Posted by 新矢晋 - 2013.03.14,Thu
ホワイトデーロナ主。ナチュラルに同棲中。
一応バレンタインデー話を踏まえてますが、特に読まなくても問題ないです。
一応バレンタインデー話を踏まえてますが、特に読まなくても問題ないです。
O amor e cego.
その少年は当然三月十四日が何の祭典か知っていたし、その日に自分が何をするべきかもわかっていた。
つまりは、二月十四日に愛しい恋人から貰った贈り物の返礼、いわゆる「三倍返し」だ。
少年は自分の恋人の性格についてかなりの精度で把握していたが、だからこそ頭を抱えていた。欲が無く、真面目で、きっと何をあげても喜ぶだろう彼に一体何を贈るべきか。
他者の機微を感じ取るのに優れ、いつ笑い泣き怒るかも相手に合わせて適時選択出来るほどの演者でありながら、少年はたった一人の恋人を喜ばせる術さえわからなかったのだ。
少年は憂鬱げな眼差しでくるくるとシャープペンシルを回しながら講義を受けていた。教授がリンゴのイデアについて話しているのを聞き流し、ノートの隅に落書きをする。
ウサギの顔とリンゴが三つ並んだところで鐘が鳴り、ぱらぱらと帰ってゆく生徒たちと同じように少年も席を立つ。迷うような足取りで教室を出た少年へ、別の講義を受けていた幼馴染みの志島大地が歩み寄り声をかけた。
「お疲れちゃん。今日確かこれで終わりだよな?飯食いにいかね?」
なんか今日お好み焼き食いてー、と腹に手を当てた幼馴染みに少年は申し訳なさそうに頭を振る。
「ごめん、ちょっと厄介ごと抱えててさ……」
「へっ、何それ俺聞いてないし!水臭いじゃん、何かあったの?」
んー、と迷うような声を洩らした少年は幼馴染みの耳元に唇を寄せて囁く。あー、と納得した大地は苦笑した。
「恋人へのプレゼントに悩むとか、お前もフツーの青少年だったんだなあ」
うんうんと腕組みをして頷く幼馴染みを眺めて頭をかいた少年は、
「当たり前だろ。……で、何か案無いの」
藁にもすがる思いで尋ねた。
幼馴染みを見詰める少年の眼差しは切実で、大地は真剣に考えてやろうとしたがロナウドについて一番わかっているのは目の前の少年だ。なんとかかんとか絞り出したアイデアは、なんというか、とても残念だった。
「そんなのあれじゃん、『俺がプレゼント』ってやれば一発なんじゃないの?」
「……大地に相談した俺が馬鹿だった」
「酷くね?!」
「ヤるのはいつだって出来るし、ていうかちょっと困るくらいヤられてるし!」
「お前らの夜事情とか知りたくなかったよ!」
ぎゃあぎゃあと言い争う自分たちを通りすがりの生徒たちがうろんげに眺めていくのに気付いて、少年はひとつ咳払いをする。
「とにかく!今日中に目星つけておきたいから、今日は無理」
じゃあなと手を上げ立ち去る少年に、その幼馴染みは笑いながら頑張れよと手を振った。
──少しして。
ショッピングモールをあてもなく歩く少年がいた。服屋、雑貨屋、色々回ってもいまいちピンと来ない。ネタでヴィレヴァンに入ってみてもやはりいまいちで、少年はジュース片手にベンチへ腰掛け溜め息を吐いた。
そんな少年の視界にアクセサリー屋が入る。ロナウドはアクセサリーなんて身につけそうにないが一応見てみるか、と覗いたその店で少年は気になる品を発見した。
それはシンプルなシルバーの指輪だった。波とイルカモチーフのデザインが美しく、男女問わず使えそうだ。更に、もうひとつの指輪と組み合わせるとその曲線がハートの形を浮かび上がらせるというペアリングでもあった。
ペアリングだなんて「お返し」には重すぎる。だが少年はその指輪に一目惚れしてしまっていて、……何より彼との愛情の証になりそうな気がして、購入を決意していた。
