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Posted by 新矢晋 - 2013.04.05,Fri
春ですね、恋人が桜にさらわれる時期ですね!
回帰後、ファンタジーな事件に巻き込まれるロナ主。相変わらずヤマトが親切。

山桜

 来ない。
 来ない。
 あの人はまだ来ない。


 気が付くと見事な桜の足元にいた。これは夢だと気付いた俺は、その美しい桜を存分に愛でようと、桜を見上げるように寝転んだ。
 視界一杯に広がる、こぼれ落ちんばかりの桜、桜、桜。ああ、彼にも見せてやりたかったなあと思った俺の手を、誰かが握る。
 きっと彼だと呼び掛けるより先に。
「……やっと、来てくれた」
 か細いそれは、泣き出しそうな少女の声だった。


 あひ思はで うつろふ色を 見るものを
  花に知られぬ ながめするかな


 ロナウドが倒れて意識不明になったという連絡が入って、俺は講義も何もかも放り出して病院へ向かった。
 ロナウドについていてくれた同僚の刑事さんが言うに、ある事件の捜査で山中に入ってすぐになんの前触れもなく倒れたらしい。
 家族には連絡がつかず、親戚は遠方にいる為すぐには来られないというから、仕事に戻らなければいけない刑事さんの代わりに俺がロナウドの傍についている事にした。
 ……お医者さんいわく異常は見受けられないという。こんこんと眠り続けるロナウドの顔はどこか青ざめて見え、呼吸もしているかいないかわからないくらい微かだ。
 怖い。今まで感じたどの種類の恐怖よりも、怖い。
「……ロナウド」
 ひんやりした手を握り締め、名前を呼ぶことしか出来ない自分が情けなかった。


  *  *  *


 彼女の膝に頭を乗せてうとうとと微睡む俺は、はらはらと舞い落ちる花びらを捕まえようと手を伸ばした。
 が、もたつく手では一枚も捕まえられず、笑い声がくすくすと降ってくる。
「どうしたの、子供みたいね」
「……綺麗だから、あげようと思って……」
「私に?ありがとう、でも一緒に見ているのに、」
「違う」
 頭の奥が痺れるように痛む。何かが違う。この桜は美しいけれど、違う。
「君、じゃない……誰かに、……これを、……きっと喜んでくれるから……」
 宙に伸ばした俺の手を、彼女が優しく握って下ろさせる。柔らかくて温かい彼女の手が、強く俺の手を握り締めた。
「……もう少し眠っていて。きっと疲れているのよ」
 抗い難い眠気が俺の思考を塗り潰してゆく。この安寧に身を委ねてはいけないような気がするのに、甘美な誘いに抗えない。
 ……湖宵くん……。
 愛しい名を、小さく呟いた。


