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Posted by 新矢晋 - 2013.02.20,Wed
バレンタインだよ!
特に脈絡などなく同棲している二人のバレンタインの話。

ショコラの魔法


 今日がチョコレートの祭典だという事を、栗木ロナウドは街中の飾り付けで気が付いた。
 自分には関わりのない事と思いかけたロナウドは、ふと浮かんだ顔に悩ましげに眉を寄せる。……浮かんだのは、ロナウドの恋人である年下の少年の顔。
 男同士である自分たちが仲睦まじい恋人となっているなんて未だに信じられないが、ロナウドが少年を好いている事は間違いなく、彼を大切にしたいと思っている事もまた間違いない。
 ――彼に、贈り物をするべきだろうか。
 海外のバレンタインデーは男女の区別なく贈り物をする日らしいが、日本では主に女性が男性に贈り物をする日だ。男である自分があのキラキラした売り場へ足を踏み入れるなんて、考えるだに場違いだった。
 だがもし、彼が楽しみにしていたら。恋人からの贈り物を期待しているとしたら。
 ……だとすればロナウドは多少の恥なら甘んじて受け、彼への贈り物を入手する為に女性の戦場へ足を踏み入れる事もやぶさかではなかった。


「おかえり、ロナウド」
 にっこり笑って自分を出迎えてくれる少年が与えてくれるものはロナウドにとってかけがえのないものだが、それを言葉で説明するのはひどく難しい。
 ロナウドの傍に居たいからと名古屋の大学を受験し、少年を手離したくないというロナウドの我が儘を受け入れて同棲まで始め、その上いつも真っ直ぐな愛情を向けてくれる少年に対してロナウドが抱く思いは言葉にすると嘘っぽくなってしまいそうで、ロナウドはいつも黙って少年にキスをする。
「今日はハンバーグだよ」
「そうか!湖宵くんのハンバーグは美味しいからなっ」
 自分の仕事が遅くなる時には家事までしてくれる、彼の健気さに触れる度ロナウドは彼を抱き締めたくなる。大体は実際に抱き締めて、笑いながら受け入れてくれる彼がいとしくてくるしくて堪らなくなった。
 彼の作った夕食を食べながら、鞄の中にある場違いに愛らしいラッピングの施された箱を取り出すタイミングを窺っていたロナウドは、視界の端を掠めた物に思わず固まった。
 ……それは、明らかに贈り物めいた菓子類の箱――それも複数――だった。
 ロナウドが凝視している事に気付いた少年は、ああ、と小さく苦笑する。
「サークルの女子に貰ったんだ。これでしばらく甘いものには困らないね」
 人当たりも良く見目よい部類に入る少年が、他の女性から贈り物を貰う事など当然だった。だがロナウドはその可能性にまったく思い至っておらず、思いの外動揺している自分に気付いてまた動揺していた。
 黙りこんでしまったロナウドを不思議そうに見ていた少年は、悪戯っぽい表情を作りロナウドの顔を覗きこむ。
「心配しなくても全部義理だし、本命だったら受け取らないよ。……ヤキモチ?」
「なっ!そ、そんな訳ないだろう!」
 慌てて否定したが、ロナウドの胸中ではもやもやと妙な感情が渦巻いており、それは少年と同年代の愛らしい女性が彼に贈り物を渡すところを想像するとますます膨れ上がった。
 未知の感情に戸惑うロナウドは、少年が少し残念そうな顔をした事に気付かず、また、自分が贈り物を渡しそびれた事にも気付かなかった。


