Posted by 新矢晋 - 2013.03.09,Sat
ツイッターで流していた短文をまとめました。
シチュは何でもありのごたまぜです、死ネタもありあり。
地雷シチュの無いひと向け。
シチュは何でもありのごたまぜです、死ネタもありあり。
地雷シチュの無いひと向け。
ろなみみ50 その4
薄暗い館内では、互いの表情さえ目を凝らさないと見えない。
満天の星空が落ちてきそうに見えて、俺はそっと隣に置かれた手に触れてみた。
「……、」
彼は何かを言いかけてからやめて、俺の手を握り込んだ。
大きくてごつごつした手が思ったより熱くて、俺は星空ではなく彼の横顔を盗み見る。
星空を見上げる彼は、僅かに口を開けて、何か眩しいものを見るように瞳を細めていた。
星を写す鳶色の目がとても尊いもののように見えて、俺は見ていられなくなって星空へと視線を移す。
「フェクダ」という言葉が聞こえて思わず彼の手を握り締めたら、彼が内緒話のように潜めた声で俺の名を呼んだ。
顔が近くて、妙に真剣な表情で。
俺の手を一度握り直してから、全部わかってるみたいな風に頷く彼は、
もう一方の手で軽く俺の頭を撫でてからまた星空を見上げた。
俺はなんだかもやもやしながら彼を見て、星空を見て、また彼を見て、こてんとその肩にもたれかかってみる。
なけなしの勇気を振り絞った行動に、彼の身体が強張って、握った手が離れていく。
泣きそうになりながら体勢を戻そうとした俺の、逆側の肩を掴む手。
ぐい、と引き寄せられてすぐ傍から見上げた彼の頬が染まっているかどうかは暗くてわからない。
君は俺に背を向けた。
魔王に寄り添う君は、もう俺の事を振り返りもしない。
俺たちの道が分かたれ二度と交わらないというのなら、この拳で君の間違いを正してでも君を。
もう一度、君の名を呼びたいから。
//もう、名前を呼ぶことさえ出来ないから。
澱んだ水面を眺めてどれくらい経っただろう。
膜がかかったように世界が遠くて、頭の中には粘土が詰まっちゃったみたいだ。
からからに乾いた口を開いても、ひゅうひゅう息が漏れるだけで何も言えはしなかった。
//さぁ、早く別れの言葉を。
君が好きだというこの情熱をどうすればいい?
うまくいく要素なんてまるで無いし、
俺が君に相応しい男だとも思えないが、
この熱量だけは誰にも負けないんだ。
愛してる。
愛してる!
//安っぽい言葉しか出て来ないけれど。
「ロナウドなんか嫌いだ!」
「ム……嘘つきは泥棒の始まりだぞウサミミくん」
「な」
「ウサミミくんは俺のことが好きだろう?」
「なんっ、な、腹立つ……!」
「???」
「……っああもう好きだよばか!!!」
あんたの夢は世界を殺す。
緩慢に、けれど確かに殺す。
正義と大義だけを見るあんたには現実の醜さと綻びが見えず、
道から外れた場所で沈黙する死体の腐臭に気付かない。
ねえ、いっそあんたを殺して、ぜんぶ終わらせようか。
//どうしてわかってくれない
あんたが俺の笑顔が好きだって言ってくれたから、俺はいつだって笑ってきた。
あんたの背中しか見えなくても、
他の人へあんたの手が差し伸べられても、
二度とおかえりが言えなくても、
あんたの声が思い出せなくなっても、
俺は、
//(わらえ、わらうんだ)
君を思うこの気持ちを言葉にするすべを、俺は知らない。
己の信じる正義以外に目もくれず、転んで泥だらけになっても走り続けてきた俺は、
叫ぶ以外にどうすれば君に伝えられるのかわからない。
好きだ、好きだ、好きなんだ!
//胸元でつっかえる言葉
君が結婚すると聞いて、初めて君を特別に思う自分に気付いた。
今まで曖昧な関係を続けてきて、何かを期待する君の態度に気付かないふりをして、その癖いまさら。
……君を手放したくないって、ずっと前から君を好きだったんだって、泣き付く俺をどうか殴ってくれ。
//離したくないって言ったら、怒る?
ばか。ばかばかばか!
枕を殴りながら心の中で悪態を吐く。
あの朴念仁は俺の気持ちになんて気付かず、
わかりやすすぎるくらいのアピールもスルーして、
俺を「相棒」だなんて呼びやがるのだ!
どこの相棒が一緒に寝たがったり、頬にキスしたりするんだよ!