 宿りして 春の山辺に 寝たる夜は
  夢のうちにも 花ぞ散りける


 大学には行く事にした。俺が単位を落としたり成績を下げたりしたら、きっとロナウドも気にするだろう。
 講義が終わり次第病院へ向かい、面会時間ギリギリまで粘り、帰って少し寝て、また大学へ。二週間で体重が七キロ減った。通い詰める俺をロナウドの親戚が胡散臭く思っているのはわかっていたが、やめられなかった。
 二週間。二週間経ってもロナウドはまだ目覚めない。お医者さんも首を捻り、原因さえわからない。今すぐ命の危機だというわけではないが、こうして点滴で栄養を補給しながら永らえさせても根本的な解決にはならない。
 ──どうしたらいい。原因不明の眠り続ける病、まるでおとぎ話の……。
「……!」
 ロナウドの手を握り祈りの真似事をするしかなかった俺の頭に、ひらりと思い付きが飛来する。そう、本当におとぎ話みたいな、非現実的な所以だとしたら。……俺はこの世界が案外非現実的でファンタジーに出来てるってことを知っているのだ。
 俺は待合室まで走り携帯を開くと、彼女へ電話をかけた。
「乙女さん、……乙女さん、助けてほしいんだ」
 挨拶もそこそこにそう切り出した俺に、乙女さんは落ち着いた声で対応してくれた。
「……湖宵くん?……どうしたの、落ち着いてゆっくり話して頂戴」
 要領を得ない俺の説明をじっくり聞いてくれた乙女さんは、少し考え込むような間を空けてから、医師としての口振りになる。
「……わかりました。明日にでもそちらへ向かうわ、何か容態に変化があったらすぐに連絡してね」
「はい……ごめんなさい、こんな事乙女さんくらいにしか相談出来なくて……」
「ふふ、気にしないで。そちらへ出向する局員がいるから、同乗させてもらうだけよ。……湖宵くん、食事と睡眠は出来る範囲でいいからとるのよ。栗木くんが心配なのはわかるけど……」
 優しく俺に釘を刺してくる乙女さんに何とも返事が出来なくて一瞬沈黙した俺に、乙女さんは柔らかく苦笑したようだった。
 次の日、病院まで来てくれた乙女さんはロナウドの様子を見てから深刻そうに眉を寄せ、
「……これは、そうね。確かに普通の病院で対処出来る種類のものではないわ。私が手続きはしますから、転院しましょう」
 そう言ってから数時間後、ロナウドはジプス管轄の医療施設へ搬送されていた。


  *  *  *


「きよ、なんだか顔色が悪いぞ。病んでなどいないだろうな」
 俺が眠っている間に彼女は何か仕事をしているようで、疲れた顔に俺はそっと手を伸ばす。頬に触れると彼女は驚いたように目を丸くして、それから嬉しそうに微笑んだ。
「大丈夫よ、心配してくれてありがとう。あなたこそ体の具合はどう?」
「ああ、俺は……」
 日がな一日眠っていて疲れる筈もないだろうに、何故かぼんやりと眠気が残って起き上がるのも億劫だ。
 時折頭が痛んで、そんな時は必ずある言葉が口をついて出る。
「……湖宵。……湖宵……」
 ひとの名前、のような気がする。ぶつぶつと呟く俺の頭を膝に乗せ、彼女が歌うように優しく尋ねてくる。
「なあに、それ」
「いや……何だったか、何か、大切なものだった気がするのだが……」
 うまく動いてくれない頭、何かの病か、それとも疲れているのだろうか。長く溜め息を吐いた俺を心配そうに見る彼女の指が俺の髪をすく。
「……思い出せないということは、たいした事じゃあないのよ、きっと。だからもう少し眠っていて……」
 ……そうだろうか。そうかもしれない。
 とろとろと眠りに溶けてゆく俺は、ふっと、知らない誰かの顔を瞼の裏に見た気がした。


