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Posted by 新矢晋 - 2013.03.02,Sat
誕生日祝いに書きました!が!大惨事だよ!
だってロナウド殺せって言われたから……。

明日の君は、


「……そろそろ親父に会いに行かないとな」
 夕食の後片付けも終わり、二人並んでソファーに腰掛けテレビを見ながらくつろいでいる時に、ロナウドがぽつりと呟いた。
 隣を見上げると真剣な顔が俺に向いていて、お腹の下あたりがひゅっとなる。
「親父は頭が堅いから、君に酷い事を言うかもしれない。だが、時間をかけて話せばきっとわかってくれる筈だから……親父と、会ってくれないか」
 ロナウドは家族の話をあまりしてくれなくて、俺もなんだか訊きづらくて、そのロナウドがそんな話をした事に俺は戸惑うと同時に嬉しかった。
 俺たちは男同士で、俺はそれをおかしいとは思わないけど、ロナウドは気にしてると思っていた。友人たちは幸い理解し祝福してくれたし、俺の親にもカミングアウトはしたけど、ロナウドにそれを薦めることは出来なかった。
 ……怖かった。どうしても、怖かった。
「ロナウド、俺、会いたい。ちゃんと話して、ロナウドのお父さんにもわかってほしい」
「……ああ。そうだな!」
 ロナウドの大きな手が俺の髪をわしわしと撫でる。怖いような嬉しいようなよくわからない熱がぐるぐると俺の中で暴れていて、俺は何も言えずにロナウドに抱き付いた。


 次にロナウドがまとまった休みを取れたらお父さんに会いに行こう、と決めてから数日が経った。
 俺は料理番組を見ながら、今度これロナウドに作ってあげようと思ってメモをとっていた。ら、アラーム音。テレビ画面の丈夫にニュース速報が流れる。
 ──「名古屋市・民家立て籠り事件、警官隊の突入により犯人の男を確保」。へえ、と読み流してまた調理手順に注目すると、視界の端にまた文字が流れる。「人質の女性は軽傷。また警察官一名が負傷、一名が殉職」。
「……殉職?」
 死者が出たのか。どきりと心臓が揺れたのは、違う、俺の考えすぎだ。ロナウドはけろっとした顔で帰ってくる筈だから、俺はこのレシピをメモしないと。
 突然、電話が鳴った。
 飛び上がるようにして立ち上がった俺は、恐る恐る受話器を持ち上げ耳に押し当てる。
「もしもし、どちら様ですか……」
 ……それから後の事は、飛び飛びにしか覚えていない。

 青ざめた顔。
 冷たい手。
 返事はない。
 返事は、ない。

 白い花。
 灰に触れる。
 伽羅のにおい。
 囁く声。
 嫌悪。
 軽蔑。
 無理解。
 悲しい。
 とても、悲しい。

 ……そのひとはロナウドの父親だと名乗った。ロナウドに似た目をした、背の高いひとだった。
 でもそのひとはロナウドが死んだ事を悲しんでいるようには見えず、ただ淡々と喪主としての務めを果たしていた。
 俺はそのひとにロナウドとの関係を問いただされ、正直にすべてを話した。当たり障りのない嘘や誤魔化しを作る余裕は、その時の俺には無かった。
 ……その時の相手の表情を、多分俺は忘れられない。明確な、強烈な拒絶と嫌悪。
 早々に会話を切り上げ立ち去ろうとするそのひとに、でも俺は訊かなければならないことがあった。
「あのっ、あの、ロナウド……栗木さんは、どちらのお墓に……っ、俺、」
 口を開けば溢れそうになる涙をハンドタオルで押さえながら追い縋る俺を、振り返ったそのひとの目はひどく冷たい。
「墓参りにでも来る気なら、やめてくれないか。……うちにはもう関わらないでほしい」
 何を言われているのか、混乱した俺は黙ってそのひとを見上げた。彼は困ったような、だが確かに侮蔑の色を乗せた目で俺を見ていた。
「家を飛び出した息子が、未成年の少年と不適切な関係にあったなんて……わかるだろう、世間体どころの騒ぎじゃあない」
 不適切。世間体。ロナウドは、えっ、俺と二人笑いあって暮らしていたロナウドは、えっ?
「……君も、あれの事は忘れて真っ当な生活に戻りたまえ」
 にべもなく言い放ち踵を返したそのひとを追おうとして、足に力が入らず床に座り込む。慌てて友人たちが引っぱり起こしてくれたが、心配そうな顔をしている彼らが何を言っているかすら頭に入ってこない。
 ああ、俺は、ロナウドのパートナーであることすら認められない、不道徳で穢らわしい存在なんだ。俺とロナウドの関係はおおっぴらにするようなものじゃなく、肉親にさえ理解してもらえないんだ。
 ロナウド。ロナウド。声が聞きたいよ、俺たちは間違ってないって言って、俺を抱き締めて。