確認した値段は少年にとってはかなり背伸びした価格だったが、いらないゲームソフトやなんかを処分したり、いざという時の為のへそくりを出してくればなんとか手が届きそうだった。
その晩、眠る恋人の指にそっとリボンを巻き付けサイズを確認し、次の日に大金──学生にとっては──を握り締めて店へと向かった少年は無事に指輪を注文し、事前に考えていた刻印も指定して緊張しながらその日を待った。
仕上がりはホワイトデー当日というギリギリのタイミング。大学終わりに店へ寄って指輪を受け取り、足取りも軽く帰宅した少年を恋人は温かく出迎えた。
「お帰り、湖宵くん」
「ただいま」
珍しく今日はロナウドが早帰りで、夕食も彼の担当だ。ソファーに腰掛け美味しそうな匂いを嗅ぎながら、少年は指輪を渡すタイミングを考えていた。
出来上がった夕食を二人で食べながら、今日あった事なんかを話す。ロナウドの料理には繊細さは無いが味は良く、少年は滅多に食べられない恋人の手料理を堪能しおかわりまでしてしまった。
──少年は、この不器用で嘘の下手な年かさの恋人がとても好きだ。男同士でも、年の差があっても、そんなものは障害にならないと信じている。
少年にじっと見詰められたロナウドは、ぱちくりと瞬きをすると柔らかく笑う。
「どうした?」
見慣れている顔でも少年がどきりとしてしまうのは、やはりラテンの血を引いているが故の彫り深い顔が贔屓目を抜いたとしても端正で、照れも無く見詰めてくる鳶色の目の真っ直ぐさが眩しいから。
少年よりも一回り近く年上なのに無邪気なくらい真っ直ぐで、少し無神経だが全力で愛してくれるこの恋人のことが少年はとても愛しかった。
愛しくて愛しくて仕方ないからこそ贈り物に迷い、財布をはたいて背伸びしてまであの指輪を買ったのだ。
「ロナウドあのさ、今日ホワイトデーでしょ?……バレンタインのお返し用意したから、受け取ってくれないかな」
「えっ……そんな、気を使ってくれなくてもいいんだぞ、俺はあんな……」
眉を下げるロナウドを見て、少年は頭を振る。
「俺があげたいからいいの。ちょっと待ってて」
席を立ち、鞄の中から紙袋を取り出し戻ってきた少年は、立ったまま少し照れ臭そうにロナウドへとそれを差し出した。
笑顔でそれを受け取り紙袋の中を確認したロナウドは、不思議そうな顔で中から化粧箱……小さな四角形の、明らかに指輪の類いが入っていそうなそれを取り出した。
「湖宵くん、これは……?誰かへのプレゼントと間違えていないか?」
少年は眉を上げ頬を膨らませると、険のある声を出す。
「俺に、ロナウド以外にそんな相手がいると思ってるんだ?」
「い、いや、そういうわけじゃないが……」
慌てて頭を振るロナウドを見て、それから溜め息を吐いた少年は、もうひとつの箱の中から指輪を取り出し自らの指にはめてみせた。
「それ、……ペアリングなんだ。これとペアで……だから、ロナウドにつけてほしくて、俺」
「ペアリング……?!」
ロナウドは驚愕した様子で、少年の指に光る指輪と手元のそれを見比べた。やはり重すぎたかと俯きかけた少年は、だが次の瞬間ロナウドに抱きすくめられていた。
「湖宵くん……!嬉しいよ、君はそんなにも俺の事を真剣に……くっ、ここが日本でなければ今すぐにでもっ」
「へ、な、何が?」
思いの外感極まったような反応に戸惑う少年の頬へ唇を押し付けてから、ロナウドは熱を帯びた目で、興奮のあまり震える声で、
「だってペアリングだなんて、婚約指輪みたいなものだろう?!肌身離さず身に付けるぞ、ありがとう!」
驚くほど重く指輪の意味を解釈していた。
いそいそと指輪を箱から取り出しはめようとしたロナウドは、その内側に何か文字が刻印されている事に気付き目を細めた。
──Te amo.