 朝夕に 花待つころは 思ひ寝の
  夢のうちにぞ 咲きはじめける



 結局大学は休む事にした。行ったところで集中出来ないし、やっぱりロナウドの傍についていたい。幸いジプスには空いている宿泊用の部屋もあり、俺はそこを借りて毎日ロナウドの診察に立ち会ったり検査結果を聞いたりしていた。
 ……それによると、やっぱりロナウドの体には何も異常は無いという。だが、霊的な側面から見ると話は変わってくる。
「なんていうのかしら、今ここにいる栗木くんは抜け殻みたいなもので……栗木くんの本質というか、イデアというか……そう、魂と呼ばれるものに近いかな。それがなくなってしまっているの」
 乙女さんの説明を聞きながら、俺は膝の上で拳を握り締める。内容はなんとなくしかわからないけれど、ロナウドが尋常ではない状態だということはわかった。
「自然に起こる現象ではないから、何かきっかけがあった筈よ。湖宵くん、何か知らない?」
「俺は何も……ただ、山の中で倒れたとしか」
 ……俺は、何も知らない。ロナウドに何があったのか、心当たりすらない。歯痒くて悔しくてまた強く拳を握り締める。
 不意に病室の扉が開き、足音高く入ってきたのは大和だった。大和は俺の顔を見るなり眉を寄せ、不満げに腕を組む。
「酷い顔だぞ湖宵、ろくに寝てもいないようだな?……それで柳谷、栗木の容態はどうなのだ」
 どうやら様子を見に来てくれたらしい。乙女さんは軽く頷くと大和にカルテを差し出した。
「どうも魂が抜けてしまっているみたいなんです。今、意識を失う直前に入ったという山について……ええと、なんて山だったかしら?」
 俺が山の名前を告げると、僅かに大和が目を細める。
「……そこは、」
「大和っ、何か知ってるの?!」
 必死で、必死に大和へすがりつく俺はとても見苦しいだろう。だが大和はひとつ溜め息を吐くだけで苦言のひとつも言わず、俺を見下ろしいつもの調子で言葉を紡いだ。
「その山には古いあやかしが棲んでいる。特に害のある存在ではなかった故に今まで放置されていたが、人に害をなしたとなれば話は別だ。……話をつけるか、或いは……」
 大和を見詰める俺の視線の意味なんてお見通しなんだろう。ふ、と僅かに唇を緩めた大和はわざとらしく肩をすくめてみせる。
「手すきの局員がいなくてな、君が力を貸してくれると助かるが……?」
「……ありがと、大和」
 ──大和は時々俺に甘い。勿論ただ甘やかしてはくれないし、遠慮のない言い合いは端から見れば冷淡に見えるかもしれないけど、これが俺たちにとっては心地のよい関係だ。
「念のため召喚器を貸し出そう、ついて来い」

 そして俺たちは、諸々の準備を済ませてから山へ向かった。

 現地に到着し、いつものコートとブーツ姿で危なげなく山道を歩く大和を不思議に思いつつ──だってあのネクタイも飾り紐もまったく引っ掛けたりしないのだ──歩くうち、俺は妙に浮き足立って落ち着かない気持ちになっていた。
「……桜に引き摺られているな。気を強く持て」
 落ち着いた声で言う大和が、足元から一枚の花びらを拾い上げる。どこにも花なんて無いのに、淡い色の桜の花びらが虚空よりちらちらと舞っている。大和が片手をその空間に翳すと、ざあ、と大気が揺れて桜吹雪が俺たちに叩き付けられた。
 ……そして俺たちは、頂上に一本の巨大な桜の木が立っている丘の前にいた。


  *  *  *


 桜舞い散る桃源郷。桜の木の根元で いとしい ひと と甘やかな時間を過ごすのはとても しあわせ で……、幸せな筈で……。
「……きよ」
「なあに?」
 優しく俺の髪を撫でる指先が心地よくて、余計な思考を削り取ってゆく。どうでもよくなってゆく。
「君はそこにいるな?」
「ふふ、どうしたの」
 手の中からこぼれ落ちていく何か。満たされている筈なのに、幸せな筈なのに、足元から奈落へ吸い込まれるような不安感。
「……幸せ、なんだよな。俺は君とここで、幸せに暮らして……」
 ──しあわ せ。
 ずきんと心臓が痛む。知らない声が頭の中で何かを叫んでいる。忘れるな、まやかしだ、紛い物だ!“それ”は違う!
「……、……こよい」
 ぽつりと呟いた俺の目を、彼女が優しく手で塞ぐ。
「眠って。今は眠って……『思い出して』、ね」
 ぶつん、とスイッチを切られるように俺は眠りに落ちた。