 ──もう半月は引きこもっている気がする。
 世界はいつも薄暗くて灰色で、息をするのすら億劫なのに俺はまだ生きている。
 のろのろと冷蔵庫に向かって、この間大地が差し入れてくれたペットボトルのコーラをらっぱ飲みした。少し床に零れたが、放っておいてまたソファーへ向かい毛布にくるまった。
 ……目を閉じれば何も見えない。何も見えないんだから何があったっておかしくない。何があったっておかしくないんだから、だから……ロナウドがいたって、おかしくない筈なのに。
 拭う気にすらなれない涙を流れるままに意識を閉じて眠ろうとしたら、遠くでインターホンのチャイムが鳴った気がした。無視して体を丸めたら、凄い勢いで連打される。
 仕方がないから玄関まで行って扉を開けると、そこに立っていたのは幼馴染みの大地。大地は俺の顔を見るとぎょっとした様子で、でも遠慮なく室内へ入ってきた。
「うわっ……空気やばいじゃん、換気してないだろ?」
 閉めっぱなしだったカーテンを開け、窓を開いてから振り返った大地は呆れたように腰に手を当てた。
「お前、風呂も入ってないだろ?ほれこっち来い!」
 大地は顰めっ面のまま俺を風呂場まで引き摺っていって、自分はパンツ一丁俺を全裸にしてシャワーの蛇口を捻った。
「あーあー髪がガッチガチじゃんか」
 熱めの湯を俺の頭からかけながら、髪をほぐしてゆく指が気持ちいい。深く溜め息を吐いた俺の頭を優しく撫でてから、今度はシャンプーを泡立てていく。
 大地は何も言わない。俺も何も言わない。
 あぐらをかいて少し俯いて、顔を伝う滴と大地の指だけ感じている。熱いシャワーでシャンプーを洗い流されると頭が軽くなったような気さえして、ほとりと溜め息がこぼれた。
「ほれ、体は自分で洗えるな?食いもん用意しとくから」
 スポンジを渡されて俺は頷いた。さっきまでは手足を持ち上げるのすら億劫だったけど、熱い湯で少し意識がはっきりしてきていた。
 体を洗って風呂からあがると、机の上に積み上がっていたゴミが端に寄せられて、コンビニのおにぎりやら弁当が置かれていた。
「食えそうなのだけでも食えよ、プリンとかアイスもあるぞ」
「……ん」
 もそもそとツナマヨおにぎりを食べ始めた俺を、大地は何を言うでもなく頬杖をついて眺めている。俺がペットボトルのお茶を飲んで人心地ついてから、そっと口を開いた。
「落ち込むなとは言わないけどさ、食事とか生活くらいはちゃんとしろよ。体壊すぞ?」
 黙っている俺を見ている大地の目が見られない。
「この家だって出なきゃいけないんだし、とりあえず俺んとこ来いって。な、その方がいいって」
「大地」
 唇が震える。視界が滲む。自分で自分の感情がコントロール出来なくて、理性なんてどっかに家出して、まだ湿った髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
「大地、おれ……俺たちが愛し合ってたのは、いけない事なんかじゃ、穢らわしい事なんかじゃないよな?」
 大地が息を止めたのがわかった。ぽたぽたとテーブルに水滴が落ちる。
「俺、……ロナウドが好きなんだ、世界でいちばん、ロナウドが好きだったんだ……!」
 しゃくりあげ、えづき始めた俺に手を伸ばして頭を撫でる大地は、優しい声で俺に語りかけるから余計に涙が止まらない。
「大丈夫、お前らは普通の恋人と何も変わらないよ。俺は男同士とかよくわかんないけど、お前らがちゃんと好きあってるのは見ててわかったもん」
 タオルで俺の顔を拭いて、鼻をつまんでふがふが言わせてから笑う大地は、
「無理にさ、忘れなくてもいいじゃん。好きなもの、急に嫌いになったり出来ないだろ」
 そそくさと立ち上がり、アイス食べようぜ、と冷蔵庫に向かうあたり少し照れているようだった。
 ……それから大地はある程度掃除を終えると帰ってしまい、少しだけこの世界で息継ぎの出来た俺は久し振りに寝室で寝る事にした。
 ベッドに入ろうとスリッパを脱いだ俺は、ふと空気の流れを感じて顔を上げた。窓は閉まっている。首を捻りながら窓へ向かおうとすると、突然カーテンがばさばさと翻った。……窓は、閉まっている。
「……ロナウド?」
 何故かその名を呼んでいた。俺は幽霊なんて信じていないけど、悪魔がいるなら幽霊がいたっておかしくないし、四十九日が終わるまで亡くなったひとは地上にいるって聞いたことがある。
「ロナウド、いるの?」
 俺には何も見えないし何も聞こえない。手を伸ばしても何も感じない。カーテンは風も無いのにまだ揺れている。
「ロナウド、俺、まだロナウドを好きでいていいよね?……俺たち、不健全な関係なんかじゃなくて、ちゃんと恋人だったよね……?」
 視界が滲む。泣いてばかりの俺をロナウドはどう思うだろう。手で涙を拭おうとした俺は、息を止めた。
 滲んで揺れる視界に、翻るカーテンの隙間から見える、背の高い影。顔は判別出来ないが、口元は辛うじて見える。何度も何度も繰り返し、同じ形に唇が動いている。
 ──ア・イ・シ・テ・ル。
 そう見えたのは俺の願望かもしれない。ただの幻覚かもしれない。
「俺も、俺も愛してる、愛してる……!」
 でも、顔を覆い座り込んだ俺の頭に触れた掌の感触は、気のせいなんかじゃないって信じたかった。