見慣れないスペルをロナウドは解読出来ず、少年に視線で問うと恥ずかしげな囁き声が返ってくる。
「チ アーモ……ブラジルの言葉で、愛してる、って意味」
ロナウドのもうひとつのルーツ。彼自身は行ったことが無いとしても、大切な場所であることには違いない。いつか二人でそこへ行きたいと願う少年は、指輪に託す思いをその国で使われる言葉で記した。
「Te amo …… Te amo. Voce e uma 、 pessoa mais que …… especial para mim.」
少したどたどしく異国の言葉を口にする少年が、以前から独学でポルトガル語を学んでいることをロナウドは知らない。勿論ポルトガル語を聞いても意味はわからない。
だが甘く響く言葉にこめられたものが何かは、少年の目を見ればわかった。
「湖宵くん……俺も愛している、君を、君だけを愛している……」
指輪を指に通してから、ロナウドは少年をしっかりと抱き締めた。
「……俺はたいしたものをあげられなかったのに、こんなに嬉しくていいんだろうか」
耳元で呟かれる言葉と耳朶をくすぐる吐息にくすくすと笑った少年は、両腕をロナウドの首に巻き付けて目を細めた。
「いいんだよ、俺がロナウドにあげたかったんだし、俺がロナウドを喜ばせたかったんだから」
「……、ありがとう」
そっと少年に口付けたその唇は少しかさついていて、でもその無骨さが少年にはいとおしかった。
──そして情熱的な一夜をすごした次の朝。
少し早めに目覚めた少年は、隣で眠る恋人の横顔を眺めて幸せそうに微笑んだ。
幸せで、幸せで、怖いくらい。
指で頬をつついてみるとロナウドはうっすらと目を開き、少年へと顔を向けて笑った。
「おはよう、湖宵くん……あと十五分……」
大あくびをしながら少年に手を伸ばし抱き寄せたロナウドは、またうとうとと微睡み始める。そんな恋人の体温と、鼓動さえ愛しくて、少年もまた目を閉じた。
──Te amo.
俺のただ一人愛しいひと。
《終》
その少年は当然三月十四日が何の祭典か知っていたし、その日に自分が何をするべきかもわかっていた。
つまりは、二月十四日に愛しい恋人から貰った贈り物の返礼、いわゆる「三倍返し」だ。
少年は自分の恋人の性格についてかなりの精度で把握していたが、だからこそ頭を抱えていた。欲が無く、真面目で、きっと何をあげても喜ぶだろう彼に一体何を贈るべきか。
他者の機微を感じ取るのに優れ、いつ笑い泣き怒るかも相手に合わせて適時選択出来るほどの演者でありながら、少年はたった一人の恋人を喜ばせる術さえわからなかったのだ。
少年は憂鬱げな眼差しでくるくるとシャープペンシルを回しながら講義を受けていた。教授がリンゴのイデアについて話しているのを聞き流し、ノートの隅に落書きをする。
ウサギの顔とリンゴが三つ並んだところで鐘が鳴り、ぱらぱらと帰ってゆく生徒たちと同じように少年も席を立つ。迷うような足取りで教室を出た少年へ、別の講義を受けていた幼馴染みの志島大地が歩み寄り声をかけた。
「お疲れちゃん。今日確かこれで終わりだよな?飯食いにいかね?」
なんか今日お好み焼き食いてー、と腹に手を当てた幼馴染みに少年は申し訳なさそうに頭を振る。
「ごめん、ちょっと厄介ごと抱えててさ……」
「へっ、何それ俺聞いてないし!水臭いじゃん、何かあったの?」
んー、と迷うような声を洩らした少年は幼馴染みの耳元に唇を寄せて囁く。あー、と納得した大地は苦笑した。
「恋人へのプレゼントに悩むとか、お前もフツーの青少年だったんだなあ」
うんうんと腕組みをして頷く幼馴染みを眺めて頭をかいた少年は、
「当たり前だろ。……で、何か案無いの」
藁にもすがる思いで尋ねた。