 世の中に 絶えて桜の なかりせば
  春の心は のどけからまし


「……大和」
「なんだ」
 さくさくと草を踏み分け丘を登りながら、俺は大和に話しかけた。
「ここにいるのは……その、どんなあやかし?なの」
 ちらと横目に俺を見た大和は、少し間を置いてからまた前を見て口を開く。
「蛇だ。愚かにも人に懸想し、情念に狂った挙げ句鐘を焼いた蛇だ」
 ──蛇。
 大蛇がロナウドに絡み付いている様子を想像してしまった俺は、ぶるりと体を震わせてから足を進めた。
 そして。
 丘の上に立つ大樹の足元に人影がある。着物を着た美しい少女が、幸せそうに誰かに膝枕をして……ああ。
「ロナウド!」
 思わず駆け寄ろうとした俺を遮り、大和が不快げに眉を寄せている。
「……随分と概念が書き換えられている。どうやらあの蛇は、昔懸想した男の代替に栗木を据えるつもりのようだ」
「そんなの!そんなの駄目だ!ロナウドはっ」
 大和を押し退けようとして、俺は鋭く貫くような視線を感じた。顔を上げたその先で、少女が驚愕の表情で立ち上がり、それから俺たちを睨み付けたところだった。
「……帰って。ここは私の庭、人間が来るべきところじゃない」
 鈴を鳴らすような愛らしい声。人ならざる美しさ、だが、少しも気分は浮き立たない。少女の足元に横たわるロナウド。……ロナウド。
「人ひとりの魂を拐かしておいて何を言うか。さっさとそれを在るべき所へ帰してもらおう」
 有無を言わせぬ大和の言に少女は少し怯んだように見えたが、唇を噛むと頭を振る。
「いや。いやよ。私たちはここで幸せに暮らすの」
「何が幸せだ。貴様に都合の良いように概念を、記憶を書き換えて、人形遊びにしては随分悪趣味だな」
 泣き出しそうにくしゃくしゃと顔を歪めて、少女は何度も頭を振る。
「いや!この人は私と暮らすの!やっと帰ってきてくれたのに!」
 いやいやと頭を振る少女の着物が、足元からめらめらと燃え上がり始める。その炎は下生えにも燃え移り、大樹の根本から這い上がり、桜をも飲み込んでゆく。
「やめて……とらないで、__様を私からとらないで!」
 ごう、と巻き起こった炎の嵐に目が眩んだと思った次の瞬間、炎の花を咲かせる桜樹の根元にぐるりと巻き付く人面蛇胴の化け物がそこにいた。
「帰って!帰ってよお!!」
 完全にひとの姿を失い、爬虫類のような目から血の涙をこぼしながら叫ぶその人を見ていられなくて俺は目を逸らしかけたが、視界の端を彼の姿が掠めて我に返る。
 ──ロナウド。
 目を閉じて草の上に横たわる彼の横顔を火の明かりが照らしている。眠り姫の呪いのように、生気の失せた横顔。きゅっと心臓が縮こまって、俺は一度唇を噛んだ。
「本性をあらわしたか、妄執に狂った哀れな蛇が。自分の欲でひと一人の概念を書き換えるなど理に反する」
「……大和。俺がやる」
 召喚器を構えかけた大和を遮り、俺は一歩進み出る。ジプスから借り受けた召喚器、ハンドターミナルと呼ばれるそれの扱いを俺はよく知っている。
 ……愛すべき退屈な日常へ回帰したとはいえ、いつまた世界へ裁定が下るかわからない。その時何も出来ずに見ているしかないなんて嫌だから、俺は大和に頼んでジプスの研修に時々参加させてもらっていたのだ。
 こんな形で役に立つとは思わなかったが。
 プログラムを起動し、カタカタと召喚器が演算する。空間を割り召喚されるのは俺があの終末で世話になっていた、翼持つ鯉の姿をした悪魔。
「力ずくでも返してもらう、その人は……その人は、俺の隣にいなきゃいけないんだ!」
 悪魔に指示をするべく構えた俺は少女だった化け物を睨み付ける。何か切実な事情があることは伝わってきたが、だからといって譲れない。譲れるわけがない!
 だが。
「……やめて、くれ」
 か細い声。木に寄りかかるようにして立ち上がったロナウドが、悲しげな眼差しで俺たちを、彼女を見ていた。
「……きよ、……きよ、さん。もうやめてくれ。俺は、君の待ち人ではないんだ。俺は……」
 頭でも痛むのか、眉を寄せ目を眇めたロナウドはそれでも一歩前に進んだが、それを見て大和は舌打ちをした。
「愚か者が、書き換えられた概念を無理矢理気合いだけで組み直したな……バラバラになりかけているではないか」
「な……!」
 やめてくれ、と叫ぼうとした俺を見て、ロナウドは小さく笑った。言葉を失った俺をよそにロナウドはなおも言葉を続ける。
「俺の名は、栗木ロナウド。……君の待ち人は、もう、この世にはいないんだ……本当はわかっていたんだろう?」
 ……いつの間にか化け物は少女の姿に戻り、くすんくすんと啜り泣いていた。その頭を優しく撫でて、ロナウドは困ったように笑った。
「さようなら、きよさん。俺は、俺の愛するひとの所へ帰るよ」
「いや……お願い、帰らないで……」
「そうはいかない。君が俺に重ねた誰かを愛しているのと同じように、俺も彼を愛しているから」
 そう言ってロナウドは少女に背を向けこちらへ歩き出したが、もう少女は無理矢理引き留めたりはしなかった。途中で膝が折れ崩れ落ちたロナウドに駆け寄って、俺は彼を力一杯ぎゅうっと抱き締めた。
「湖宵くん、……峰津院も、迷惑をかけたな」
「ばかっ、心配したんだから……っ」
「ふふ、だが……湖宵くんが迎えに来てくれて、嬉しかったぞ……ありがと、」
 がくん、と腕にかかる重みがなくなる。ロナウドの姿が急速に薄れて、細かな光の粒子にほどけて、消える。
 息も出来ずに自分の手を見詰め、目を見開いたまま固まる俺の肩に大和の手が触れた。
「魂が肉体へ帰っただけだ、心配はいらん。私たちも帰るぞ」
「あ……ああ、そっか、うん、帰ろう」
 なんとか手を借り立ち上がった俺は、よろよろと丘を下る。その空間を後にする時最後に一度振り返ると、何事もなかったかのように桜が咲き誇っていた。

