからず目を瞬かせた男……ロナウドは、嘆息した少年が瓦礫に上がりこちらへ白いかいなを伸ばしてきたのに一瞬体を強張らせた。
それを気にした様子もなく、怜悧な銀の目がロナウドの背後へ注がれ、手袋を外した手が肩に置かれる。
「……この男は貴様らの恋人でも兄でも息子でも父でもない。いつまでも現世にしがみつかずに、還るべき場所で次生を待つがいい」
その台詞に次いで、歌に似た響きのロナウドには理解できない言葉が囁かれる。眉をひそめたロナウドはしかし、急に体の芯がすぅと冷えるような、水ごりのような感覚を覚えて一瞬息を止めた。
瞳を左右に動かしてから鼻を鳴らし瓦礫を降りる少年をロナウドが引き留めると、無視して下まで降りきってから少年は振り向いた。
「十体弱ほど未成仏霊が憑いていたぞ、本当に何も気付いていなかったのか?」
浮世離れしたその発言に僅かに瞠目したものの、内容自体はまったく疑うこともせず自然に受け入れてロナウドは首を捻った。
「そういえば最近、肩凝りが酷かったな……」
その言葉に少年は呆れたように眉を上げる。
「本当に貴様は頑丈なだけが取り柄だな。あれだけの数を憑かせてその程度とは、称賛に値するぞ」
「む、お前に誉められるなんて明日は槍が降るんじゃないか?」
茶化しながらも嬉しそうに目を細めたロナウドを呆れたように見上げる少年は、少し沈黙してから自らの髪の毛を一本抜いて、
「降りろ」
素直に降りてきたロナウドの手を掴み、小指にその髪の毛を巻き付けて口の中で何やら呟いた。一瞬、銀糸が煌めいた気がして不思議そうに少年を見たロナウドを見上げ返す目が緩く瞬く。
「これで二、三日はもつだろうが、空気の澱んだ場所や水場は避けろ。後日護符を届けさせる」
「む……?」
「……今貴様が雑霊ごときにとり殺されては支障があるのだ、自らの立場くらい理解しろ」
苛立たしげに言葉を重ねる少年はその目をきつく細めたが、対するロナウドは何度か瞬きをした後緊張感のない様子で表情を緩める。
「心配してくれたのか、ありがとう峰津院!」
一瞬表情を消した少年は……大和は呆れたのか諦めたのか、踵を返してその場を立ち去った。
──管理者から解放された世界で、栗木ロナウドとそのかつての敵・峰津院大和が互いに問題なく共闘出来る関係になったことを大多数の人間は驚いたが、何人かは当然の帰結だと考えていた。
元々ロナウドが大和を憎んでいたのは──贔屓目に見ても──大半が誤解によるものであり、その誤解さえ解ければ彼は切り替えの早い性質であったから、大和に対して他の仲間と同じように接するようになった。
また、大和は他人の悪意に対してそう引き摺られる性質でなかった為ロナウドに対して悪印象もなく──どうでもいい、ともとれる──、この壊れた世界を再建するのにロナウドが必要な人材である事も理解していた為、別段ロナウドを拒絶することもしなかった。
結果、大和が大局を判断し緻密に組み上げた作戦をロナウドが直感に近い判断力で電撃的に遂行し、ロナウドの見られない高さで大和が世界を見て、大和に聞こえない声をロナウドが拾い上げる。
それをうまく仲介するある少年の力もあって、この一度壊れた世界の二人は皆の予想よりもはるかにうまく成果を出していた。
「峰津院、今いいか?」
「……既に入っておいて白々しい、何だ」
無遠慮に室内へと足を踏み入れたロナウドに眉をひそめたものの咎めはせず、大和は書類から顔を上げた。
ふわ、と漂う香ばしい匂い。
「お前の事だから食事もまだだろう。食べながら相談したい事がある」
片手に持ったトレイには、箸が二膳と平皿がひとつ。その上で湯気をたてるソース味の丸い炭水化物……つまるところたこ焼き。
ロナウドが何かにつけて馬鹿の一つ覚えのようにたこ焼きを差し入れてくるのを大和は煩わしく思っていたが、たこ焼きに罪はなくただ美味なだけであるのだから大人しく食することに決めていた。
