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Posted by - 2020.07.06,Mon
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Posted by 新矢晋 - 2012.09.01,Sat
実力主義実現後、生き延びていたロナウドが拿捕される話。
受け攻め曖昧。軽く暴力を匂わせる描写あり。

英雄の末路


 男が一人、独房に閉じ込められていた。
 人間としての尊厳さえ奪われ、下着姿で両手首を鎖に戒められ壁際に縫いとめられてなお、その鳶色の目は反骨の光を失っていなかった。
 日に二度、栄養食を与えられてはいたがその手足は萎え始めていて、体毛も伸ばし放題で見苦しい有り様にはなっていたが、男は未だに見回りの局員に食って掛かったし脱出の機会を窺っていた。
 その男が囚われている独房に、複数の足音が近付いてくる。誰が来ようが矜持だけは折るまいと唇を噛んだ男は、
「湖宵くん……?!」
 独房に入ってきた人物を見て、目を見開いた。黒い兎耳付きのコートを翻し、数人の局員を背後に従えたその少年は、かつて男が全幅の信頼を寄せていた相手だ。
「久し振りだね、ロナウド」
「……ッ」
 穏やかに微笑みかけられて我に返った男は、険しい顔で少年を睨み付ける。その鳶色の奥でゆらりと揺れた焔に、少年が見惚れている事も知らずに。
「今更何の用だ、俺の落ちぶれた様を笑いに来たのか……!」
 男は吠える。
 ――暴力に支配されたこの世界で、男はレジスタンスを率いしぶとく反体制活動を続けていた。そしてその隣には、いつも少年が居た。男は少年を信頼し、少年もまた男をよくサポートしていた。
 ある晩、少年がレジスタンスを壊滅させ、男をジプスに引き渡すまでは。
 手酷い裏切りに――少なくとも男はそう思っている――憤怒するかつての英雄は今や哀れな虜囚でしかなく、痩けた頬に無精髭が浮いた顔付きに痛々しい焦燥と悲壮感が透けて見える。
 一方、仕立ての良い特別製のコートを身に纏い部下を従える少年はエリートのようでいて、どこか浮世離れした浮わついた目をしている。
「笑ったりしないよ。俺、今でもロナウドと一緒に働きたいって思ってる」
 白く細い指が男の頬に触れ、優しく撫でる。歯噛みする男の目からは昏い焔が消える事は無い。
「馬鹿にしているのか?!誰が貴様らのような悪に荷担するものか!」
 叫びがびりびりと肌を刺すような感覚に目を細めた少年は、そっか、と呟いてから周囲の部下に目配せをした。頷いた局員たちが準備する鞭や何やの類いを見て、男は唇をねじ曲げる。
「拷問か、貴様ららしいやり口だ、」
「この人たちに見覚えは無い?」
 男が縫い止められているのと反対側の壁際に椅子を用意させて、少年は口を開く。怪訝そうに眉を寄せた男が何も言わないのを見て、小さく笑った。
「だよね、俺もわからなかったもん。……この人たちは、俺たちの作戦で部下や上司や友や恋人を殺された、そんな人たちなんだ」
 息を飲み男は局員たちを見上げた。事務的に器具の準備をする彼らの表情からは一切の感情が読み取れなかったが、逆にその静けさこそが少年の言葉の真実味を増していた。
 椅子の上で足を組み換えながら、少年はゆっくりと噛んで含めるように男へと語りかける。
「何が正義で、何が悪だろうね?俺たちを憎むひとが俺たちを打ちたいと思うのは、悪かな?それを受け入れ打たれてあげるのは、正義かな?」
 言葉も無く少年を見詰める男に、少年はにっこりと魔女のように微笑んだ。


 ……男を拘束する鎖が外される。
 どさりと重い音をたてて床に崩れ落ちたその身体を局員が爪先でひっくり返せば、浅い擦過傷からくっきりとした蚯蚓腫れ、皮膚が爆ぜて滲む赤、既に鬱血し始めた青まで様々な爪痕が刻まれている。
 浅い呼吸を繰り返しながら目を閉じている男を見下ろしてから、局員たちは指示を請うように壁際の少年を振り返った。
「……もういいよ、戻って。大和にはもう少しかかるって言っておいてくれる?」
 部下たちにそう指示した後、少年は静まり返った独房の天井を一度だけ仰ぐ。それから男の傍らへ歩み寄り、何かの儀式のように膝を折った。
 息も絶え絶えといった様子の男は、その瞼を持ち上げぎらぎらとした目で少年を見上げる。
「……ロナウド」
 構わず手を差し伸べて、少年は男を抱きかかえた。
「ロナウド、俺は、ロナウドが好きだったんだ。すごくすごく、好きだったんだ」
 身体を強張らせ、逃れようともがく男をきつく抱き締めてなおも囁く少年の声は穏やかで、優しい。
「ロナウドに俺だけを見てほしかった。俺の隣で、俺と一緒に幸せになってほしかった……だから」
「……だから皆を裏切ったとでもいうつもりか……!」
 掠れた声に満ち満ちる怨嗟。萎えた腕で少年を突き飛ばし、床に倒れ込んで咳き込みながら男は少年を拒絶する。傷付いた獣のように吠える男を、だが少年はいとおしむように見ていた。
「俺は、君を信じていたッ……君となら世界を変えられるとそう思っていたのに、君は!」
「……ばかみたい」
 少年の呟きが酷く冷たく、それでいて歌うように美しくて男は黙り込む。
「ロナウドは本当に馬鹿だよね……でも俺はロナウドの馬鹿なところも、不器用なところも、何にも知らずに生きてるところも、全部丸ごと愛してる」
 凍り付くほどに鋭く、焼け付くように熱い愛の言葉。息さえ出来なくなった男の唇へ、少年は静かに口付けた。
 長い長い口付けの途中、男が目を細め息を飲んだ次の瞬間に少年はびくりと身を竦め唇を離した。ぺろ、と自らの唇を舐めて肩を引っ込める。
「何も噛まなくたっていいじゃない、そんなに嫌?」
「……、」
 か細い声で何かを言いかけた男に少年が顔を近付けると、
「君は狂ってる」
 悲しげに表情を歪めて告げられる言葉。一瞬表情を失った少年は、だが、満面の笑みを浮かべた。
「ずっと前からだよ、知らなかった?」


《終》

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