 そして、無事に帰った俺は、ロナウドがいる筈の病室の前で一度深呼吸してから扉を開いた。

 ──ロナウドは既に目を覚ましていた。ベッドに腰掛ける淡い青のストライプの病衣を着た彼は何だか一回り小さく見えて、俺は一瞬足を止める。
 ロナウドはまだ夢を見ているような目をして、でも俺の姿を見つけると弱々しく笑いながら手を伸ばしてきた。近寄るといきなりすがりつくように俺を抱き締めて、大きな頭をすり寄せてくる。
「ああ……湖宵くんだ、夢じゃない」
「夢じゃないよ、ロナウド。お帰り」
 体を離すと両手で俺の頬を挟み、顔の造作を確認するように撫で回す。くすぐったくて身をよじるとまた抱き締められ、囁く声は低く掠れたいとしい声。
「……大切なものを少しずつ忘れていって、君の名前すらわからなくなって、とても不安だった」
「うん」
「あの桜の下へ君が迎えに来てくれたのは、夢ではなかったんだな……」
「うん」
 少し癖のある焦げ茶の髪を撫でながら、俺は目を閉じて頭を彼にもたせかける。ほのかな消毒薬の匂いと、髪の匂い。ロナウドの、匂い。
「湖宵くん……湖宵くん、湖宵くん」
 確かめるように何度も俺の名を呼んでから、
「もう忘れない。絶対に、君を忘れたりなんかしない」
 ロナウドは顔を上げ、俺の唇へそっと口付けた。……少し乾いたキスは、桜の匂いがする気がした。


《終》

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