テーブルを挟んで向かい合う。
たこ焼きを淡々と口に運び、合間に見せられた計画書について一言二言注文をつけ、時に声を荒らげる相手をいなす大和の口調はストレートで辛辣だが、悪意的なものではない。
また、大きな口でたこ焼きを咀嚼し、はっきりとした口振りで主張を押し出して机を叩いたりしながらも、受けた指摘に時折黙って考え込んではまた反論するロナウドは、余分な遠慮や気遣いを脇に除けている節がある。
つまるところ二人の会話の根底には、自覚無自覚問わず確かな信頼の糸があった。
一通り話し合いを終えた二人が箸を伸ばした先には、最後のたこ焼き。一瞬間が空いた後、先に動いたのはロナウドで、
「峰津院、食べていいぞ」
「貴様から施しを受ける謂れは無い」
不快げに眉を寄せたのは大和である。
「大袈裟だな、たこ焼き好きなんだろう?遠慮せず食べるといい」
ロナウドは苦笑しながら箸を下げたが、大和は納得のいかないような顔でたこ焼きを睨むだけで手を出そうとはしない。
「理由が必要なら……そうだな、ここはお前の部屋で俺は客なんだから、手土産を主の方が多く受け取るのは当然だろう?」
そう続けられて渋々納得したのかたこ焼きを口に運ぶ大和を満足そうに眺め、ロナウドは席を立つ。
「じゃあ俺は戻るから、何かあれば通してくれ」
「必要ならな」
食器を纏めて持ち帰るロナウドの背を見送りもせず、ヤマトはまた仕事へと戻る。唇に青のりがついている気がして、一度指で擦った。
「不必要にギスギスするより、ちゃんと人間同士繋がった方が効率上がるってのはわかっただろ」
「……まあな」
基地の廊下を歩く大和の隣に並んで歩く少年はどこにでもいそうなありふれた顔立ちで、けれど何もかもを見通すような空恐ろしい何かを感じさせる青い目をしていた。
「仲良くすること全てが馴れ合いじゃないし。ロナウドはちょっと暑苦しいところあるけど、悪いヤツじゃないだろ?」
ふん、と鼻を鳴らした大和は軽く肩をすくめる。
「確かにその人間の人となりを知れば、作戦を遂行するにもプラスになる。……だが、あれが愚かである事は疑いようもない」
不満げに唇を尖らせた少年が口を開きかけるのを片手で制し、大和はコートのポケットから携帯電話を取り出した。……召喚アプリは失われているが、最近基地局の復旧が終わり携帯電話としての機能は動いているそれ。
その携帯電話からぶら下がる、小さな球体のついたストラップ。ご丁寧につまようじ付きの、たこ焼きストラップ。
「あはは、大和もそれつけてるんだ」
「勝手につけられた。何なのだあれは、私には必要ないというのに」
少年が取り出した携帯電話にも同じストラップが揺れており、そればかりか恐らくこの基地にいるかつての仲間たち全員の携帯電話にもそのストラップが揺れている。
「こないだ発掘した倉庫に、たこ焼き天然水が大量にあっただろ?そこに、おまけについてたっぽいストラップが大量にあったから」
「『皆でお揃いにしよう!』……だったか、下らん」
不満げな大和の様子に、だが少年は楽しそうに笑った。指先でそのストラップを弾く。
「そのわりに外してないじゃん」
「……外してまた騒がれるよりは、つけたままの方が良いだろう」
君もこういった戯れを好むだろうからな、と付け加えた大和の頭を乱暴にわし掴みにして髪をぐしゃぐしゃと撫で回した少年は、非難の目で睨み上げられたところで気にした風もなく廊下の先へと進んでから振り返る。
「案外いいコンビかもな、お前ら」
反論しようとした大和は、その廊下の向こうに背の高い──見慣れた──影が揺れたのを認め、ますます顔をしかめた。
《終》
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