幼馴染みを見詰める少年の眼差しは切実で、大地は真剣に考えてやろうとしたがロナウドについて一番わかっているのは目の前の少年だ。なんとかかんとか絞り出したアイデアは、なんというか、とても残念だった。
「そんなのあれじゃん、『俺がプレゼント』ってやれば一発なんじゃないの?」
「……大地に相談した俺が馬鹿だった」
「酷くね?!」
「ヤるのはいつだって出来るし、ていうかちょっと困るくらいヤられてるし!」
「お前らの夜事情とか知りたくなかったよ!」
ぎゃあぎゃあと言い争う自分たちを通りすがりの生徒たちがうろんげに眺めていくのに気付いて、少年はひとつ咳払いをする。
「とにかく!今日中に目星つけておきたいから、今日は無理」
じゃあなと手を上げ立ち去る少年に、その幼馴染みは笑いながら頑張れよと手を振った。
──少しして。
ショッピングモールをあてもなく歩く少年がいた。服屋、雑貨屋、色々回ってもいまいちピンと来ない。ネタでヴィレヴァンに入ってみてもやはりいまいちで、少年はジュース片手にベンチへ腰掛け溜め息を吐いた。
そんな少年の視界にアクセサリー屋が入る。ロナウドはアクセサリーなんて身につけそうにないが一応見てみるか、と覗いたその店で少年は気になる品を発見した。
それはシンプルなシルバーの指輪だった。波とイルカモチーフのデザインが美しく、男女問わず使えそうだ。更に、もうひとつの指輪と組み合わせるとその曲線がハートの形を浮かび上がらせるというペアリングでもあった。
ペアリングだなんて「お返し」には重すぎる。だが少年はその指輪に一目惚れしてしまっていて、……何より彼との愛情の証になりそうな気がして、購入を決意していた。
確認した値段は少年にとってはかなり背伸びした価格だったが、いらないゲームソフトやなんかを処分したり、いざという時の為のへそくりを出してくればなんとか手が届きそうだった。
その晩、眠る恋人の指にそっとリボンを巻き付けサイズを確認し、次の日に大金──学生にとっては──を握り締めて店へと向かった少年は無事に指輪を注文し、事前に考えていた刻印も指定して緊張しながらその日を待った。
仕上がりはホワイトデー当日というギリギリのタイミング。大学終わりに店へ寄って指輪を受け取り、足取りも軽く帰宅した少年を恋人は温かく出迎えた。
「お帰り、湖宵くん」
「ただいま」
珍しく今日はロナウドが早帰りで、夕食も彼の担当だ。ソファーに腰掛け美味しそうな匂いを嗅ぎながら、少年は指輪を渡すタイミングを考えていた。
出来上がった夕食を二人で食べながら、今日あった事なんかを話す。ロナウドの料理には繊細さは無いが味は良く、少年は滅多に食べられない恋人の手料理を堪能しおかわりまでしてしまった。
──少年は、この不器用で嘘の下手な年かさの恋人がとても好きだ。男同士でも、年の差があっても、そんなものは障害にならないと信じている。
少年にじっと見詰められたロナウドは、ぱちくりと瞬きをすると柔らかく笑う。
「どうした?」
見慣れている顔でも少年がどきりとしてしまうのは、やはりラテンの血を引いているが故の彫り深い顔が贔屓目を抜いたとしても端正で、照れも無く見詰めてくる鳶色の目の真っ直ぐさが眩しいから。
少年よりも一回り近く年上なのに無邪気なくらい真っ直ぐで、少し無神経だが全力で愛してくれるこの恋人のことが少年はとても愛しかった。
愛しくて愛しくて仕方ないからこそ贈り物に迷い、財布をはたいて背伸びしてまであの指輪を買ったのだ。
「ロナウドあのさ、今日ホワイトデーでしょ?……バレンタインのお返し用意したから、受け取ってくれないかな」
「えっ……そんな、気を使ってくれなくてもいいんだぞ、俺はあんな……」
眉を下げるロナウドを見て、少年は頭を振る。
「俺があげたいからいいの。ちょっと待ってて」