//「ばーか。そろそろ気付け!」
-160-
朝食はパン派だったが、今は君の味噌汁なしじゃ一日が始まらない。
男子たるもの硬派であれと思っていた筈が、今では君を膝に乗せて愛でる時が一番幸せだ。
君に出会って、君を好きになって、俺はどんどん変わっていく。
俺を好きになってくれて、ありがとう。
//変われるしあわせ
「やまないね」
久し振りに会えたのに、突然のどしゃ降り。
公園のあずまやに避難してから十五分、会話も途切れがちになる。
横顔をじっと見られている気がして振り向いたら不意にキスされた。
「雨に隠れて誰にも見えないだろう?」
言い訳する彼に、今度は俺からキスをする。
//雨にかくれてキスしよう
こたつで食べるアイスが格別なのと同じように、
数多いる女性に目もくれず選んだむさ苦しい男は魅力的、だろうか。
こたつでうたた寝しながら鼾をかく恋人に、そっとキスをする俺が物好きなだけかもね。
さて、コンビニでアイスでも買ってこようかな。
//バニラアイスのあまさで
「大丈夫、ここにいれば安全だ。俺が君を守るから」
微笑むあんたは俺の知らない間に変わってしまったみたいだ。
俺は途方にくれるしかなく、あんたは不思議そうに首を傾げた。
「どうした?もうあんな、あんな怖い目にはあわせないからな!」
俺の腕を掴む手が、痛い。
そうして君は東京へ帰ってゆく。
もうここに住めばいいのにという俺のプロポーズを君は毎回受け流す。
どうしたら君は俺のそばにいてくれるだろう。
君の帰るあの街には、たくさんの悪意が溢れているというのに。
こたつを出した。
案の定俺も彼もこたつから離れられなくなった。
でも仕方ないから洗い物をして戻ってきたら、彼が転た寝をしていた。
「こたつで寝たら風邪ひくよ」
むにゃむにゃ言って起きる様子の無い彼に、キスをしたら起きるかな。
何だかジャンクな味が恋しくてコーラを飲んでいた。
乾いた喉に炭酸が心地いい。
「喉乾いたーっ」
汗だくの君が歩いてきたから飲むか?と言ったら、
君はなんだか急に挙動不審になって頭を振った。
遠慮する必要は無いのに。
俺はいつでも君の前では格好いい大人でいたいのに、
君に頼られる男でいたいのに、
綺麗な青い目で見られていると何もかも見透かされそうな気がして。
俺の格好悪い見栄だとか、
子供みたいな虚勢にどうか、気付かないで。
//「みないで。」
雨が降る、俺は喉元まで浸かって溺れそう。
雨が降る、呼ぶ声は誰にも聞こえない。
雨が降る、俺の涙もあんたの血も洗い流される。
雨が降る、雨が降る、まだ雨はやまない。
//雨がやんで、風が過ぎたら、会いにいこう
広い背中だとか、
逞しい腕だとか、
思い出せるのはあんたが誰かの元へ向かう姿ばかりで、
もうあんたの顔もうまく思い出せなくなった。
記憶の中でさえあんたは、俺に笑いかけてはくれないんだ。
俺の名を呼んではくれないんだ。
//走馬灯の中で散りゆく
-170-
両手で口を塞いで誰にも聞こえないように、( )、
胸の中で固まって息ができなくならないように、( )、
届けられない言葉を、届かない言葉を、口を塞いだまま叫ぶ。ああ。
//(すき。すき。)
俺はあんたを抱き締められるけど、同じ手であんたを殺せる。
俺があんたを愛してるって事をあんたですらも知らないけど、
俺があんたを憎んでるって事はきっとあんたも知っている。
俺はあんたが憎くて、だけど、愛しい。
//女の子にはなれないけど
眠る君の顔は年相応に幼くて、俺は自分の罪深さに身がすくむ。
君を愛することが罪で俺が罪人ならば、俺はどの面下げて悪を裁く事が出来るだろう。
君の青春を食い潰し、動物の本能に背を向けて、
それでも君にキスがしたくて俺はそっと手を伸ばした。
//「おやすみ。」
隣にいられるだけでいいって思ってたのに。
すべてに優しくすべてを愛する、あんたの優しさが好きだったのに。
ねえ、あんたに触れられたいって、今はそればかり思うんだ。
その大きな手が、俺を抱いてくれたらって。
その鳶色の目が、俺だけを見てくれたらって。
//ばかみたいに欲張りになってた
縁るべき思想を失った俺はいぎたなく別の思想へと鞍替えし
、しおらしい少年の顔で彼らに受け入れられた。
俺が胸に抱くのはもう居ない少年の苛烈で鮮烈でうつくしい理想だけで、
差し伸べられた手は憎しみの対象でしかなくて、
俺が磨く刃の色を誰も知らない。
//ナイフを持ってることはひみつ
あんたの入れるコーヒーはいつも濃すぎて、
俺は寝起きの喉に無理やりそれを流し込んでは毎回噎せる。
慌ててあんたは俺の背をさするが、
それならちゃんと濃さを改めればいいのにと思いながらも俺は
俺の背を撫でる手があたたかくて心地よくて今日も、やっぱり、口を噤む。
//「おはよ。」
例えば俺の呼吸は何を言うためにあるかとか、
例えば俺の心臓は何のために俺を生かしているかとか、
俺はどうしようもないくらい思い知っていて。
伸ばした指先が、言葉が、誰に触れようとして触れられなくて落ちるのか、
あなただけは気付かないで、
//気付いてほしい
「うさみみくん、ただいま!おみやげだぞ!」
玄関までロナウドを迎えに出た俺は、コンビニの袋を差し出され思わず受け取っていた。
ほんのりあたたかい。
「ピザまんと豚まんがあるぞ、どっちがいい?」
そうだなあ、半分こしよっか。
目が覚めるとあんたの顔、
慌てて起きようとしたらごつんとぶつかった拍子に唇が触れて。
俺はどきどきして息が止まりそうだけど、あんたは面白いくらいに慌ててる。
「すまないそんなつもりは!
