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Posted by - 2020.07.06,Mon
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Posted by 新矢晋 - 2012.07.09,Mon
主ヤマ、のつもり。
未だくっつきそうでくっつかない二人を見守るケルベロスの話。ケロちゃんに設定盛ってます。



竜と猫と少年と


 その子供には友も家族も居なかった。子供はそれを不幸だと思った事は無く、自分はいずれ峰津院を統べるのだという自負と自信がその背を伸ばさせていた。
 子供はその心身共に優れた才覚をあらわし、分別がつく頃には大人たちを従える器と能力を備えていた。
 だから、その子供は、孤独だった。
 だから、その子供は、長じて大人にもなれず子供でもいられず、竜となった。


 戦闘中でなく自分が呼び出され部屋の隅に待機させられる時は、大和の身辺がキナ臭いか、大和が疲れている時だとそのケルベロスは理解していた。だからこそケルベロスは何も問う事はせず、大和が執務をこなす部屋でただ静かに、だがいつでも不埒な輩を引き裂ける心づもりで蹲っていた。
 そのケルベロスは、大和が幼い頃から契約に従い彼を守り続けてきた。友も家族も無い大和の最も近くに居たのは己だという自負があった。無論ケルベロスは人ではなく悪魔だが、長く峰津院に仕えるうちに人の機微も理解してきた。最近の大和は、少しずつ人がましい尊いものを取り戻している気がする。
 たこ焼きなる食べ物をケルベロスにも分け与えてくれたり、柔らかな表情で他人の事を話すようになったり……そう、主は今きっと、とても大切なものが出来るか否かの瀬戸際に立っているのだ。
 ――ざりざりと前足を舐めながら、ケルベロスは考える。大和の懐へあっという間に入り込んだあの少年が、大和にとって大切な存在になる可能性について。
 ……考えるまでもなく、九割九分九厘、少年は大和のアキレス腱となるだろう。と同時に、あの少年は大和にかけがえのない光をもたらしてくれるような気がした。
 ケルベロスの知る大和という人間は、誰よりも潔癖で、誰よりも真面目で、……誰よりも人間を信じている。この危うさを、あの少年が支え打ち破ってくれたなら。
 自分もそろそろ隠居出来るかもしれない、とケルベロスは伸びをした。
 不意に。
「にゃーん」
 白い猫が、デスク脇で鳴いた。
 最近敷地内で見かけるようになった猫が、いつの間にか部屋の中に紛れ込んでいたらしい。足元で鳴くそれを、今までの大和なら無視していただろうが、今日は違った。
 がし、といきなり猫の首根っこを鷲掴みにして、持ち上げる。当然猫は暴れたが、大和は無表情のまま猫を抱き締めて離さない。ケルベロスが腰を上げかけた所で、ケルベロスにとっても大和にとっても馴染み深い気配が部屋へと近付いてきた為、ケルベロスはまた部屋の隅へ蹲る。
「あれ、ここに居たのかじゅんご……って何やってるの大和」
 ノックもせずに扉を開いても大和に咎められない唯一の人物。大和とそう変わらない年格好の少年は、遠慮無く大和へ歩み寄り、その腕の中で暴れる猫をひょいと抱き上げた。
「動物を抱く時は、しっかり身体を支えてやらないと。こうやってお尻を……やってみて」
「うむ……」
 少年に教えられるまま、どこかおっかなびっくりといった風に猫を抱く大和を少年とケルベロスがじっと見詰めている。
 今度は大人しく抱かれている猫をまじまじと見て、大和は何度か瞬きをした後ほんの微かに唇を綻ばせた。
「可愛いよね、じゅんご」
「……その名前はどうにかならんのか」
 星の瞬きにも似たかそけきそれは直ぐに消え、また澄ました顔で少年を見下ろす大和の胸には白い猫。なぁん、と鳴いたその声に瞳を細めた少年は、指で猫の額をぐりぐりしながら口を開く。
「猫似合うよ、大和。今度俺の猫庭教えてあげる」
 ――私に動物を愛でるなど似合わない。そう言おうとした矢先に先手を打たれて、大和はぐぅと喉を鳴らして黙りこんだ。
 少年の聡明さや察しの良さを大和は好ましく思っていたが、時折何もかも見透かされているような、掌で転がされているような錯覚を覚えて複雑な気持ちになる。
「俺、大和にくだらないこと色々教えるのが楽しいんだ。大和は迷惑かもしれないけど、まあ、手伝い賃って事で付き合ってよ」
 けれど、少年が邪気無く笑うから、その手を差し伸べるから、
「迷惑であれば断っている、私はそれほど暇な身ではないのでな」
 大和はどうしてもその手を振り払う事など出来ないのだ。


 ――独りぼっちの竜は、日本を守り続けてきた。
 今、その竜は尊く微かな星の光に惹かれて、迷うように、祈るように手を伸ばしている。
 どうかその光が竜を焼き尽くさぬように、どうかその光が竜を守ってくれるように。
 地獄の番犬は祈る相手を持たぬから、ただ、願った。


《終》

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