Posted by 新矢晋 - 2012.07.24,Tue
ロナウドのいない世界で、ロナウドの愛した世界を、守り続けるウサミミの独白。
死ネタ。
死ネタ。
とある世界の守護者が語る
俺はもうこの世界を愛せないだろう。
ある男が死んだ。
彼はこの世界を心底愛し、世界はより良くなっていくと信じ、世界を守る為に身を粉にして働いていた。
そんな男が死んだ。病死だった。十分な量の医薬品があればけして重症化はしない筈の病気だった。
薬の配給を固辞し痩せ衰えて死んだ彼を皆が悼み、讃えたが、この時俺が深く暗い絶望を飼い始めた事を誰も気が付かなかった。
俺は、死んだ男の相棒だった。……また、ついぞ誰も気付かなかったが、俺は彼を愛していた。
そう、俺は彼を愛していた。その心臓に触れたいくらい、息絶えるまで口付けたいくらい、世界が滅んでも構わないくらい、俺は彼の事だけを愛していたのだ。
彼がこの世界を愛していたから、俺もこの世界を好きになれるように努力した。彼がこの世界を守ろうとしていたから、俺もこの世界を守ってきた。
――けれど、もう彼はいない。
彼のいない世界は、俺にとって何の価値も無い。守るべき価値も、愛すべき価値すらも。
彼を殺した世界をどうして愛せるだろう?
自然石に名前を刻んだだけの粗末な墓石の前に花が絶える事は無い。彼は誰もから慕われ頼られる英雄だったから、きっとこれからもこうして讃えられ続けるのだろう。
気持ちが悪い。
この名も無き無辜の人々が、彼の足を掴んで離さなかったのに。無知な善意と純粋さが、彼を押し潰し殺したのに。
それらの花をまとめてゴミ袋に突っ込んでから、綺麗になった墓の前に青いカンパニュラを手向ける。いくら祈っても嘆いても届かない、俺の真剣で切実な思いと、それから、……後悔と。
もう彼に触れる事は永遠に叶わない。彼に名を呼ばれる事も、その横顔を眺める事も、奇跡的な確率で愛を得られる事もない。
もっと話したかった。
もっと触れたかった。
もっと愛していたかったし、隣で笑っていたかった。
「……ろな、」
名を呼んでも答える声は無い、ただそれだけの事が悲しくて苦しくて声も出ない。喉の奥に大きな塊が詰まって息さえ出来なくて、嗚咽は絞め殺される。
――愛していると、言えば良かった。彼はきっと困っただろうけれど、それでも言えば良かった。行き場を失い腐れた愛が、こんなにも苦しいなんて知らなかったんだ。
「ろなう、……あいして、ぅ」
言葉さえままならなくて、届きもしない告白は涙に飲まれた。
俺はもうこの世界を二度と愛せない。
無知で無力な人々も愛せない。
――けれど俺は一生、死ぬまで、この世界を守り続けるだろう。世界を、人々を憎みながら、この身を磨り減らすだろう。
この世界にはもう俺の愛したひとは居ないけど、この世界は俺の愛したひとを殺した世界だけど、でも、この世界は俺の愛したひとが愛した世界なのだ。
もう二度と彼に触れられない俺は、彼が愛したこの世界で、彼を愛して生きていく。
欠片たりとて愛せはしない世界と人々を守りながら、いつか来る迎えを待ち望みながら、俺は生きていく。
生きながら彼と心中する。
それだけが俺に残された愛の形。
《終》
俺はもうこの世界を愛せないだろう。
ある男が死んだ。
彼はこの世界を心底愛し、世界はより良くなっていくと信じ、世界を守る為に身を粉にして働いていた。
そんな男が死んだ。病死だった。十分な量の医薬品があればけして重症化はしない筈の病気だった。
薬の配給を固辞し痩せ衰えて死んだ彼を皆が悼み、讃えたが、この時俺が深く暗い絶望を飼い始めた事を誰も気が付かなかった。
俺は、死んだ男の相棒だった。……また、ついぞ誰も気付かなかったが、俺は彼を愛していた。
そう、俺は彼を愛していた。その心臓に触れたいくらい、息絶えるまで口付けたいくらい、世界が滅んでも構わないくらい、俺は彼の事だけを愛していたのだ。
彼がこの世界を愛していたから、俺もこの世界を好きになれるように努力した。彼がこの世界を守ろうとしていたから、俺もこの世界を守ってきた。
――けれど、もう彼はいない。
彼のいない世界は、俺にとって何の価値も無い。守るべき価値も、愛すべき価値すらも。
彼を殺した世界をどうして愛せるだろう?
自然石に名前を刻んだだけの粗末な墓石の前に花が絶える事は無い。彼は誰もから慕われ頼られる英雄だったから、きっとこれからもこうして讃えられ続けるのだろう。
気持ちが悪い。
この名も無き無辜の人々が、彼の足を掴んで離さなかったのに。無知な善意と純粋さが、彼を押し潰し殺したのに。
それらの花をまとめてゴミ袋に突っ込んでから、綺麗になった墓の前に青いカンパニュラを手向ける。いくら祈っても嘆いても届かない、俺の真剣で切実な思いと、それから、……後悔と。
もう彼に触れる事は永遠に叶わない。彼に名を呼ばれる事も、その横顔を眺める事も、奇跡的な確率で愛を得られる事もない。
もっと話したかった。
もっと触れたかった。
もっと愛していたかったし、隣で笑っていたかった。
「……ろな、」
名を呼んでも答える声は無い、ただそれだけの事が悲しくて苦しくて声も出ない。喉の奥に大きな塊が詰まって息さえ出来なくて、嗚咽は絞め殺される。
――愛していると、言えば良かった。彼はきっと困っただろうけれど、それでも言えば良かった。行き場を失い腐れた愛が、こんなにも苦しいなんて知らなかったんだ。
「ろなう、……あいして、ぅ」
言葉さえままならなくて、届きもしない告白は涙に飲まれた。
俺はもうこの世界を二度と愛せない。
無知で無力な人々も愛せない。
――けれど俺は一生、死ぬまで、この世界を守り続けるだろう。世界を、人々を憎みながら、この身を磨り減らすだろう。
この世界にはもう俺の愛したひとは居ないけど、この世界は俺の愛したひとを殺した世界だけど、でも、この世界は俺の愛したひとが愛した世界なのだ。
もう二度と彼に触れられない俺は、彼が愛したこの世界で、彼を愛して生きていく。
欠片たりとて愛せはしない世界と人々を守りながら、いつか来る迎えを待ち望みながら、俺は生きていく。
生きながら彼と心中する。
それだけが俺に残された愛の形。
《終》
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