熱を計ろうと思ったら君が起きるから慌ててしまって、き、きすなど、
いやこれはキスではないな事故だな!だからお互い気にしないでおこう!」
言い訳をするあんたの唇を塞いで、
「これならキスだよね」
不敵に笑った俺を、神様だって誉めてくれるだろう。
ほんとは握った指が震えてる。
//不慮の事故だからこれはキスじゃない
ただ貴方の隣に寄り添っている。
パジャマの裾を握って、貴方の心音を聞いている。
貴方は熟睡しているのに、俺は眠るのが怖くて目を閉じる事さえ出来ない。
どうしてだろう。
手を離したら貴方が消えてしまいそうで、この安らぎは幻みたいに思えて、眠れないんだ。
//眠れない夜
-180-
名も知らぬ人が死んでいる。
その隣に屈み込んで顔を歪め祈る貴方の背を見ながら、俺は血溜まりをぱしゃぱしゃと踏んだ。
祈りを終えた貴方は俺を見たけれど責めもしない。
俺が貴方の隣にいるのはその思想に同意したからではない事を貴方は知っているけど、
じゃあどうして俺が貴方の隣にいるかを貴方は知らない。
シンプルな、とてもシンプルな理由だって事を知らない。
//紅い水溜り
つぶらな瞳に見上げられて居心地が悪い。
子供の相手の仕方なんてわからなくて、ふと思い出し鞄のポケットから飴を取り出す。
「食べるか?」
ぱっと顔を輝かせた子供に包み紙を剥いてやると、口を開ける。
飴を押し込むとふにゃふにゃと笑って
「ありがとう」
……初めて聞いた声は鈴を鳴らすようだった。
雨が降る。
世界はスカスカで、海の面積が急に増えたから気候もおかしくなっている。
生き残った人類も僅かで、壊れたままの世界を前に俺たちは途方にくれている。
だけど、俺の手は愛しいひとに繋がっているから、怖くない。
雨は止む。虹がかかる。
//見上げた空には虹
君はひとよりほんの少し我慢が得意で、作り笑いのうまい男の子。
君の心が見えなくて、俺は時々不安になる。
俺が不甲斐ないなら努力するから。
心臓に棘が刺さっているなら俺が抜くから、
鎖で縛られているなら俺がほどくから。
だから、
//我慢しなくていいから
瞼が重くて持ち上がらない。
呻きながら寝返りを打つと、隣からくすくすと笑い声が聞こえた。
なんとか目を開けると俺の顔を覗き込む彼が嬉しそうに笑っている。
「おはよ」
「……おはよう」
大あくびをひとつ。
「疲れが抜けないの年じゃない?」
「な、」
まだ笑っている彼を照れ隠しに引き倒す。
噛み付くように口づけると、昨晩を思い出しぞくりとした。
//今日も寝不足
貴方を閉じ込めてしまおう。
貴方はいつも他人の為に怪我をしてそれを勲章だと笑うから、
餓えも渇きも受け入れるから、
いつか路傍で死なせるくらいなら貴方を閉じ込めてしまおう。
……って、いつも思ってるのに、そんな顔で笑わないで。
//やさしさの檻のなか
さっきから彼が俺の隣で落ち着かない。
そわそわする彼を見上げたら、周囲を見回してから片手を差し出してきた。
「手を、」
大きな手が妙に慎重に伸ばされるのを、こちらから強く握った。
ふっと安心したように笑った彼が、なんだかとても愛しかった。
//「手をつないでもいいですか」
俺の精一杯の背伸びは届かなくて、
困ったように笑うあんたの手を捕まえる事しか出来ない。
「好き」
「駄目だ」
「好き」
「君には未来がある」
「好き」
「俺は君を幸せに出来ない」
「好き」
「それは…錯覚だ」
「好き!」
揺らいだ目、なんでそんなに苦しそうにするの。
//つかまえた本音の端っこ
目を耳を塞いで水底まで沈む俺の声も嘆きもぜんぶ魔女にくれてやる。
貝殻のナイフで心臓を抉り焼けた靴でダンスを踊って父を殺し母を犯してやる。
罪の鎖と罰の重石で浮かび上がれなくなって息を奪われて心臓が動くのを止めたら、
俺はやっとあんたに会えるんだ。
//(もう会えないって、知ってるよ)
英雄は汚れちゃいけないから、俺が代わりに汚れてあげる。
誰も彼もを愛するというなら、俺が代わりに憎んであげる。
どうしても殺したくないなら、俺が代わりに死んであげる。
ねえ、笑って?