 ──大きな肩掛け鞄と、小さなキャリーバッグひとつ。
 俺とロナウドの部屋は、もう俺とロナウドの部屋じゃないから、ここから出ていかなきゃならない。次の部屋が見つかるまでは大地の世話になることになってるから、本当に幼馴染み様々だ。
 がらんとした部屋を見回す。一緒に選んだソファーには、よく並んで座ってテレビを見たっけ。背もたれが壊れた椅子から転がり落ちたロナウドが照れ隠しに笑ったの、昨日のことみたいに思い出せる。
 ぐす、と鼻を啜ってから玄関へ向かう。外へ出て鍵をかけて、小さな銀色の鍵を見詰める。真面目な顔で、でも頬を染めて、この鍵を俺に渡してくれたロナウド。
 レターボックスへ鍵を入れて立ち去ろうとして、表札を見上げる。二つの名字が書かれた紙を回収して、丸めようとして出来なくてポケットに入れる。
 息を吐いて、改めて踵を返した俺のすぐ横を風が通りすぎた。
 ──いってらっしゃい。
 低く優しい声に、苦く笑う。
「……いってきます」
 今はまだ、さよならは言えないけど。いつかちゃんと言える日が来たら、ちゃんとお別れするから、今はまだ。

 ……今はまだ、もう少しだけ、貴方を愛しています。


《終》

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