席を立ち、鞄の中から紙袋を取り出し戻ってきた少年は、立ったまま少し照れ臭そうにロナウドへとそれを差し出した。
笑顔でそれを受け取り紙袋の中を確認したロナウドは、不思議そうな顔で中から化粧箱……小さな四角形の、明らかに指輪の類いが入っていそうなそれを取り出した。
「湖宵くん、これは……?誰かへのプレゼントと間違えていないか?」
少年は眉を上げ頬を膨らませると、険のある声を出す。
「俺に、ロナウド以外にそんな相手がいると思ってるんだ?」
「い、いや、そういうわけじゃないが……」
慌てて頭を振るロナウドを見て、それから溜め息を吐いた少年は、もうひとつの箱の中から指輪を取り出し自らの指にはめてみせた。
「それ、……ペアリングなんだ。これとペアで……だから、ロナウドにつけてほしくて、俺」
「ペアリング……?!」
ロナウドは驚愕した様子で、少年の指に光る指輪と手元のそれを見比べた。やはり重すぎたかと俯きかけた少年は、だが次の瞬間ロナウドに抱きすくめられていた。
「湖宵くん……!嬉しいよ、君はそんなにも俺の事を真剣に……くっ、ここが日本でなければ今すぐにでもっ」
「へ、な、何が?」
思いの外感極まったような反応に戸惑う少年の頬へ唇を押し付けてから、ロナウドは熱を帯びた目で、興奮のあまり震える声で、
「だってペアリングだなんて、婚約指輪みたいなものだろう?!肌身離さず身に付けるぞ、ありがとう!」
驚くほど重く指輪の意味を解釈していた。
いそいそと指輪を箱から取り出しはめようとしたロナウドは、その内側に何か文字が刻印されている事に気付き目を細めた。
──Te amo.
見慣れないスペルをロナウドは解読出来ず、少年に視線で問うと恥ずかしげな囁き声が返ってくる。
「チ アーモ……ブラジルの言葉で、愛してる、って意味」
ロナウドのもうひとつのルーツ。彼自身は行ったことが無いとしても、大切な場所であることには違いない。いつか二人でそこへ行きたいと願う少年は、指輪に託す思いをその国で使われる言葉で記した。
「Te amo …… Te amo. Voce e uma 、 pessoa mais que …… especial para mim.」
少したどたどしく異国の言葉を口にする少年が、以前から独学でポルトガル語を学んでいることをロナウドは知らない。勿論ポルトガル語を聞いても意味はわからない。
だが甘く響く言葉にこめられたものが何かは、少年の目を見ればわかった。
「湖宵くん……俺も愛している、君を、君だけを愛している……」
指輪を指に通してから、ロナウドは少年をしっかりと抱き締めた。
「……俺はたいしたものをあげられなかったのに、こんなに嬉しくていいんだろうか」
耳元で呟かれる言葉と耳朶をくすぐる吐息にくすくすと笑った少年は、両腕をロナウドの首に巻き付けて目を細めた。
「いいんだよ、俺がロナウドにあげたかったんだし、俺がロナウドを喜ばせたかったんだから」
「……、ありがとう」
そっと少年に口付けたその唇は少しかさついていて、でもその無骨さが少年にはいとおしかった。
──そして情熱的な一夜をすごした次の朝。
少し早めに目覚めた少年は、隣で眠る恋人の横顔を眺めて幸せそうに微笑んだ。
幸せで、幸せで、怖いくらい。
指で頬をつついてみるとロナウドはうっすらと目を開き、少年へと顔を向けて笑った。
「おはよう、湖宵くん……あと十五分……」
大あくびをしながら少年に手を伸ばし抱き寄せたロナウドは、またうとうとと微睡み始める。そんな恋人の体温と、鼓動さえ愛しくて、少年もまた目を閉じた。
──Te amo.
俺のただ一人愛しいひと。
《終》
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