俺が代わりに泣いてあげるから。
//引き立てるということ
-190-
「風邪ひいてない?
……うん、俺は平気。
……今日はおでんだったよ、ふふ、いーでしょ。
帰ってきたらロナウドの好きなもの作ってあげるから……ん?
うん……うん……俺も。
……だから、……愛してるよ」
//会えない夜の電話での会話
(ただしもう二度と彼に会えることはない)
知ってるよ。
眼差しの向こうにちらつく誰かの姿、誰かへ呼び掛けようとした唇はIの形。
知ってるよ。
誰を見て誰を呼ぼうとしていたのか。
でももうその人はいないから、いま隣にいるのは俺だから、俺の勝ちだ。
だから、心はあんたにあげる。
……あんたに、あげるよ。
//(そのとなりの席に誰がいたの)
隠し事ばかりがうまくなる。
騙す事に何も感じなくなる。
無邪気な子供のように笑うのも、
潔癖な聖人みたく悪徳を断じるのも、
嫌われたくないから、ただそれだけ。
俺を愛してなんて言わないから、隣にいて。
俺の隣に、いてよ。
お願い。
//とりあえず隣にいてよ
俺はすべての人を守りたかった。
俺は恐れも諦めも知らなくて、
この世界でなら皆で一緒に幸せになれると信じていて、
一番大事なものが俺の手からこぼれ落ちていたことに気付かなかった。
俺の手はすべてを守る手なのに、君だけを守れなかった。
//指先からすり抜けていく
↓
俺はあなたが好きだから、あなたの信じるものを信じたかった。
あなたの愛するものを愛したかった。
でもあなたはいつも俺に背を向けて彼らばかり見ていたから、
俺は彼らを愛せなくて、彼らを救う気にはなれずにただあなたの帰りを待っていた。
薄暗い部屋であなたのことだけを考えて待つ俺の元へ、
入れ替わり立ち替わり友人たちが訪れたが俺はあなただけを待ち続けた。
そのうち誰も来なくなっても待ち続けた。
ある日、やっと、やっとあなたが帰ってきた。
何故か悲しそうな顔をしているあなたに、
おかえり、
と言いながら伸ばした俺の手は半分透けていた。
待ってた。
ずっと待ってたんだよ。
俺があなたを抱き締めても、あなたは何も言わずに涙を流すだけだった。
//(待ってた、ずっと)
↓
……目が覚めると、泣いていた。
夢の内容は思い出せない。
隣で眠る君の顔を見ると何故だか息が苦しくなるくらい安堵して、強く君を抱き寄せた。
目を覚ました君が寝惚けた声で俺の名を呼んですり寄ってくるから、幸せすぎて怖かった。
//ふたりだから、終わらないよ
君たちは理想的な相棒同士だなと言われて、俺は何も言わずに微笑んだ。
相棒。相棒か。
けして視線が交わる事は無く、同じ未来なんて見ている訳もなく、
俺には彼の背中しか見えない関係を相棒と呼ぶなら確かにそうだろう。
俺は彼の愚かさを、危うさを、無垢さを知っていて、
ただ彼の目を塞ぐことに必死なあまり世界の行く末などどうでも良いと思っているクズだ。
その俺が彼と並び立つ英雄で相棒同士だなんて、笑わせる。
彼は何も知らないままで良い。
俺が目隠しをするから、この世界に絶望しないでいて。
ただその無邪気な笑みを、俺に向けられることはない笑みを、失わないでいて。
貴方は英雄。
皆の英雄。
俺はその光に魅せられた哀れなイカロス、
触れる事すら出来ずに落ちるのだ。
//アンバランス、ベストポジション
俺の隣を歩くあんたはただ前を見ている。
人混みの中を歩く為に、行き先を確かめる為には当然なのに、
俺はあんたの目が俺を見ないのが憎らしかった。
だからこっちを見てほしくて、
なんでもいいから俺をその目に写してほしくて、
俺はあんたの手を強く握りしめた。
一瞬身体を強張らせたあんたは、
何も言わず振り返りもせず俺の手を握り返した。き
つく、指を絡めた。
人混みの中に埋もれる俺たちが恋人同士だなんて誰にもわからない。
俺は、あんたの手を離さずに、あんたの熱を感じていた。
なんだか無性にラムネが飲みたくなって、コンビニで売っていた瓶を買った。
ころころと瓶の中で転がるビー玉。
「おっ、懐かしいな」
自然に手を出した彼に瓶を渡すと美味しそうに飲んで、
返ってきた瓶にまた俺が口をつける。
しゅわしゅわと弾ける甘い水が、胃の中を熱くした。
