Posted by 新矢晋 - 2012.12.11,Tue
友人の誕生日祝いに書いたもの。主ヤマ。
ヤマトの誕生日を祝うだけの話、短め。
ヤマトの誕生日を祝うだけの話、短め。
おたんじょうびのはなし
ジプス大阪本局にて。
デスクにて何か書き物をしている部下の姿を認めた少年は、書類仕事は立て込んでいない筈だがと首を捻った。
「……何をしているのだ、迫」
「はっ、局長!……いえ、これは……」
素早くその紙片を腕の下に隠した部下の姿に、少年は柳眉を歪め腕組みをした。
「部下のプライベートにまで口を出す事はせんが、仕事に影響を与えんようにな」
コートの裾を翻し歩み去る少年を見送って、迫と呼ばれた女性は腕の下からメッセージカードを取り出した。そこに何やら書き込む作業を再開した女性は、真剣ではあったが、どこか柔らかく幸せそうな顔をしていた。
──日が暮れる頃、一日の業務を終えて自らの執務室へ戻ってきた少年が、
「大和、誕生日おめでとー!」
扉を開いた途端に響いた声と鳴り響く破裂音。色とりどりの紙テープを正面から被った少年……峰津院大和は、無表情のままそのテープを肩からつまみ上げた。
「……なんだこの騒ぎは」
執務室の中には、大和の部下だけでなく部外者も数名、かつては煩く付きまとって来ていた刑事までもが詰め掛けていた。
そして、その一番前に立つのは、大和がかつて唯一友と認めた少年だった。
「何って、大和の誕生日祝いだよ」
愛らしくラッピングされた紙包みを差し出しながら、少年は笑う。他の面子も次々に箱やら袋やらを差し出してきて、大和の両手はあっという間にプレゼントで一杯になってしまった。
それから執務室の中へ入った大和は、室内が派手に飾り付けされているばかりか大きなケーキまで用意されている事に眉を寄せた。
「後でちゃんと片付けるからさ、ほら、ハッピーバースデイツーユー♪」
少年が歌い出すや他の面々まで歌い出し、響く合唱の中大和は渋々とケーキに刺された蝋燭の火を吹き消した。
「……見て見て大和、これ。『東部警察』のDVD。ロナウドオススメだって~」
皆が帰った後、大和へのプレゼントを検分しながら好き勝手に感想を言っていた少年は、椅子に座りこちらに背を向けたまま動かない大和を見た。
「……疲れた?ごめん、内緒にしたかったからさ、」
歩み寄り、ひょいと大和の顔を覗き込んだ少年は目を瞬かせる。その長い睫毛で縁取られた瞼は降りており、細い息が規則正しく音をたてていた。
こんなところでうたた寝させるくらい疲れさせてしまったらしい、と眉を下げた少年はしかし、大和の手が大事そうに握り締めているものを見て柔らかく目を細めた。
──それは、小さな硝子細工のストラップだった。唐辛子を模した硝子細工が幾つか組紐にぶら下がっており、持ち主の災厄を代わりに受ける度にひとつ唐辛子が落ちていくとされている、ある地方に伝わる厄除けのお守りだ。そのお守りの付け根に、後ろ足で立ち上がった白兎の硝子細工も揺れている。
そのストラップは、少年からのプレゼントだった。受け取った時には厄除けというものはだの何だのと煩かった大和だったが、どうやら気に入ってくれたらしいと胸を撫で下ろした少年の前で、大和ははたと目を開いた。
「……すまない、少し眠っていたか。……なんだその顔は」
「べっつにぃ?」
にやけそうになる表情筋を必死に引き締めながらプレゼントの整理に戻る少年を、大和は不思議そうに眺めていた。
《終》
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