 今更渡せない。夜半のキッチンで例の贈り物の箱を見詰めながら、ロナウドは溜め息を吐いた。
 ――むさ苦しい男に貰うより、可愛らしい女性に貰う方が嬉しいに決まっている。比べられるのすらなんだか嫌だった。
 ロナウドは何度か迷ってから、少年への贈り物をごみ箱へと放り込んだ。そしてさっさと忘れてしまう為に、ベッドへと潜り込んだのだった。
 ……数時間後。
「ロナウド、ロナウド起きて」
 深夜に揺り起こされたロナウドは、自分を起こした張本人を見て困惑した。……少年は、怒っているようだった。
「ねえ、これ何」
 問うより先に差し出されたものを見てロナウドは呻いた。少しひしゃげたそれは、確かに捨てた筈の贈り物だった。
「あ、いや、それは……そう!同僚に貰ったんだが洋酒が入っているようでな、悪いとは思ったが捨て」
「メッセージカード俺宛てなんだけど」
 ロナウドは自分の失態に舌打ちしたい気分だったが、それよりも何故目の前の少年が怒っているかの方が重要だった。恐る恐る表情を窺うと、彼は怒っているだけではなく、なんだか悲しそうな顔をしていた。
「……なんで俺にくれなかったの」
 少し震える声がくるしくて、ロナウドは少年の手を握ろうと手を伸ばしたが振り払われる。ずきりと胸が痛むのをこらえながら、必死にロナウドは彼を納得させようと口を開いた。
「湖宵くんは女の子から沢山貰っているようだったから、男の俺なんかから貰っても嬉しくないと思って、それで」
 言葉が終わるより先に、少年はロナウドの頭をはたいた。
「馬鹿!ロナウドの馬鹿!俺はっ、俺はロナウドが好きなんだから、ロナウドから貰うのが一番嬉しいに決まってる!」
 べちべちと何発もロナウドを叩いていた手が、段々弱々しくなって最後には頭に手を置くだけになる。
「……ロナウドは、俺がロナウドのこと大好きだって、知ってくれてると思ってた」
 胸が締め付けられるような、消え入りそうなその声を聞いた瞬間、ロナウドは無理矢理少年を抱き寄せた。
「すまないっ、すまない湖宵くん……!君はこんなに俺を想ってくれていたというのに俺は、俺は何をして……!」
「ロナウド……俺、ロナウドが好きなんだよ」
「ああ、ああ……!俺も君が好きだ!」
 力一杯少年を抱き締めて、胸が苦しくて、ああ、とロナウドは気付いた。このもやもやとしたものは、名付け難い感情はきっと。
「……愛してる」
 ぴくりと体を震わせた少年から手を離さずに、ロナウドは何度も繰り返した。
「愛してるんだ、湖宵くん、君を愛している……!」
 ロナウドがそっと少年の顔を見上げると、少年は大きな目を今にも泣き出しそうに潤ませてロナウドを見ていた。震える唇が、たどたどしく言葉を紡ぐ。
「俺も、ロナウドが大好き、愛してる……」
 ――そして二人はどちらからともなく顔を寄せ、キスをした。


「新しいプレゼントを用意しないとな」
 翌朝、ベッドの中の少年にコーヒーの入ったマグカップを渡しながら、ジーンズ姿のロナウドが言う。
「俺、これでいいけど。ロナウドが折角選んでくれたんだし」
 ベッドサイドに置いてあったひしゃげた箱を取り上げた少年に、ロナウドはぶんぶんと勢い良く頭を振った。
「それじゃ俺の気がすまない!湖宵くんを傷付けてしまった埋め合わせに、もっといいプレゼントを用意しないと!」
 苦笑した少年は、ふと何かを思い付いたような顔をして箱をロナウドに差し出した。
「じゃあさ、付加価値をつければいいんじゃない?……あーん、って食べさせてよ」
「えっ?!」
 ぎょっと目を見開いたロナウドは、少し迷いながら箱を受け取り、蓋を開けて中からトリュフチョコを取り出した。二本の指でつまんだそれを少年へと差し出し、彼が雛鳥のようにチョコを口にする仕草にどきりとする。
「……おいしい。これ結構いいチョコだね、……もう一個ちょうだい?」
 ねだられるままもう一つつまんで差し出すと、少年がチョコを口にする時にその唇が指先へ触れて、ロナウドはそこからじんわりと体が温かくなるような心地がした。
 もごもごと口を動かす少年を見ていると堪らなくて、ロナウドは、少年の顎を掬い上げてキスをした。
 甘い甘い、チョコレートの味がした。


《終》

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