//ソーダ水へダイブ
あんたの目はいつもどこか遠くを見ている。
そのヘーゼルは俺のネイビーを見ている筈なのに、何かの幻を追っている。
「君は純粋で正直で、まるで天使みたいだな」
ああ、あんたには俺の背に翼が見えているんだね。
きっとそれは真っ白で綺麗な翼なんだろうね。
//まっすぐすぎて、わらっちゃうね
-200-
薄暗い館内では、互いの表情さえ目を凝らさないと見えない。
満天の星空が落ちてきそうに見えて、俺はそっと隣に置かれた手に触れてみた。
「……、」
彼は何かを言いかけてからやめて、俺の手を握り込んだ。
大きくてごつごつした手が思ったより熱くて、俺は星空ではなく彼の横顔を盗み見る。
星空を見上げる彼は、僅かに口を開けて、何か眩しいものを見るように瞳を細めていた。
星を写す鳶色の目がとても尊いもののように見えて、俺は見ていられなくなって星空へと視線を移す。
「フェクダ」という言葉が聞こえて思わず彼の手を握り締めたら、彼が内緒話のように潜めた声で俺の名を呼んだ。
顔が近くて、妙に真剣な表情で。
俺の手を一度握り直してから、全部わかってるみたいな風に頷く彼は、
もう一方の手で軽く俺の頭を撫でてからまた星空を見上げた。
俺はなんだかもやもやしながら彼を見て、星空を見て、また彼を見て、こてんとその肩にもたれかかってみる。
なけなしの勇気を振り絞った行動に、彼の身体が強張って、握った手が離れていく。
泣きそうになりながら体勢を戻そうとした俺の、逆側の肩を掴む手。
ぐい、と引き寄せられてすぐ傍から見上げた彼の頬が染まっているかどうかは暗くてわからない。
君は俺に背を向けた。
魔王に寄り添う君は、もう俺の事を振り返りもしない。
俺たちの道が分かたれ二度と交わらないというのなら、この拳で君の間違いを正してでも君を。
もう一度、君の名を呼びたいから。
//もう、名前を呼ぶことさえ出来ないから。
澱んだ水面を眺めてどれくらい経っただろう。
膜がかかったように世界が遠くて、頭の中には粘土が詰まっちゃったみたいだ。
からからに乾いた口を開いても、ひゅうひゅう息が漏れるだけで何も言えはしなかった。
//さぁ、早く別れの言葉を。
君が好きだというこの情熱をどうすればいい?
うまくいく要素なんてまるで無いし、
俺が君に相応しい男だとも思えないが、
この熱量だけは誰にも負けないんだ。
愛してる。
愛してる!
//安っぽい言葉しか出て来ないけれど。
「ロナウドなんか嫌いだ!」
「ム……嘘つきは泥棒の始まりだぞウサミミくん」
「な」
「ウサミミくんは俺のことが好きだろう?」
「なんっ、な、腹立つ……!」
「???」
「……っああもう好きだよばか!!!」
あんたの夢は世界を殺す。
緩慢に、けれど確かに殺す。
正義と大義だけを見るあんたには現実の醜さと綻びが見えず、
道から外れた場所で沈黙する死体の腐臭に気付かない。
ねえ、いっそあんたを殺して、ぜんぶ終わらせようか。
//どうしてわかってくれない
あんたが俺の笑顔が好きだって言ってくれたから、俺はいつだって笑ってきた。
あんたの背中しか見えなくても、
他の人へあんたの手が差し伸べられても、
二度とおかえりが言えなくても、
あんたの声が思い出せなくなっても、
俺は、
//(わらえ、わらうんだ)
君を思うこの気持ちを言葉にするすべを、俺は知らない。
己の信じる正義以外に目もくれず、転んで泥だらけになっても走り続けてきた俺は、
叫ぶ以外にどうすれば君に伝えられるのかわからない。
好きだ、好きだ、好きなんだ!
//胸元でつっかえる言葉
君が結婚すると聞いて、初めて君を特別に思う自分に気付いた。
今まで曖昧な関係を続けてきて、何かを期待する君の態度に気付かないふりをして、その癖いまさら。
……君を手放したくないって、ずっと前から君を好きだったんだって、泣き付く俺をどうか殴ってくれ。
//離したくないって言ったら、怒る?
ばか。ばかばかばか!
枕を殴りながら心の中で悪態を吐く。
あの朴念仁は俺の気持ちになんて気付かず、
わかりやすすぎるくらいのアピールもスルーして、
俺を「相棒」だなんて呼びやがるのだ!
どこの相棒が一緒に寝たがったり、頬にキスしたりするんだよ!
