Posted by 新矢晋 - 2012.09.13,Thu
憂主のような主憂のような。
回帰後?に、誰かを待つウサミミの話。短めです。
回帰後?に、誰かを待つウサミミの話。短めです。
知らない再会
俺は、誰かを待っている。
それが誰かもわからず、来るか来ないかもわからず、待っている。
学校の自習室で慣れた勉強をしながら、ふと溜め息を吐く。受験に対する心配はほとんど無く、惰性で手を動かしているだけだ。
幼馴染みは教師に質問しに行って、しんとした自習室の空気は息苦しい。俺は携帯電話だけ握り締め、ふらりと部屋を後にした。
――気が付けば、階段を上っている。
空に近いところへ行きたかった。いつもは屋上へ続く扉の前で時間を潰すのだが、今日に限って開いていた扉が俺を招いた。
冷たい空気を吸い込みながら屋上へ足を踏み入れた俺、澄んだ空気のせいで余計に高い空。耳が冷たくて、フードを被って風よけにした。
視界の隅で僅かにフェンスが揺れた気がして、何とはなしに見上げると。
「やあ」
フェンスの上に危なげなく直立する、白髪の少年と目が合った。長い睫毛をはたりと揺らし、どこか浮世離れしたその少年に、俺は頭の奥を揺さぶられたような感覚をおぼえる。
「……危ないぞ」
目眩にも似たその感覚に目を細め、自分でもずれていると思う第一声。少年は無感動に笑った。
「心配は無用だよ、けれど、……ああ、あの時と同じだね」
ふわりと、重力を無視した緩やかな動きでフェンスから飛び降りた少年の、鮮やかな赤と黒の服が俺の目を眩ませる。
ひとではないのだ、と自然に思っていた。だけど恐れも何も感じなかった。
「また会えたね」
子供のように老人のように微笑んだ少年を、俺は確かに知っている筈なのに。差し伸べられたかいなをかき分け、飛び付くように彼を抱き締めていた俺はまるで俺じゃないみたい。
ひんやりとした、無機物のような肌触り。俺はこの冷たいあたたかさを知っている。
「どうしたんだい、ああ、人間は再会の挨拶をするものだったね」
俺を抱き返してくるしなやかな腕。それが泣きたいくらいに愛しくて、胸が潰れそうで、それなのに俺はまだ彼の名前も思い出せずにいる。
なあ、まずは名前をきくところから、また始めてもいい?
《終》
俺は、誰かを待っている。
それが誰かもわからず、来るか来ないかもわからず、待っている。
学校の自習室で慣れた勉強をしながら、ふと溜め息を吐く。受験に対する心配はほとんど無く、惰性で手を動かしているだけだ。
幼馴染みは教師に質問しに行って、しんとした自習室の空気は息苦しい。俺は携帯電話だけ握り締め、ふらりと部屋を後にした。
――気が付けば、階段を上っている。
空に近いところへ行きたかった。いつもは屋上へ続く扉の前で時間を潰すのだが、今日に限って開いていた扉が俺を招いた。
冷たい空気を吸い込みながら屋上へ足を踏み入れた俺、澄んだ空気のせいで余計に高い空。耳が冷たくて、フードを被って風よけにした。
視界の隅で僅かにフェンスが揺れた気がして、何とはなしに見上げると。
「やあ」
フェンスの上に危なげなく直立する、白髪の少年と目が合った。長い睫毛をはたりと揺らし、どこか浮世離れしたその少年に、俺は頭の奥を揺さぶられたような感覚をおぼえる。
「……危ないぞ」
目眩にも似たその感覚に目を細め、自分でもずれていると思う第一声。少年は無感動に笑った。
「心配は無用だよ、けれど、……ああ、あの時と同じだね」
ふわりと、重力を無視した緩やかな動きでフェンスから飛び降りた少年の、鮮やかな赤と黒の服が俺の目を眩ませる。
ひとではないのだ、と自然に思っていた。だけど恐れも何も感じなかった。
「また会えたね」
子供のように老人のように微笑んだ少年を、俺は確かに知っている筈なのに。差し伸べられたかいなをかき分け、飛び付くように彼を抱き締めていた俺はまるで俺じゃないみたい。
ひんやりとした、無機物のような肌触り。俺はこの冷たいあたたかさを知っている。
「どうしたんだい、ああ、人間は再会の挨拶をするものだったね」
俺を抱き返してくるしなやかな腕。それが泣きたいくらいに愛しくて、胸が潰れそうで、それなのに俺はまだ彼の名前も思い出せずにいる。
なあ、まずは名前をきくところから、また始めてもいい?
《終》
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