//「ばーか。そろそろ気付け!」
-160-
朝食はパン派だったが、今は君の味噌汁なしじゃ一日が始まらない。
男子たるもの硬派であれと思っていた筈が、今では君を膝に乗せて愛でる時が一番幸せだ。
君に出会って、君を好きになって、俺はどんどん変わっていく。
俺を好きになってくれて、ありがとう。
//変われるしあわせ
「やまないね」
久し振りに会えたのに、突然のどしゃ降り。
公園のあずまやに避難してから十五分、会話も途切れがちになる。
横顔をじっと見られている気がして振り向いたら不意にキスされた。
「雨に隠れて誰にも見えないだろう?」
言い訳する彼に、今度は俺からキスをする。
//雨にかくれてキスしよう
こたつで食べるアイスが格別なのと同じように、
数多いる女性に目もくれず選んだむさ苦しい男は魅力的、だろうか。
こたつでうたた寝しながら鼾をかく恋人に、そっとキスをする俺が物好きなだけかもね。
さて、コンビニでアイスでも買ってこようかな。
//バニラアイスのあまさで
「大丈夫、ここにいれば安全だ。俺が君を守るから」
微笑むあんたは俺の知らない間に変わってしまったみたいだ。
俺は途方にくれるしかなく、あんたは不思議そうに首を傾げた。
「どうした?もうあんな、あんな怖い目にはあわせないからな!」
俺の腕を掴む手が、痛い。
そうして君は東京へ帰ってゆく。
もうここに住めばいいのにという俺のプロポーズを君は毎回受け流す。
どうしたら君は俺のそばにいてくれるだろう。
君の帰るあの街には、たくさんの悪意が溢れているというのに。
こたつを出した。
案の定俺も彼もこたつから離れられなくなった。
でも仕方ないから洗い物をして戻ってきたら、彼が転た寝をしていた。
「こたつで寝たら風邪ひくよ」
むにゃむにゃ言って起きる様子の無い彼に、キスをしたら起きるかな。
何だかジャンクな味が恋しくてコーラを飲んでいた。
乾いた喉に炭酸が心地いい。
「喉乾いたーっ」
汗だくの君が歩いてきたから飲むか?と言ったら、
君はなんだか急に挙動不審になって頭を振った。
遠慮する必要は無いのに。
俺はいつでも君の前では格好いい大人でいたいのに、
君に頼られる男でいたいのに、
綺麗な青い目で見られていると何もかも見透かされそうな気がして。
俺の格好悪い見栄だとか、
子供みたいな虚勢にどうか、気付かないで。
//「みないで。」
雨が降る、俺は喉元まで浸かって溺れそう。
雨が降る、呼ぶ声は誰にも聞こえない。
雨が降る、俺の涙もあんたの血も洗い流される。
雨が降る、雨が降る、まだ雨はやまない。
//雨がやんで、風が過ぎたら、会いにいこう
広い背中だとか、
逞しい腕だとか、
思い出せるのはあんたが誰かの元へ向かう姿ばかりで、
もうあんたの顔もうまく思い出せなくなった。
記憶の中でさえあんたは、俺に笑いかけてはくれないんだ。
俺の名を呼んではくれないんだ。
//走馬灯の中で散りゆく
-170-
両手で口を塞いで誰にも聞こえないように、( )、
胸の中で固まって息ができなくならないように、( )、
届けられない言葉を、届かない言葉を、口を塞いだまま叫ぶ。ああ。
//(すき。すき。)
俺はあんたを抱き締められるけど、同じ手であんたを殺せる。
俺があんたを愛してるって事をあんたですらも知らないけど、
俺があんたを憎んでるって事はきっとあんたも知っている。
俺はあんたが憎くて、だけど、愛しい。
//女の子にはなれないけど
眠る君の顔は年相応に幼くて、俺は自分の罪深さに身がすくむ。
君を愛することが罪で俺が罪人ならば、俺はどの面下げて悪を裁く事が出来るだろう。
君の青春を食い潰し、動物の本能に背を向けて、
それでも君にキスがしたくて俺はそっと手を伸ばした。
//「おやすみ。」
隣にいられるだけでいいって思ってたのに。
すべてに優しくすべてを愛する、あんたの優しさが好きだったのに。
ねえ、あんたに触れられたいって、今はそればかり思うんだ。
その大きな手が、俺を抱いてくれたらって。
その鳶色の目が、俺だけを見てくれたらって。
//ばかみたいに欲張りになってた
縁るべき思想を失った俺はいぎたなく別の思想へと鞍替えし
、しおらしい少年の顔で彼らに受け入れられた。
俺が胸に抱くのはもう居ない少年の苛烈で鮮烈でうつくしい理想だけで、
差し伸べられた手は憎しみの対象でしかなくて、
俺が磨く刃の色を誰も知らない。
//ナイフを持ってることはひみつ
あんたの入れるコーヒーはいつも濃すぎて、
俺は寝起きの喉に無理やりそれを流し込んでは毎回噎せる。
慌ててあんたは俺の背をさするが、
それならちゃんと濃さを改めればいいのにと思いながらも俺は
俺の背を撫でる手があたたかくて心地よくて今日も、やっぱり、口を噤む。
//「おはよ。」
例えば俺の呼吸は何を言うためにあるかとか、
例えば俺の心臓は何のために俺を生かしているかとか、
俺はどうしようもないくらい思い知っていて。
伸ばした指先が、言葉が、誰に触れようとして触れられなくて落ちるのか、
あなただけは気付かないで、
//気付いてほしい
「うさみみくん、ただいま!おみやげだぞ!」
玄関までロナウドを迎えに出た俺は、コンビニの袋を差し出され思わず受け取っていた。
ほんのりあたたかい。
「ピザまんと豚まんがあるぞ、どっちがいい?」
そうだなあ、半分こしよっか。
目が覚めるとあんたの顔、
慌てて起きようとしたらごつんとぶつかった拍子に唇が触れて。
俺はどきどきして息が止まりそうだけど、あんたは面白いくらいに慌ててる。
「すまないそんなつもりは!
熱を計ろうと思ったら君が起きるから慌ててしまって、き、きすなど、
いやこれはキスではないな事故だな!だからお互い気にしないでおこう!」
言い訳をするあんたの唇を塞いで、
「これならキスだよね」
不敵に笑った俺を、神様だって誉めてくれるだろう。
ほんとは握った指が震えてる。
//不慮の事故だからこれはキスじゃない
ただ貴方の隣に寄り添っている。
パジャマの裾を握って、貴方の心音を聞いている。
貴方は熟睡しているのに、俺は眠るのが怖くて目を閉じる事さえ出来ない。
どうしてだろう。
手を離したら貴方が消えてしまいそうで、この安らぎは幻みたいに思えて、眠れないんだ。
//眠れない夜
-180-
名も知らぬ人が死んでいる。
その隣に屈み込んで顔を歪め祈る貴方の背を見ながら、俺は血溜まりをぱしゃぱしゃと踏んだ。
祈りを終えた貴方は俺を見たけれど責めもしない。
俺が貴方の隣にいるのはその思想に同意したからではない事を貴方は知っているけど、
じゃあどうして俺が貴方の隣にいるかを貴方は知らない。
シンプルな、とてもシンプルな理由だって事を知らない。
//紅い水溜り
つぶらな瞳に見上げられて居心地が悪い。
子供の相手の仕方なんてわからなくて、ふと思い出し鞄のポケットから飴を取り出す。
「食べるか?」
ぱっと顔を輝かせた子供に包み紙を剥いてやると、口を開ける。
飴を押し込むとふにゃふにゃと笑って
「ありがとう」
……初めて聞いた声は鈴を鳴らすようだった。
雨が降る。
世界はスカスカで、海の面積が急に増えたから気候もおかしくなっている。
生き残った人類も僅かで、壊れたままの世界を前に俺たちは途方にくれている。
だけど、俺の手は愛しいひとに繋がっているから、怖くない。
雨は止む。虹がかかる。
//見上げた空には虹
君はひとよりほんの少し我慢が得意で、作り笑いのうまい男の子。
君の心が見えなくて、俺は時々不安になる。
俺が不甲斐ないなら努力するから。
心臓に棘が刺さっているなら俺が抜くから、
鎖で縛られているなら俺がほどくから。
だから、
//我慢しなくていいから
瞼が重くて持ち上がらない。
呻きながら寝返りを打つと、隣からくすくすと笑い声が聞こえた。
なんとか目を開けると俺の顔を覗き込む彼が嬉しそうに笑っている。
「おはよ」
「……おはよう」
大あくびをひとつ。
「疲れが抜けないの年じゃない?」
「な、」
まだ笑っている彼を照れ隠しに引き倒す。
噛み付くように口づけると、昨晩を思い出しぞくりとした。
//今日も寝不足
貴方を閉じ込めてしまおう。
貴方はいつも他人の為に怪我をしてそれを勲章だと笑うから、
餓えも渇きも受け入れるから、
いつか路傍で死なせるくらいなら貴方を閉じ込めてしまおう。
……って、いつも思ってるのに、そんな顔で笑わないで。
//やさしさの檻のなか
さっきから彼が俺の隣で落ち着かない。
そわそわする彼を見上げたら、周囲を見回してから片手を差し出してきた。
「手を、」
大きな手が妙に慎重に伸ばされるのを、こちらから強く握った。
ふっと安心したように笑った彼が、なんだかとても愛しかった。
//「手をつないでもいいですか」
俺の精一杯の背伸びは届かなくて、
困ったように笑うあんたの手を捕まえる事しか出来ない。
「好き」
「駄目だ」
「好き」
「君には未来がある」
「好き」
「俺は君を幸せに出来ない」
「好き」
「それは…錯覚だ」
「好き!」
揺らいだ目、なんでそんなに苦しそうにするの。
//つかまえた本音の端っこ
目を耳を塞いで水底まで沈む俺の声も嘆きもぜんぶ魔女にくれてやる。
貝殻のナイフで心臓を抉り焼けた靴でダンスを踊って父を殺し母を犯してやる。
罪の鎖と罰の重石で浮かび上がれなくなって息を奪われて心臓が動くのを止めたら、
俺はやっとあんたに会えるんだ。
//(もう会えないって、知ってるよ)
英雄は汚れちゃいけないから、俺が代わりに汚れてあげる。
誰も彼もを愛するというなら、俺が代わりに憎んであげる。
どうしても殺したくないなら、俺が代わりに死んであげる。
ねえ、笑って?
俺が代わりに泣いてあげるから。
//引き立てるということ
-190-
「風邪ひいてない?
……うん、俺は平気。
……今日はおでんだったよ、ふふ、いーでしょ。
帰ってきたらロナウドの好きなもの作ってあげるから……ん?
うん……うん……俺も。
……だから、……愛してるよ」
//会えない夜の電話での会話
(ただしもう二度と彼に会えることはない)
知ってるよ。
眼差しの向こうにちらつく誰かの姿、誰かへ呼び掛けようとした唇はIの形。
知ってるよ。
誰を見て誰を呼ぼうとしていたのか。
でももうその人はいないから、いま隣にいるのは俺だから、俺の勝ちだ。
だから、心はあんたにあげる。
……あんたに、あげるよ。
//(そのとなりの席に誰がいたの)
隠し事ばかりがうまくなる。
騙す事に何も感じなくなる。
無邪気な子供のように笑うのも、
潔癖な聖人みたく悪徳を断じるのも、
嫌われたくないから、ただそれだけ。
俺を愛してなんて言わないから、隣にいて。
俺の隣に、いてよ。
お願い。
//とりあえず隣にいてよ
俺はすべての人を守りたかった。
俺は恐れも諦めも知らなくて、
この世界でなら皆で一緒に幸せになれると信じていて、
一番大事なものが俺の手からこぼれ落ちていたことに気付かなかった。
俺の手はすべてを守る手なのに、君だけを守れなかった。
//指先からすり抜けていく
↓
俺はあなたが好きだから、あなたの信じるものを信じたかった。
あなたの愛するものを愛したかった。
でもあなたはいつも俺に背を向けて彼らばかり見ていたから、
俺は彼らを愛せなくて、彼らを救う気にはなれずにただあなたの帰りを待っていた。
薄暗い部屋であなたのことだけを考えて待つ俺の元へ、
入れ替わり立ち替わり友人たちが訪れたが俺はあなただけを待ち続けた。
そのうち誰も来なくなっても待ち続けた。
ある日、やっと、やっとあなたが帰ってきた。
何故か悲しそうな顔をしているあなたに、
おかえり、
と言いながら伸ばした俺の手は半分透けていた。
待ってた。
ずっと待ってたんだよ。
俺があなたを抱き締めても、あなたは何も言わずに涙を流すだけだった。
//(待ってた、ずっと)
↓
……目が覚めると、泣いていた。
夢の内容は思い出せない。
隣で眠る君の顔を見ると何故だか息が苦しくなるくらい安堵して、強く君を抱き寄せた。
目を覚ました君が寝惚けた声で俺の名を呼んですり寄ってくるから、幸せすぎて怖かった。
//ふたりだから、終わらないよ
君たちは理想的な相棒同士だなと言われて、俺は何も言わずに微笑んだ。
相棒。相棒か。
けして視線が交わる事は無く、同じ未来なんて見ている訳もなく、
俺には彼の背中しか見えない関係を相棒と呼ぶなら確かにそうだろう。
俺は彼の愚かさを、危うさを、無垢さを知っていて、
ただ彼の目を塞ぐことに必死なあまり世界の行く末などどうでも良いと思っているクズだ。
その俺が彼と並び立つ英雄で相棒同士だなんて、笑わせる。
彼は何も知らないままで良い。
俺が目隠しをするから、この世界に絶望しないでいて。
ただその無邪気な笑みを、俺に向けられることはない笑みを、失わないでいて。
貴方は英雄。
皆の英雄。
俺はその光に魅せられた哀れなイカロス、
触れる事すら出来ずに落ちるのだ。
//アンバランス、ベストポジション
俺の隣を歩くあんたはただ前を見ている。
人混みの中を歩く為に、行き先を確かめる為には当然なのに、
俺はあんたの目が俺を見ないのが憎らしかった。
だからこっちを見てほしくて、
なんでもいいから俺をその目に写してほしくて、
俺はあんたの手を強く握りしめた。
一瞬身体を強張らせたあんたは、
何も言わず振り返りもせず俺の手を握り返した。き
つく、指を絡めた。
人混みの中に埋もれる俺たちが恋人同士だなんて誰にもわからない。
俺は、あんたの手を離さずに、あんたの熱を感じていた。
なんだか無性にラムネが飲みたくなって、コンビニで売っていた瓶を買った。
ころころと瓶の中で転がるビー玉。
「おっ、懐かしいな」
自然に手を出した彼に瓶を渡すと美味しそうに飲んで、
返ってきた瓶にまた俺が口をつける。
しゅわしゅわと弾ける甘い水が、胃の中を熱くした。
//ソーダ水へダイブ
あんたの目はいつもどこか遠くを見ている。
そのヘーゼルは俺のネイビーを見ている筈なのに、何かの幻を追っている。
「君は純粋で正直で、まるで天使みたいだな」
ああ、あんたには俺の背に翼が見えているんだね。
きっとそれは真っ白で綺麗な翼なんだろうね。
//まっすぐすぎて、わらっちゃうね
-200-
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